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マンケルはノンシリーズものも凄い
2024/11/11 18:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヴァランダーシリーズの最後にすすむまえに、ノンシリーズの本作があったことにいまさらながら気付き、ぜひ読まねばと手に取ったが、やはりマンケル作品だ。
世界の片すみといってもいいようなスウェーデン北部の寒村での事件が、時間も空間も越えて遥かな世界に繋がっている。世界経済のグローバル化と言われて久しいが、物だけではなく人間そのものが商品として海を越えて取引されていた時代(現代にいたってもこの闇のグローバル取引は続いているが)が確かに存在したという重い事実は、上巻を読むだけでも痛いほど伝わてくる。人が人を家畜のように売買する。現在民主主義を掲げている欧米諸国のほぼすべてが、この商取引に手を染め、自国の経済発展に利用してきた。この事実に目をつぶることは決して出来ず、自国の繁栄の礎の最も最下層に埋もれた彼ら彼女らのことを忘れてはいけないと思う。
やがて虐げられた人々も、いつしかそのグローバル経済の波の中から浮き上がり、その波がしらに立って進むようになる。そうなった時、彼らは祖先の受けた仕打ちをどう感じるのか?そういう過去をなかったこととするものもあるだろうし、遅ればせながら世界経済を牽引する立場にたった今こそ、失われた富と成功を取り戻すときだと新たな人々を売買することに邁進するものもあるだろう。
この難しい問題を、凄惨な大量殺人事件をとおしてマンケルは我々に問いかけている。
物語は、大量殺人の犠牲者の関係者であり、かつてはマルキシズムが世界の不平等を解決する絶対的な思想だと信じた女性ビルギッタの目を通して語られる。
60年代に世界の若者たちを虜にしたマルキシズムと、その考えが実現された国家中国に過大な期待と憧れを抱いたビルギッタたちを世間知らずと笑うことはできないだろう。かつてのエネルギーに溢れた自分と、いつしかそこから遠ざかり、恵まれてはいるが共に暮らす人間の心もつかみきれなくなっている現在の自分。二つの視点から事件の根を掘り出すべく、百年前の日記を読み、地球の裏側の中国へと旅立つ。
スケールの大きさが、そもそもこの作品のテーマが、人間の歴史と、その中で繰り返し行われてきた蛮行だということを否応もなく突き付けてくる。下巻の展開が待ちきれない。
北欧から見た中国の姿?
2016/08/30 21:21
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヘニング・マンケル=ヴァランダー警部シリーズ、のイメージがどうしても強いので(『タンゴステップ』も当時ノンシリーズ扱いだったが世界観は共有していた)、ヴァランダーが出てこないのは寂しい。 しかし彼の著作数から考えればヴァランダー警部シリーズはその一部でしかなく、シリーズの邦訳も残りが少なくなっている現在、今後邦訳が待たれるヘニング・マンケル作品はほぼ単独作になるだろうし、そのことに自分自身も慣れなければいけないんだな、というのがこの本を開き始めたときの覚悟だった。 10月に、多分遺作なのであろうエッセイ集『流砂』が出るそうなので、それを読んだらまた気持ちが変わるかもしれないけれど。
スウェーデンの谷間のある小さな村は、ほぼ住人が老人ばかりという過疎の村。 が、ある寒い日の早朝、ほぼ全員の村人たちが惨殺されているのが発見される。 被害者の中に、自分の母親の養父母の名前を見つけたヘルシングボリの女性裁判官ビルギッタは、現場に向かうことに。 何故彼らは殺されなければならなかったのか。 遺品の日記を手掛かりに、ビルギッタは警察に情報提供しながらもいつしか事件を追いかける・・・という話。
冒頭のエピソードだけならほとんど『八つ墓村』のようですが、似ているのはそこだけ。
ビルギッタは裁判官だけど刑事ではないので(個性強そうな警察官も出てきますが)、ジャンルとしては警察小説ではないし、犯人を捕まえる使命感も弱い。 なので広義のミステリではあるものの、これを“推理小説”とは呼びにくい。 むしろ、これは歴史上で移民が果たした役割と、ビルギッタという主人公に託した「かつて共産主義にかぶれた若者だった人々のその後の人生」とをオーバーラップさせて描いた一種の大河物語だから。
でも私は「へー、スウェーデンでも毛沢東主義に傾倒して革命を夢見た人たちがいたんだ」と驚き、日本の学園紛争時にいた「世界同時革命を実現させようとしていた人たち」の考えがまったくの絵空事ではなかったのだ、ということに(実現可能だったか、というのは別にして)、ぞっとする思いがした。 私はそのあとに生まれた世代なので、革命運動にのめり込んだ人たちの気持ちが理解できなくて。
ビルギッタやかつての仲間はまだちょっと毛沢東を美化している感があるけど、距離があるからこんなものなのかな。 日本のほうが中国との距離が近いから、いろんな話題が入ってきてしまう。 しかし彼女たちがかつて夢見た“中華人民共和国幻想”は、日本人も騙された“北朝鮮幻想”とどこが違うのだろうか。 いつの時代も結局、情報をコントロールしたものが優位に事を運ぶことになるのだ。
タイムラグがあるものの(作中での現在は北京オリンピック開催の2年前)、リアル中国の結構近い姿を書いてあるような気がして・・・さすが取材を怠らないヘニング・マンケル。
むしろ、あまり中国に興味のない北欧の人々に向けて現状を知ってもらおうと書いたのではないだろうか、という気がする。 あくまでテーマはそこなので、事件や犯人の重要性は途中でどこかにいってしまってもかまわない、と思ったのでは。
それでも上下巻一気読みですから、彼の情熱はすさまじい。
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