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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
な、なげーよ…、もとい、日本において哲学で笑いを取れる芸人と言えば土屋賢二と笠井潔のまず二人だろうと思っているのだ。で架空の哲学者ハルバッハの哲学論議は、どこにギャグが仕込んであるのかと鵜の目で読んでいた。なぬ、ハイデッガー? そうでっかー。
死の哲学たるハルバッハの思想は、20世紀「以降」の世界を動かしている要因である、戦争、テロリズムを含む大量虐殺という現象に対して、その実行者の動機を照らして批判するために用いられている。それを横糸に、ワルキューレ伝説になぞらえられる二つの三重密室殺人がその本質を現す現象として語られるという錯綜した構造になっている。
つまり、とっても「盛りだくさん」なのだ。
文庫にして1千ページを越す分量だが、密室殺人をめぐる物語や登場人物たちは十分に魅力的だし、探偵役の矢吹駈はシリーズを経るごとに事件を糧に成長していく。また「画面」に登場しない闇のヒーロー、キカイダーに対するハカイダー…、分かりにくいですか、んじゃアムロに対するシャア少佐、あるいはダースベイダーのような位置付けのニコライ・イリイチの存在感もますます際立っている。
舞台は、まだベルリンの壁も崩壊していない1970年代のパリ。結局、批判の対象は、エゴイズムと癒着して不可分になってしまったイデオロギーあるいはナショナリズムに行き着くわけだが、その萌芽を描いた「群集の悪魔」の舞台にパリを選んだのと同様、このシリーズがパリに「居続けている」ことには十分な理由がある。
しっかし遠い。カケルという日本人の物語は僕にも感ずるところはあるのだが、なにしろ大陸の反対側。たしかに日本でモガールのような重厚な刑事もナディアのような勉学に熱心な女子大生も求め得ないのかもしれない。カケルが日本に入国するのさえ難しそうだ。それでもこの物語は、トーキョーを舞台に描くべきだと思う。
ハルバッハ批判の一つとしての「死は存在しない」という論理はたしかに僕も失笑してしまったが、同じこの地続きの世界の中で、依然として同じことを主張している人々はまだいるのだ。作者も、読者も、パリという密室に閉じ込められ、同様に死の可能性までも閉じ込められてしまうのは、本意ではないだろう。
あ、今回の笑うところですか。僕としては、ナディア萌え〜ですかね。
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代のパリと第二次世界大戦下のソ連を行き来するストーリーがスリリングでした。二重三重に張り巡らされたトリックが圧巻でした。
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まず、本作品の長さに尻ごみしてしまいますね〜。今までのように哲学的なことがず〜っと書かれているんじゃないだろうか・・・と懸念して読み始めました。が、事件もこれこそ本格推理!っていう感じで、ちょっと違う感じがします。なので厚さはあまり気にならずにいましたが、どこも見逃しちゃいけないと身構えた為に読み終えるまで時間が掛りました。おまけにナチの戦犯のことやドイツ人哲学者(偽名をつかっていますが、あきらかにハイデカーのことだとわかります)などが出てきますから、余計に私には面白く読むことができました。前作までの三冊が三部作とされていますが、本作で「悪魔」的存在で駆のライバルが登場するのか?!とハラハラして読みました。もしかして対決するのかなぁ〜と期待していたんです。出てきたかどうかは内緒。笠井氏の今までの作品の中では1番読み易いですから、ゆっくり御読みくださいまし〜。
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カケル&ナディアシリーズの第4作目。
この分厚さ(文庫本で1160ページ)は、30年前の事件を間に挟んでいたためだったのですね。
カケルやナディアたちが存在している「現在」で起きた密室殺人と、30年前、第二次世界大戦中にコフカ収容所で起きた密室殺人。
いままでのシリーズ作品同様、事件を解決してゆく推理小説というよりも、それを取り巻く人たちの人生、密室の謎を解いていく際に吐露される、それぞれの生死の捕らえ方、哲学論がこの作品の中心にあるように思います。
間に挟まれている30年前の収容所での出来事。
戦時中の、しかもユダヤ人虐殺に関する描写であるため、読んでいてツライ部分も多く、一体どこで「現在」の密室につながってくるのかと、その部分を読み始めた頃は斜め読みしていたのですが、次第にその雰囲気に心を捕らえられてしまいました。
吹雪の中、重々しい影を背負ったコフカ収容所、コンプレックスばかりでその身を包んだ、御山の大将・フーデンブルグ所長の哀しい虚勢。
彼とは対照的な、美しい外見と名誉を持ったヴェルナー少佐が訪ねてきて・・・。
ユダヤ人虐殺や、収容所で過ごした過去を持つ人たちの苦悩について、読み進めながら私もいろいろ考えさせられました。
人の生死に関する哲学的な議論も興味深かった。
そして事件の舞台となる30年前のコフカ収容所にせよ、現在のダッソー邸にせよ、そこの寒さや匂いを感じさせて、まるでその場所にいるように感じさせる筆者の描写力に、改めて圧倒されました。
次はついに、シリーズ最後の作品(現時点では。)。期待大です。
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矢吹駆シリーズ。カケルとナディアはダッソー家の3重密室殺人の謎に挑むうちに、第2次世界大戦ユダヤ人収容所で起こった3重密室殺人の謎にぶち当たります。ページ数は確かに多いですが、ぐいぐい読ませてくれる筆力は相変わらずです。カケルシリーズは必ず哲学と密接につながっています。今回はハイデッガー哲学への反論あり。でも哲学を知らない人でも大丈夫。ナディアが私たち一般読者の代表ですから。
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矢吹駆シリーズ四作目。
今のところシリーズの中で一番好きです。駆の出自がほんの少しですが垣間見えてよかったと思います。
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ハルバッハの「死の哲学」は、ナチスの生んだ「大量死」の現実の前に砕け散った
(試合に勝って勝負に負けたとでも言うべきか)
一方でナディア・モガールは、ハルバッハを応用して、自分なりの「愛のかたち」を発見する
しかしそれは結局、「特権的な死」の夢想を、裏返したにすぎないものではないか?
