《あらすじ》
自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよなーーー。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある事故死をきっかけにそれぞれの人生が重なり始める。だがその繋がりは、“多様性を尊重する時代”にとって、ひどく不都合なものだった。
読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。
【要約・感想】P119-P137
桐生夏月
2019年5月1日まで、311日(平成から令和へと元号が変わるまで)
出しっぱなしだった水の音が止まった。
テレビでは「おじ恋」のプロデューサーの特集が流されいる。これからは多様性であると社会に訴えかているコメントを聞くと夏月は苛立ちはしないまでもその程度の視野でもてはやされている人がいるという現実をただ白々しく思う。
母は多様性について理解していることを示しているが、結婚どころか恋人がいた気配もない一人娘という存在を自分たちに納得させるようにしている姿に触れると、いたたまれない気持ちになる夏月である。
そういえば結婚式兼同窓会で流すお祝いメッセージを西山修に送らないといけないことを思い出した。またSATORU FUJIWARAという名前をみるたびに佐々木佳道を思い出す。
夏月が今はまっているチャンネルがある。それは小学生二人が運営している動画である。視聴者からの反響を喉から手が出るほど欲していることが画面越しにも明確に伝わってくる理由のためこのチャンネルに目をつけたのである。
森の奥にある末路の湖へと進んでいる気持ちになる。この感覚は夏月は好きである。生きてるだけでこちらに迫ってくるものよりも、人目を忍んで世間を掻き分け突き進まないと辿り着けないものに触れていたい。
動画を見る前にコメント欄をのぞく。あらゆる十代の男子が運営しているチャンネルで、罰ゲームで電気あんまをリクエストしている人がみかける。それはSATORU FUJIWARAである。そして実際に二人の少年が戯れる様子を眺める。この動画は再生回数が伸びるだろう。股間を刺激されながらもだえ苦しむ少年の姿を眺めながら思う。
繋がりそうで繋がらない断片たち。思わぬ形で星座として結ばれる前の星のように、ばらばらな位置に顔を出している。
佐々木佳道が転校直前に報道されたとある窃盗事件。校舎の裏の水飲み場で交わした僅かな会話。食品会社の採用ページに掲載されていた入社理由。
繋がりそうで繋がらない。
そう考えていると電話が鳴った。門脇(同級生の渡辺かおる)からだった。
【修が死んだ】
思い浮かんだのはベビーカーの中で泣いていた修のこども莉々亜の顔だった。命のすべてを使い切るみたいに泣いていたあの姿...
多様性だからといって、親は本音では娘の結婚について心配している。夏月は申し訳なく思ってしまうのである。結婚は親のためにするのだろうか。いや自分の幸せのためにするべきだと私は考えている。
だから夏月に言ってやりたい。申し訳なく思わなくていいよ。って
SATORU FUJIWARAと佐々木住道が重なりあってる。一体何が過去にあったのだろうか。
小学生のYouTubeチャンネルにリクエストをしているが、見方によっては児童ポルノの件が頭に浮かんでしまう。
直接的ではないが、間接的に接触してきている。事件に発展しないといいのだが少し心配である。
そんな時に西山修が亡くなった知らせが入る。
とうとう登場人物のなかで、死者がでてしまった。今後どうように話が展開していくのだろうか。
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