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  • 度し難き一族

    「鳩山サンは冷血だ。とかく義理ってもんを欠く」 とは、彼の農地の小作らが、常々こぼした愚痴である。 この場合の鳩山は、憲政史上の恥さらし、生きた日本の汚点そのもの、ルーピー由紀夫にあらざれば、友達の友達がアルカイダのメンバーだった、逝いて久しい邦夫くんでも、むろんなく。 彼ら兄弟の祖父である、「ハトイチ」こと鳩山一郎こそを示したものである。 (Wikipediaより、鳩山一郎) ハトイチくんは不在地主だったのだ。北海道の角田村、今の地名に換言(なお)すなら北海道夕張郡栗山町一帯に広大な土地を所有(も)っていた。 顧みれば明治二十七年度、一郎の更に先代である和夫があれこれ動き廻って、国有地の払い…

  • 諭吉の預言 ―もはや地主は割には合わぬ、避難するなら今のうち―

    また福澤が預言的な内容を『時事新報』に書いていた。 「田畑山林を人に貸すは、富人にありながら貧民を相手にして、貧乏人の銭を集めて富豪の庫に納る仕事にして、然かも貧富直接の関係なるが故に、人情として貧人の無理を許さゞるを得ず、之を許さゞれば怨府たらざるを得ず。仁と富と両立せざるものは正に地主の境遇にして、其苦心は如何ばかりなるべきや」 ――地主という商売は、これからどんどん割に合わなくなるだろう。 おっそろしく煎じ詰めて表現すれば、だいたいそんな風になる。 何故かと言うに、年を追うごと小作の側が理屈っぽくなるからだ。 「是れも封建時代に数百年の関係を生じ、人事都(すべ)て穏なる世の中なれば、地主…

  • リトマス試験紙、徳川氏

    一種の「リトマス試験紙」だ。 明治の書物を手に取る場合、著者が旧幕体制を、ひいては徳川家康を、どのように評価していたかにより買うか否かを決めている。後ろ足で砂をかける無礼を犯しちゃいまいな? と、立ち読みしながら常に気を遣うポイントである。 (フリーゲーム『芥花』より) 如何に維新の「負け組」に転落し去ったとは言えど、二百五十年の永きに亙り日ノ本を能く統治した、その実績まで葬り去られるべきでない。歴史には敬意を払わねば。江戸徳川の泰平を、暗黒時代と一蹴されてはかなわない。あまりに心が無さすぎる、人でなしの所業であろう――。 そうした点で植木枝盛は失格であり、陸羯南は合格だった。 左様、羯南、陸…

  • 大漁百萬燈

    一網に百萬燈や蛍いか 富山に伝わる歌である。 詠み手は知らない。 名も無き地元の民草か、いつかの旅の数奇者か。 はっきりと断言できるのは、ご当地名物、ホタルイカ漁を題材にした代物であるということだ。 (Wikipediaより、ホタルイカの辛子酢味噌和え) 今年――すなわち令和六年春季に於いては、またずいぶんと「爆湧き」だったと聞き及び、景気の良さに、ちょっと便乗したいというか、あやかりたい気分になった。 その衝動に誘われるまま、少し書く。 本来、深海を棲み家としている蓋し小形のこのイカが、日本の理学界隈に興味を持たれ出したのは、遡ること百二十年、明治三十七年時点。言わずと知れた日露戦争まっさか…

  • プロパガンダ ―ペンは一個の兵器也―

    日露の仲が急速に殺気を孕みはじめた時分――。 二葉亭四迷は誰に頼まれたわけでもなしに、全然己一個の意志で単身シベリアへと渡り、彼の地に俄然集結中の帝政ロシアの軍の規模、兵装の質、統制如何、士気の充実はどうだのと、彼らについてのありとあらゆる情報を血眼して蒐集(あつ)めるという、間諜めいた、否、間諜そのものの行為をやった。 (Wikipediaより、二葉亭四迷) その結果として、 ――これなら勝てる。 と、確信するに至ったらしい。日本内地に帰還(かえ)るなり、四迷はそりゃもう激烈にも程がある主戦論を打(ぶ)ちだした。 軍当局に報告書を上げもした。紙数にして三百枚を数えるほどの厚みがあって、専門家…

