アメリカ作家ル=グゥイン氏による「西のはての年代記」シリーズの第3弾です!
2020/05/25 09:40
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、アメリカの小説家で、SFやファンタジーと得意とするアーシュラ・クローバー・ル=グウィン氏の作品です。実は同書は、ル=グウィン氏の「西のはての年代記」シリーズを構成する「ギフト」、「ヴォイス」に続く第3弾です。内容は、西のはての都市国家エトラが周囲の諸都市と戦を繰り返しており、主人公の少年ガヴィアは、幼い頃、姉と共に生まれた土地からさらわれ、エトラの館で奴隷として育てられていたという背景からストーリーが始まります。しかし、その少年はたぐい稀な記憶力と不思議な幻を見る力が備わっており、ある日を境に彼の回りのすべてが変わっていきます。果たして、彼は、彼の周囲はどうなっていくのでしょうか?続きは、ぜひ、同書をお読みください。なお、河出文庫では、「パワー」は上下2巻で刊行されています。
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都市国家でよい待遇とは言え奴隷として育ったガヴィア。
姉を喪った事がきっかけで、お館を出て行ってしまう。
心も身体も放浪する彼が、時間によって、出会った人々によって少しずつ癒されていく。
悲しいことがあったら、ちゃんと泣くんだよガヴィ
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ギフト、ヴォイスと言葉の力、本の力にまつわる物語が語られて、そして、最後はパワー。文庫版だと、上下2巻。西の果ての年代記の最終巻。
奴隷として、幸せな(!)生活を送る少年が、自由と自分に目覚めていく物語。
西の果ての年代記は、ゲド戦記にくらべると、著者が今の世界の比喩として生み出した世界ということがちょっとわかりやすい気がする。
『パワー』でも、奴隷制で描かれる世界を読みながら、自分自身の精神の自由について考えてしまって、ときどき苦しい。
例によって、少年は特別な力を持つが、その力が少年の人生を決定的に助けてくれたり、英雄的行為に導いてくれたりはしない。
ル=グウィンの物語はいつでもそうだから、今回も「きっとそうなんだろうな」と思い、「でも、もしかして・・・」となぜか期待し、「あ、やっぱりそうなんだ」と思う。
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ああ読み終わってしまった。またしばらくしたら三部作通して読みなおしたい。幼い頃に姉とともに兵士にさらわれ、エトラという都市の館奴隷として暮らしていた少年、ガヴィアの物語。ゲド戦記では自分自身の内面の葛藤が主に描かれていたのに対し、こちらは自分だけではどうしようもない部分をも含む社会の制度や偏見や価値観を、どう把握してどう消化してどう向き合って乗り越えるのか、、、ということが描かれているように思いました。
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西のはての年代記Ⅲの上巻~ガヴは西のはての都市国家群のひとつであるエトラのアルカ家の少年奴隷だが,幸せなことに姉がいて面倒を見てくれエヴェラ先生から目を掛けられ次の教師としての教育を受けている。そして,これから起こることを思い出す特別な力がある。思い出したのは,緑の幟を立てた兵士がエトラの町を荒らして回っている様子だった。2歳年長の主人の次男トームと同じ日に生まれた奴隷のホビーは戦争ごっこで苛めに来る。ホビーの目の上を木の剣で傷つけた後は奴隷達によって井戸に逆さ吊りにされ殺され掛けた。トームは奴隷に武器を持たせたことと幼い奴隷の男の子を叩いて殺したことにより夏の農村でのバカンスに同行を許されず,ホビーも男奴隷のバラックに移って力仕事を担うことになる。長男のヤヴェンは優しい陽気な人柄で20歳の士官となると慈愛に溢れる女主人により姉のサロを与えられ,姉も幸せだ。南の都市と抗争が起き,北のカシカーが城壁に迫り,市には独裁官が置かれ,食糧は配給になり,悲壮感が増していく中で,奴隷はバラックに閉じこめられるか,公益の為に使役される。ガヴは城壁防備のための石班に配属され,班長になっていたホビーに執拗に苛められる。姉はヤヴンの子を産んだが月足らずと栄養不足で1時間後には亡くなり,ガヴは知識を頼りにされて書物を父祖廟地下に移動させる任を与えられる。他の館の者から自由に関する詩を教えられ感銘を受ける。南に展開していた連隊が漸く引き上げて市内からの攻撃でカシカー軍を撃退し,姉とヤヴンの幸福な時間が訪れたのも束の間,ヤヴェンが軍務で町を後にした隙をついて,トームとホビーは姉ともう一人の乙女を他の館の別荘に無理矢理連れて行き,姉はプールで溺れて殺された。姉の埋葬後,墓地に留まったカヴは茫然自失となって町に帰らず,荒れ野に赴いた。野人クーガと一夏を過ごし,冬はブリギン一統と,春には森の心臓・バーナの所へ移動し,知識を愛されてカヴは新しい国造りの相談相手として遇される~ル=グウィンと云えばゲド戦記。暗いお話だったが,彼がカリフォルニア生まれ,私の親と同世代だとは知らなかった。西のはての年代記は「ギフト」「ヴォイス」とこの「パワー」。ギリシアやローマの奴隷制がヒントだな。それよりも細かい描写なのは,どうしたら奴隷制を維持できるか,安定させられるかを作者が考えた末だろう。例えば,生まれた子はすぐに交換に出され,母と子の絆を断つとか。絹の囲いに門番を立てるとか。さあ,下巻に取りかかろう
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上巻だけでは何とも言えない。ただ前2作と比べて、奴隷制というさらに難しいテーマをどう料理していくのか興味深く思う。それにしても善悪を完全に二分せず、残酷さも、幸福感も描ける手腕はさすが。
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この物語には、アーシュラ・K・ル=グウィンの頭のなかには、わたしたちが自分が属すると思っている以上の集合体の声が、流れているにちがいない。
わたしは、大きな絶望感と空虚感の最中に、ほぼ偶然これを手に取って読んだ。グウィンは、むろんその腕を最大限伸ばして知識を得ただろうが、それのみに留まらず、実際に起こったであろう(グウィン自身には起きていないだろうが)ことをしずかに聞いたのだと思う。「奴隷」という人びとの受ける扱い、かれら自身が思い込むことで耐える拠り所……わたしとておおよそは本で伺い知った(そうでないところも、いちおうあるが)その考え方の構造のようなもの、そして残酷さを、ゆっくり誠実に、内なる声を聴きながら描き出している。このことはわたしに勇気をくれた。もう少しだけ、グウィンその人が別著で語ったように、「才能に人生を懸けて」みようと思う。むろん、「声」に耳を傾けながら。