「おばあちゃん」のイメージが覆る?「おばあちゃん姉妹探偵① 衝動買いは災いのもと」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

作家で詩人、ピューリッツァー賞候補にもなった著者のアガサ賞受賞作がこちら。格式が高い作品?と思いきや、予想を裏切るズッコケぶりが楽しいミステリ。

パトリシア・アンは身長154センチ、体重48キロ、60歳の元教師。夫のフレッドとは40年間連れ添っている。65歳の姉メアリー・アリスは身長178センチ、体重113キロで3人の夫に死に別れた。家で出産していなければ、病院で取り違えられたのではないかと思ってしまうほど似ていない姉妹だ。メアリー・アリスが気まぐれに買ったバー、<スクート&ブーツ>で、前のオーナーのエドが死体で見つかったことから、2人は事件に巻きこまれる。

姉妹ふたりに”探偵”を期待すると、肩すかしを食らう。読み終わって記憶に残るのは、2人の探偵ぶりではなく、事件への見事な巻きこまれっぷりとどこかズレたやり取り。登場人物同士の会話やパトリシア・アンの独白の面白さがクセになる。著者はすでに亡くなってしまったが、シリーズはあと2作邦訳されているのでこれから読むのが楽しみ。

アン・ジョージ 寺尾まち子訳 おばあちゃん姉妹探偵① 衝動買いは災いのもと コージーブックス

「キュン」のある毎日を大事にしたい「好きになってしまいました。」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

「風が強く吹いている」、「神去なあなあ日常」、「舟を編む」など、独自の視点で描かれた三浦しをんさんの作品を欠かさず読んできた。無類の本好き、マンガ好きとしても知られる著者の最新エッセイを久しぶりに発見し、思わずサイン本を購入。

2012年から2022年のあいだに、いろいろな雑誌・新聞で書いたエッセイを一冊にまとめたもの。一章は「日常の中の美」をテーマにした比較的新しい作品だが、そこはこの著者。ユーモラスな日常はクスっと笑える。二章と四章が旅に関するもの、三章が本、五章が比較的最近の日常エッセイ。一冊まるごと著者らしさが満載。

「愛なき世界」で植物を題材にしたこともある著者。第一章を読むと、これも著者の「好き」から生まれた作品だったのではと思える。旅に関しての章を読むと旅に行きたくなってくる。旅の思い出は「人」というところに共感しきり。さらに、いつも楽しみにしている三浦家の面々が登場しているのもうれしい。久しぶりに懐かしい友達に会った気分を味わえた一冊。

三浦しをん 好きになってしまいました。大和書房


これぞ不朽の名作ミステリ「ナイルに死す」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

アガサ・クリスティーが「外国旅行物」の中でもっともいい作品のひとつと考えていた本作。数々の映画やドラマになり、日本を含む各国で舞台化された。

社交界の花形であり財産家でもあるリネットとその夫サイモン。エジプトをハネムーン中の2人をつけ狙うのは、サイモンの元恋人のジャクリーン。ナイル河観光船の中でそんな3人の関係に気づいたポアロはジャクリーンに忠告するが、忠告もむなしく事件が起きる。

今も記憶に残る、ピーター・ユスチノフがポアロ役をした大作映画「ナイル殺人事件」。ジャクリーン役はミア・ファローだった。原作では始まりと終わりにリネットの地元のパブのオーナーと常連との会話があり、壮大な物語を締めくくっている。トリックの意外さが突出しており、悠久の歴史の舞台を背景とした何とも言えない結末がほろ苦い。果たしてこれは愛の物語なのか? 何度も読み返したくなる。

アガサ・クリスティー 加島祥造訳 ナイルに死す ハヤカワ文庫

古きよき時代のグランドホテル・ミステリ「メナハウス・ホテルの殺人」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

アガサ賞といえば、アガサ・クリスティに敬意を表したミステリ文学賞。長編賞、歴史小説賞、短編小説賞と並んで、優秀なデビュー作に与えられるデビュー長編賞がある。これは、異色の経歴を持つ著者の2020年最優秀デビュー長編賞受賞作。

時はアメリカ禁酒法時代の1920年代、若くして戦争未亡人となったジェーンは、叔母のつきそいでピラミッドを見渡せるカイロのメナハウス・ホテルに滞在していた。豪華なホテルでゆっくりと過ごすはずが、ふとした行き違いがあった女性客が客室で殺害されたことから、ジェーンは警察から疑われる羽目に。疑いを晴らそうと独自で調査を始めるが、その後も事件は続き……。

