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投稿者:Yo - この投稿者のレビュー一覧を見る
絲山秋子さんは『ばかもの』を読んで以来好きな作家ですが、今回の長編も傑作でした。
「heureuse,malheureuse」(幸せ、不幸せ) とつぶやくヒロインのイメージが美しいです。 読後、もやもやと残る説明できない何かを、いつまでも胸の中で転がして愉しむという、小説の醍醐味を味わわせてくれる作品です。
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【失踪した〈女優〉を追って、平凡な人生が動き出す】時空を超えて足跡を残す〈女優〉とは何者か。大切な人を喪い、哀しみの果てに辿りつく場所とは。透徹した目で人生を描く感動長編。
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なんと、自分でも驚いたことに、単行本で読んでいたにも関わらず、それを忘れ、新刊発刊ということだけで興奮、予約購入し、札幌行きの飛行機の中で満を持して読み始めた途端、読んだことがある!と思いつつも、どっぷり再読している今。。。札幌の夜、一人居酒屋で読んでいる今。
やはり初めて読んだとき同様、胸に沁みる切なさのようなものがある。
傑作。
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第一部 群馬・矢木沢ダム
第二部 パリ
第三部 熊本・八代
他の方のレビューで、村上春樹っぽいという指摘があった。
私も、読みはじめは なんだか春樹的? と頭の片隅にチラついた。
一人称が「ぼく」、謎の人物の登場、女性の行方を追う(主人公の本意ではない)、不意に人が死ぬ、基本的に主人公が振り回されている…と、たしかに春樹作品ぽい設定ではあるのだ。(解説で池澤夏樹さんもすこし言及していた)
弘にまつわる人々がそれぞれとても魅力的。私が好きなのは妹の茜とリュシー。茜が出てくる部分はパァッと物語世界が明るくなり、リュシーの聡明さに弘と一緒になって惹かれた(だからリュシーが死んだ時は本当に辛かった)。
ブツゾウが茜に惹かれたのはわかる気がする。
もっといろいろ書きたいけれど、胸がいっぱいで言語化できない。
静かだけれど、力のある作品だと思う。
池澤夏樹さんの解説も、よい。
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不思議な本。
ミステリーでもないし、恋愛小説でも、ファンタジーでもないが最後は、腹落ちのする本でした。
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死を表現するのに、かつては彼岸此岸というように船旅だった。
どこへ流されていくのかわからない水の流れ。
今回は飛行機の旅にアップグレードされた。
あの広大な待機所で、多くの飛行機が離陸を待っている、というイメージもしっくりくるし美しいし、離陸した飛行機がどこへ向かうのかもわかっている。
しかしそこがつまりはどんなところなのかは、ぼくらにはわからない。
結局人間にとって生死の在り方は変わらないのだ。
変わるのは寓意を読み取る人間の側が、何に生死を重ねて理解できるか、だけだ。
解説で池澤夏樹が村上春樹のクエストものみたいと言っていて、同感。
確かに巻き込まれ型の主人公、女性関係で巻き込まれるという状況、主人公が非主体的に全体を把握するようになる次第とか。
謎に満ちた長編を書くとき、ある程度似てくるのか……。
しかし孤独感の在り方が、似ているようで異なっている。
初期ハルキ好き後期ハルキ苦手、絲山秋子は初期後期問わず好きな者としては、絲山秋子に寄って、
おじさん的な若さや幼さに対する手放しの賛意がない、という点に理由を見つけたい。
箱庭的小説、ではない。
この小説の空は高い。現実以上に。
ほんとうに、ほんとう以上に、この世界は在り、この人たちは読者と連続する空の下にいるかのようだ。
(いない人こそが重要、語り手が対面していない人物が「効いてくる」ことの小説的効能。)
再度池澤夏樹の解説に戻るが、読み終えたいま、もうみんな友達になったような気がしているからだ。
謎は謎のまま。
時間は容赦ない。
なぜなら語り手は決して「物語の主人公ではない」からだ。語り手は部外者。観察者。小説はもはや近代のロマンスではありえない。
語り手の生活は徹頭徹尾、散文的。人の生き死にすら劇的ではない。
小説中のあらゆる人物は、物語的に展開しようとする志向、読み手にとってのおもしろさなど気にせずに淡々と過ごそうとする志向、に引き裂かれるのだろうと思うが、
この小説の語り手は、ぼくは淡々といいつつ結構劇的という、このスタンスが春樹に似ているんだろうね。
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へぇ、絲山さんってこういうのも書くんだ、って感じの小説だった。ダム管理の現場から始まるから、らしいなって思ってたんだけど、読んでいくうちにミステリーのような、ファンタジーのような色合いが出てきてびっくりした。時空を超え、かつパリが舞台の一つになっていることから辻仁成の『永遠者』を思い起こさせるようなところもあったり。最後まで描かれなかったような、消化不良感のある終わり方なのは残念。ミステリーとしてなら、顛末まで読みたかった。
でも、この小説の骨頂は「離陸」なのだと思う。ここでいう離陸とは「ぼくらは滑走路に行列をつくって並んでいる。いや、まだ駐機場にいるかもしれない。生きている者は皆、離陸を待っているのだ。」(p.322)ということ。これはかつて読んだ『沖で待つ』と重なるようなところがある。主人公は近しい人との別れ、死をたび重ねるのだけど、それ以上でもそれ以下でもない、人生というもののとらえ方を描いているようだ。
それにしても、死を離陸と表現するのって面白いね。彼岸とかいうように、何となく船で渡るような感覚でいたけど、向こう側へは飛んでも行けるね、たしかに。