久々に読んだけど、あらためて超名作と思いました
けど、607ページのイラストおかしくないだろうか
あれカンヌキ抜けなくね?
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開口部を完璧に閉ざされたダッソー家で、厳重に施錠され、監視下にあった部屋で滞在客の死体が発見される。現場に遺されていたナチス親衛隊の短剣と死体の謎を追ううちに三十年前の三重密室殺人事件が浮かび上がる。現象学的本質直感によって密室ばかりか、その背後の「死の哲学」の謎をも解き明かしていく矢吹駆。二十世紀最高のミステリ。
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物理的にも内容的にも、シリーズ中最大重量級。重いうえに難解。だけどそれに充分見合うくらいにミステリとしても面白かったので満足。三重密室×2にわくわく。
しかしやっぱりカケルの言ってることちっともわからない……。劣等感に苛まれる一冊であることも間違いないので、その点も留意して読むべし(笑)。読み終えると、すごーく勉強したぞっ!という気分にもなれるけどね。
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■時空を超えて共鳴する、ふたつの“三重密室”
開口部を完璧に閉ざされたダッソー家で、厳重に施錠され、監視下にあった部屋で滞在客の死体が発見される。現場に遺されていたナチス親衛隊の短剣と死体の謎を追ううちに30年前の三重密室殺人事件が浮かび上がる。現象学的本質直感によって密室ばかりか、その背後の「死の哲学」の謎をも解き明かしていく矢吹駆。1100ページ超の全1冊で贈る20世紀最高のミステリ!
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名探偵矢吹駆がパリを舞台に活躍する本格推理小説。哲学がキーワードになり、単に殺人事件を解決するだけではなく、哲学的な思索が作品の骨組みを作っている。とてつもなく豊かな読書経験を与えてくれる、僕にとっては最高と言っていいほどのミステリであった。
30年の時間をおいた、二つの3重密室は、それだけで興奮できる不可能犯罪である。そしてその背景で、事件の欠かせない要素であるナチによるユダヤ人虐殺は、それに関わった人たちに心理を含め、鳥肌が立つような迫力で迫ってくる。こういったことと正面から向き合うには、確かに哲学が必要だと思う。
「死」の持つ意味や、豊かな「生」をつかむことなど、読んでいて考え込んでしまうことも多かった。単なる推理小説としてもすばらしい完成度を誇る重量級の作品だけど、哲学書(とまで言っていいかどうか、僕にはわからないが)としても、興味深いものであった。
すばらしい時間をもらえた。
2005/4/1
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人のおススメを聞いただけなのだけど、読んでみたくなりました。
物語を展開していく着眼点がすごい!すごそう。
これをきっかけに哲学書をかじるようになったらいいなあという
ちゃっかり心もあり。
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矢吹駆シリーズ
南アメリカでの駆の調査。イリイチの父親の謎。
ダッソー邸に呼び出されたモガール警視。密室で殺害されたダッソー氏の客人でボリビアから来たルイス・ロルカン。凶器の折れたナイフの発見。巻き付けられたカッサンンのスカーフ。ダッソー邸に拘禁されていた疑いのあるロルカン氏の謎。誘拐されたと思われるイザベル・ロルカン。ダッソー邸の客クロディーヌの逃亡。
1945年コフカ収容所。所長フーテンベルグの奴隷となっている女性ハンナ・グーテンベルガー。収容所の撤収命令を伝えに来たハインリッヒ・ヴェルナー少佐。小屋の中のハンナの殺害。雪の密室。コフカ収容所の集団脱走事件。殺害されたウクライナ兵とドイツ兵。爆発と機関銃掃射。
コフカを訪れたヴェルナー少佐の副官パウル・シュミットの捜査。カケルの助言でダッソー邸の裏の廃屋で発見されたイザベル・ロルカンの遺体。イザベルの遺体のそばに落ちていた顔の切り抜かれた写真。フ-テンベルグとうつった謎の人物の正体。事件と20世紀最大の哲学者ハルバッハの関係。ダッソー邸でのハルバッハの墜落死。使用人グレの逃亡。
2011年5月15日読了
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どこかの小説でこの本が凶器になっていたが、確かにハードカバーだと凶器になってもおかしくないほどの存在感。重い。
タイトルに違わず内容もまた重厚。読みながら考えさせられるものがあり、思考が逸れる、それに気付きまた読書に戻る。それを繰り返して読み終えたという感じ。ミステリを漁っていれば必ず出会う本ではあるので、時間があるミステリファンにはオススメしておく。
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まさに「哲学者の密室」としか呼びようのない物語。三重の密室(特にコフカのほう)という謎は非常に魅力的。哲学談義のおかげで読み進めるのはかなり大変だったけれど、振りかえってみればあらゆる意味で重厚な物語だったことは否定の余地がない。