ⅰ.庭の木々にぶら下がる甘酸っぱい香りの柘榴は落ちる時異様に耳に留まる音がした。ピアノを弾いている時それが聴こえると僕の手は静止する。グノシエンヌの符号が裁断されるような、殺されていくような、そんな感覚がする。息を止めて感覚を反芻する。脳内だけで知らない音楽が鳴り始め、みぞおち辺りから吐き気とは少し異なる蠢きが込み上げてくる。ⅱ.鍵盤を見ている僕の目が鍵盤を見ているという意識を自ら手放して、それから、どのくらい経ったのか、あるいは1秒しか経っていないのか、僕の頬は冷たい鍵盤に横臥し、真っ白な平面が目先に連なっているようだった。ゆっくりとこめかみから汗が伝ってゆき、遂に口許へ入り込んできた矢先少…