  • 真宗五人娘たち

    前回の補遺として添えておく。 かねてより報されていた通り、昭和六年九月十六日京都西本願寺にて得度式が行われ、真宗史上初となる女僧侶の集団がめでたく地上に現出(あらわ)れた。 (西本願寺) とち狂った男性優越原理主義者が金切り声を上げながらポン刀片手に乱入して来るだとか、そうした椿事も起こらずに、厳粛かつ円満なる雰囲気のまま一切は完了したようだ。 さて、この日。 誕生した女僧侶の群れの中、とりわけ強く異彩を放つ五人組の姿があった。 三重野知々子、関沢章子、大平悦子、林淑子、須田智嘉子。 この五名である。 彼女らは皆、等しく日本女子大学を卒業済みの、当時に於ける「インテリ女子」に他ならぬ。 (Wi…

  • 世に平穏のあらんことを

    例の「真宗に山寺なし」も然りだが――。 仏門諸流多しといえど、どうも福澤先生は、浄土真宗を買っている。その傾向が大である。 「真宗は由来久しくして、国民の信心最も深く、且その宗義も能く民情に適したるや、凡そ日本国中に於て宗門の勢は真宗の右に出る者なく、日本は仏法国即ち真宗国と云ふも不可なきが如し」。――御当人の文に徴して明らかである。大和民族の精神に至妙至当によくなじむ(・・・)、さりとてはのモノと心得、期待をかけていたようだ。 (Wikipediaより、親鸞筆「三帖和讃」) 何の期待か。 言うまでもない、日本国民の思想善導、特にいわゆる下層階級、智慧に乏しく迷信深い、世の大多数を占める人々の…

  • 渡島篤農ものがたり

    篤農家という単語自体が死語となりつつある現下、藤田市五郎の姓名を記憶している日本人が果たしてどれほどあるだろう。 北海道の農業を開拓したひとりだが、屯田兵ではないようだ。 それよりもずっと根が深い。 淵源は実に十八世紀、寛政元年時点にまで遡り得る。 徳川将軍は十一代目、家斉が治めるご時世で。――八五郎という人が、どうした事情に由るものか、盛岡藩領二戸郡から態々この地(渡島)にやって来て、荒れ地に鍬を打ち込んだ。 (『農具便利論』より、鋳鍬にて畑を耕す図) 以来由蔵、市五郎と、三代続けて土を掻く、「農」の家系を織りなして――。これだけ由緒を重ねれば、もはや地生えといっていい。 さて、藤田市五郎。…

  • Return to normalcy

    筆者(わたし)の中でハーディングが、今、熱い。 左様、ウォレン・ハーディング。 第二十九代アメリカ合衆国大統領。 共和党所属。 魅力的な人物だ。 (Wikipediaより、ハーディング) 彼の演説、あるいは談話を発掘すればするほどに、否が応にも興奮募り、体温上昇、脈拍加速を自覚せずにはいられない。 例えばコレなどどうだろう。 「今や軍備制限説は漸次世界に蔓延しつつあり、されども地球上の他の諸国が悉くその武器を地に委するまで、我が米国は、国防の第一線として、世界最大の海軍の支持を持続せざるべからず」 実に素敵なセリフであった。 第一次世界大戦終結後、払った犠牲の夥しさに胆を潰した各国は、かかる惨…

  • 九州火の国熊本城下、良縁求めてえんやこら

    集計が出た。 しめて一万二千四百十三件。この数字こそ1930年、元号にして昭和五年を通じての、九州火の国熊本一県下に於いて成立したる婚姻数に他ならぬ。 「減ったなァ」「ああ、去年と比較(くら)べて四百ばかりの減少だ」「不景気に歯止めがかからぬ以上、仕方あるまい」「結局それか。聞いたかね、岐阜の山奥あたりでは、貨幣経済が崩壊したぞ。物々交換が商取引の主流として復活したとの評判だ――」 実務に当たった吏員の間で、こんな会話が、きっと取り交わされたろう。 ちなみに昭和五年から数えてちょうど九十年目、令和二年時点に於ける熊本県内婚姻件数はというと、調べてびっくり「六千七百九十三件」! 五桁を逃すどころ…