本作でデビューの著者は、軍隊で11年、警察で2年の勤務経験があり、実父は警察署長というミステリのサラブレッド(?)。傷を抱えるヒロインやわけありの登場人物など、古きよきハードボイルドや冒険小説の風情も感じさせ、独自の作風は今後期待大。英国が舞台の第2作も刊行済みというから、今後が楽しみ。

エリカ・ルース・ノイバウアー 山田順子訳 メナハウス・ホテルの殺人 創元推理文庫


ロマンチックな古い橋「死ぬまでにやりたいことリストVol.2 恋人たちの橋は炎上中!」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

70代のシニア女性たちの「死ぬまでにやりたいことリスト」を題材にしたミステリの2作目を読んでみた。探偵役のシャーロットの「セクシー写真を撮る」という夢のために訪れた古い橋で事件に巻きこまれるメンバーたち。さて、どうなる?

「屋根付き橋フェスティバル」でにぎわうインディアナ州パーク郡のローズヴィル橋。主人公フランシーンと夫ジョナサンのロマンチックな写真を撮るためにそこを訪れたサマーリッジ・ブリッジクラブ一行の耳に突如銃声が響く。そこには、ライフルの銃撃から逃げる男の姿。川に落ちた男を助けてみると、それはなんとフランシーンのいとこだった。意識不明の彼が持っていたのはフランシーンの祖母の日記と小さな瓶に入った謎の液体。フランシーンはシャーロットに引きずられる格好で事件を調べるが……。

今度の夢は「ピンナップガールになる」こと。そのためのカレンダー写真撮影で事件は起こる。1作目よりも早いテンポで進む本作、前回のカーレース同様、フェスティバルや屋根付き橋を取り入れており、どことなくトラベル・ミステリの味わいも。フランシーンの曾祖母のロマンスがあることになっている「屋根付き橋」。そういえば、かの映画「マディソン郡の橋」にも登場。屋根付き橋には屋根だけでなくロマンスもつきもの?

エリザベス・ベローナ 子安亜弥訳 死ぬまでにやりたいことリストVol.2 恋人たちの橋は炎上中! コージーブックス


人生が完成する日とは「ふたりからひとり ときをためる暮らし それから」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウン。昭和43年に開発されたその町の、自然と融和したコンセプトに感動した。その建設に携わったつばたしゅういちさんとその妻英子さんのライフスタイルはドキュメンタリー映画にもなった。この本には、90歳で亡くなったしゅういちさんの生前の言葉やその後の英子さんの暮らしが描かれている。

造成地に建つ丸太小屋が2人の住居。広い庭と畑があり、手作りの野菜、果実、季節の花々が日々を彩る。2015年に午睡中にしゅういちさんが亡くなったあとも、英子さんは半世紀前からそうしてきたような暮らしを営む。手料理の作り方や、2人のこれまでの暮らし、88歳のしゅういちさんのタヒチへの一人旅についても語られる。

初めてお2人の姿を見たのは、なにかのテレビ番組。英子さんが焼いたケーキやおいしそうな料理、それにセンスのある室内のしつらいなど、こんな生活をしている人がいるんだと感動。プロローグに引用されたサマセット・モームの言葉が心に残る。しゅういちさんは、まさにそれを実践されたように思える。お2人にはとても及ばないが、少しでも見習って生きたいもの。

つばた英子 つばたしゅういち ふたりからひとり ときをためる暮らし それから 自然食通信社



ありそうでなかったヒストリカル・ミステリ「侯爵さまがあやしいです」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

「ヒストリカル」といえばロマンス小説の分野ではファンも作品も多いが、ミステリ作品は案外少ないのでは。今からは想像できないほど身分が厳しかった時代のミステリとは? さっそく読んでみた。

ベアトリスは幼少期に両親を亡くして、叔母の家に居候中。20年に及ぶ居候生活ですっかり引っ込み思案になった結果、26歳の今は世間でいう「行き遅れ」に。そんなある日、叔母の学友である伯爵夫人のハウスパーティーに招かれ、図書館で死体を発見してしまう。そこには、イケメンだが知識をひけらかしてベアトリスの反感を買っていたケスグレイブ公爵の姿が。まさか、公爵が犯人? ベアトリスは事件を調べ始めるが……。