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同性の作家さんは読んでて変に冷めたりして入り込めないので敬遠しがちだが、彼女の名前の字面が好きで手にする事がある。
なんともオチのない結末なのに腑に落ちる。良くも悪くも草食な主役が周囲に振り回された挙句、どう離陸してどこに着地するか…読後にそんな事を考えるのがおもしろい作品。
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絲山さんはこんな静かな物語も描かれるんだ、とちょっと驚いた。
突然佐藤の前に現れた黒人。
「サトーサトー」行方不明の女優を探してほしい、と語り出す。
謎の怪文書を解読しながら、謎の「女優」探しの旅が始まった。
「死」を飛行機の「離陸」に例える佐藤の言葉がとても印象的。
滑走路に向かった飛行機が息を整えるように停止し、ゆっくりと力強く滑走をはじめる。その滑走は悲しみを引きちぎるように加速していき、やがて地上を走ることに耐えられなくなりふっと前輪が浮く…。
まだ生きている私達は滑走路で離陸待ちの状態。
私もいつかみんなに見守られながら無事に離陸できるだろうか。
離陸し飛び立った後、次の行き先へは辿り着けるのだろうか…。
死とは、生とは、人生とは…思いは果てしなく続いていく。
じわりじわりと心に染みる物語だった。
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作品ごとに色を変えてくる絲山作品において、特にこれは、ジャンルとしてミステリの範疇に入れたい一冊。巻末で絲山先生が伊坂幸太郎さんに「女性のスパイものを!」と請われて書いたということを語っていらっしゃるが、まさに堂々のエスピオナージュものである。
また文学として、語り部である主人公の佐藤だけでなく、幾つもの登場人物が、異郷の地にいることや、またときにはその人種や障害などの理由から、人生の舞台に対して、異者である。
他の絲山文学において、異者であることからのサウダージはメインテーマであり、作品の中で特にスコープされると、ぼくは思っている。この作品でも同様であるけど、物語のプロットが移りゆく構成をとっていて、(それゆえにこの作品はミステリであるとぼくはつよく感じているのだけど)観念的に傾きすぎない。観念的とは純文学なる指向だと認識してるのだけど、この作品は、エンターティメントとして絲山先生が意図して取り組んだでいる感じがする。バランスがいいのだ。谷崎潤一郎賞を受賞したが、その筆致の見事さ故に、絲山先生の作品のなかで大衆性も得ることが最も可能な一作であると感じる。高村薫以降の、文学とエンターティメントの見事な合致が見られる優れた作品としてミステリ読みに強く勧めたい。
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2020末に橙書店にて購入。
大人な感じの物語。
タイムスリップなのか、ミステリなのか、全てが曖昧なままだけど、私にしては珍しく、受け止められた。
前半、八木沢、東京、四日市、フランスの場面から
後半は熊本、人吉、八代、唐津、福岡、馴染みのある場所が出てきて、入りやすかったのかもしれない。
人吉の豪雨で流失した球磨川第一橋梁や219号線を思うと残念でならない。
そして3.11の震災も消えることなく事実として残り続けるのだな、と。
離陸した人々を想いまた何年か後にゆっくり読みたい。
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以前、絲山さんの『薄情』という作品を読んだが、全くピンと来ず、合わない作家さんだな、としばらく食わず嫌いをしていた。
そのことを、いま、存分に後悔したい。
(薄情は未だに評価できないけれど)
主人公・弘は、はっきりと言って、あまり魅力のない男性だ。地方出身の高学歴で、何の気なしにエスカレーターへ一歩を滑らせるように、国交省のキャリアに乗る人物だからこその、擦れていないというか、予め浮世から離れたように生きている人。おそらく、作中いちばんぼんやりしている。
その主人公たる彼を取り巻き、物語をそくそくと進める人々が、精彩豊かで、ルーツや生き方が非常に濃い来し方をしている為に、弘が徹底して「フツウ」に見える。まず、この対比が面白いし、そのフツウでなさに惹き付けられる。
それなのに、物語に登場する全ての人物は、様々な個性を持ちながら、同じ色調を持って描かれる。
弘の人生と交錯する「女優」の存在と昔語りも相俟って、セピアカラーのような、鼻の奥がつんとする懐かしさに染められて、この作品が、現在から過去へ幾度も旅し、時に誰かを欠き、喪いながら、やがてまた現在に帰着していく。読了してみれば、まるで煙のような物語だ。
淡々とした濃やかな筆致で、ゆっくり河を下るように、常に凪いだ速度を保つ巧みな文章の心地良さ。
離陸、というタイトルに込められた、喪うことへの透徹した視点。
決して華やかではない。謎すら解決されずに残される。それでも、これは良い物語だ。
疾走感ばかりが謳われる作品が多いなか、これほど文章の持つ力を、ゆっくり味わえる作品は本当に少ない。
謎の行方も、誰かの行く末も、眠ったままでもよいのだな、と久しぶりに思える読後感。ぜひ一読をおすすめする。
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一週目ではまだ分かりきっていない感はあるけどすごくじんわりくる良さだった。
死を飛行機が離陸することで表していて、その表現がスッとはいってきた。
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水の番人サトーサトー。ブツゾウとアカネを見守って。離陸はまだまだ。
3年ぶりに読み返して、やっぱり凄かった。
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村上春樹的な訳のわからなさがある。「死とは離陸すること。みんな駐機していて、いつかは離陸する」っていうのは分かったんだけど。
訳のわからないくせに最後まで一気読みさせるからすごい。