  • 敵意の大地に種を蒔く

    維新以後、大和島根に文明国家を建てるため、大日本帝国はドイツを大いに範とした。 なかんずく、医療と軍事の両面で、その傾向が顕著であった。 田代義徳、佐藤三吉、入沢達吉、長井長吉、金杉英五郎、朝倉文三、鶴見三三、大沢岳太郎、そしてもちろん北里柴三郎。――「医」の方面に限っても、独国留学経験者たるや千人の大台を突破する。大正三年八月二十三日までの――欧州大戦勃発し、日本がドイツに宣戦布告を突き付けて、一度関係が破綻するまでの期間に於いてもう既に、だ。 (実験動物――兎の耳への静脈注射) ドイツのめしを喰い、 ドイツの水を飲み、 ドイツの空気を呼吸して、 ドイツの紳士淑女と交際(まじ)わり、 ドイツ…

  • 毎度おなじみ旱天飢饉、餓鬼が地上を練り歩く

    唐土に飢餓は稀有でない。 ぜんぜんまったくこれっぽっちも珍しからぬ現象だ。 定期的に発生(おこ)っては山の様な餓死体と流民の群れを作り出し、王朝の足下をグラつかせ、野心家に垂涎の機会を恵む。恒例行事の一環と看做すも可ではあるのだが、しかし1920年に生起した、「華北大飢饉」の名で知られるそれ(・・)は、「いつもの」と軽く流すを許さない――規模の面にて、あまりに常軌を逸脱しきったモノだった。 なんといっても、罹災民は三千万だ。 (支那の田舎の市場の様子) どうせいつもの誇大広告、実数はだいぶ落ちるだろうが、たとえ十分の一だとしても三百万人、相当以上の数である。 どこからどう手を付ければ良いのか、…

  • いつの間にやら、あと僅か

    高須梅渓は繰り返し、健康の重要性を説く。 強靭な肉体の中でこそ、雄渾な思想が練り上げられると、そう信じていたようだった。 (大日本帝国海軍、甲板上の相撲) あるいは斯かる傾向は、「人間五十年」という決まり文句すら満たせずに中途死なざるを得なかった、明治・大正の文士らを記憶に留めていたゆえの反動だったやもしれぬ。 梅渓自身が箇条書きっぽくしてくれている、 「樋口一葉女史は僅かに二十七歳で死んだ。『西洋哲学史』の大著を書いた大西操山氏は三十七歳で死んだ。『吾人は須らく現代を超越すべからず』と叫んだ高山樗牛氏は、三十三歳で死んだ。『病間録』に見神の実験を告白した綱嶋梁川氏は、三十六歳で死んだ。其の他…

  • 独り身たるの罪深さ ―共和国家の「独身税」―

    吉江喬松(たかまつ)。 早稲田大学に教鞭を執る仁である。 留学から帰ったばかりのこの人が、面白いことを言っていた。大正九年の秋に於いての御講義だ。 (Wikipediaより、昭和初頭の早稲田大学) テーマはズバリ、「フランスの人口政策について」。 その身を以って実際に見聞した四方山(よもやま)を論じてくれた次第(ワケ)だった。 「フランスの人口問題は漸く解決され掛って居ます。一時死亡率が出産率を越えましたが今は反対になりました。之は国民的な自覚と一方には政府の政策が行はれたので、即ち今年五月頃から三十歳以上の男子の独身者に独身税を課すると同時に、三人以上の子を持つ夫婦は多人数の家族として保護を…

  • 赤い津波に呑まれたる

    大正三年十一月十六日に認可の下りた特許二六八四九號、『四季常用魚類乾燥装置』の明細書を紐解くと、一目で面白い事実に気付く。 発明者の名が、日本人のそれ(・・)でない。 ゲオルギー・イワノヴィッチ・ソコロフ。 帝政ロシアの民である。 (樺太にて、鰊の「棚掛け」、乾燥過程) バーチャスミッション、スネークイーター作戦等々、『MGS』を知る者ならば、一種特殊な反応を示しそうな名であった。 生まれはオデッサ、黒海に面した、例の街。 「例の街」で十分罷り通るほど、ここ数年で急速に、一般的な日本人の鼓膜にも親しくなった名の土地だ。 ソコロフの家は、ここで代々、水産加工食品を作って売って稼業としてきたものだ…

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