このミステリシリーズはすでに11冊出版されているようだが、著者はロマンス小説でデビューしたらしい。たしかに随所にそれらしい”くすぐり”が見られる。”自分らしさ”を封じてきた主人公が、本来の利発で聡明な姿を取り戻す姿はすがすがしい。謎解きというよりも、叔母さんや”絶世の美女”の言動など、くすっと笑えるキャラクターが面白い。ほろっとさせるところもまたよし。今後のシリーズで主人公がどう変貌していくかが楽しみ。

リン・メッシーナ 箸本すみれ訳 行き遅れ令嬢の事件簿1 公爵さまがあやしいです コージーブックス

老後も人次第?「ここが終の住処かもね」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

久田恵さんといえば『フィリッピーナを愛した男たち』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したノンフィクションライターだが、近年は都会を離れ、自然豊かな土地のサ高住にお暮しになっているはず。その経験で書かれたに違いない本書、興味津々で読んでみた。

70代の主人公カヤノは、仕事で訪れた風光明媚な丘陵地の「サ高住」が気に入り住人となった。入居金は亡父のホーム退所金を充て、月々の費用は年金と自宅に戻ったアラフォーの娘と息子からの家賃でまかなう。シングルマザーとして育てた娘は仕事はあるがシングル、さらに息子は定職にも就いていないが、心の平安を得るためカヤノはなるべく干渉しないことにしている。とはいうものの、自分や入居仲間の家族をめぐる問題に巻きこまれて……。

著者もご両親を介護ののち亡くされ、シングルマザーとして育てた息子さんがおられるはず。どれだけご本人と重なっているかはわからないが、ひとつひとつのエピソードにリアリティがあるのはそのため? 家族の問題はそうそう解決しないが、丘陵地の折々の自然のなかで、カヤノの持つ何かが人々をつなげていくストーリーは読んでいてホッとする。めんどうくさいことも多いが、老後もやっぱり人あってこそ?

久田恵 ここが終の住処かもね 潮出版社


ザ・推理小説「皇帝のかぎ煙草入れ」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

ミステリといえば、ジョン・ディクスン・カーを忘れてはならない。英ミステリの女王クリスティに「このトリックには脱帽」と言わしめた名作を新訳で読んでみた。

不実な夫ネッドとの離婚を果たし、フランスの避暑地に暮らすイギリス人女性イヴ。向かいの家の一家と懇意になり、息子のトビーと婚約する。ところが、トビーの父親であるサー・モーリスが殺害された夜、寝室に前夫が忍び込んでいたことから、誤解を恐れて無実を主張できないイヴは殺害の容疑者になってしまう。

カーの探偵役というとフェル博士やヘンリ・メルヴェル卿が有名だが、本書に登場するのはその2人とは別の人物。物語はサスペンスタッチで描かれ、特にサー・モーリス殺害の夜のイヴの寝室でのネッドとのやり取りは緊迫しているが、読者よ欺かれることなかれ。この作品は、まさにカーらしい謎解きミステリ。随所に手がかりがちりばめられている。ミステリ・ファンなら読んで損なしの1冊。

ジョン・ディクスン・カー 駒月雅子訳 皇帝のかぎ煙草入れ 創元推理文庫


受けつがれる「思い」とは「よき時を思う」

これまで6000冊以上の本を読んで記録してきた。

これまでずっと読みつづけている作家は何人かいるが、この方もそのひとり。久しぶりに新刊が出たので、さっそく読んでみた。

29歳の綾乃は、90歳になる祖母の徳子から赤銅色の端渓の硯を譲られる。16歳で最初の結婚をした徳子は結婚後わずか2週間ほどで出征した夫を失い、教師となったあと綾乃の祖父と再婚した。逸品の硯ばかりでなく、来歴を持つさまざまな品物を孫たちに譲り始めた祖母は、90歳の記念に、かつての教え子である一流フランスシェフの手による家族のための豪華な晩餐会を開く。

物語の底に流れるテーマはおそらく「受けつぐ」ということ。それは「モノ」ではなく「思い」。来歴は「物語」であり、人が何者かであるかを示すもの。人によって意味を与えられるものだ。本書の中で、ある「思い」を持って家族のために徳子が開いた豪華絢爛な晩餐会は、人の晩年の仕事としては最高のものではないだろうか。そして、「思い」を受けつぐのは何も血縁だけとは限らない。誰かがそこに注いだ「思い」は、きっと次につながっていくと信じたい。

宮本輝 よき時を思う 集英社

参加ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村

家にあふれた本を売りたい方には

どうしても読みたい本には

全記事表示リンク

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR
  翻译: