すごい読み応え!
2002/05/23 23:34
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:しをん - この投稿者のレビュー一覧を見る
矢吹駆シリーズの中では圧倒的に長い。内容も極めて濃密。ハイデガーをめぐる哲学論議はじっくり読むのも、そこは読み飛ばして探偵小説として楽しむのも可。
矢吹と敵の哲学っぽい言い争いは、詭弁家同士…と思いつつもふむふむ、と入り込んでしまう。
ところで矢吹駆シリーズは、前作を踏まえた発言などがあるから、初めての人は、「バイバイエンジェル」から読むのがお勧め。
シリーズは以下。
0織天使の夏 (番外編と言う感じ。「バイバイ、エンジェル」が書かれる20年前にかかれたもも。矢吹の過去が明らかに…?)
1バイバイ、エンジェル
2サマーアポカリプス
3薔薇の女
4哲学者の密室
5オイディプス症候群
投稿元:
レビューを見る
まず、本作品の長さに尻ごみしてしまいますね〜。今までのように哲学的なことがず〜っと書かれているんじゃないだろうか・・・と懸念して読み始めました。が、事件もこれこそ本格推理!っていう感じで、ちょっと違う感じがします。なので厚さはあまり気にならずにいましたが、どこも見逃しちゃいけないと身構えた為に読み終えるまで時間が掛りました。おまけにナチの戦犯のことやドイツ人哲学者(偽名をつかっていますが、あきらかにハイデカーのことだとわかります)などが出てきますから、余計に私には面白く読むことができました。前作までの三冊が三部作とされていますが、本作で「悪魔」的存在で駆のライバルが登場するのか?!とハラハラして読みました。もしかして対決するのかなぁ〜と期待していたんです。出てきたかどうかは内緒。笠井氏の今までの作品の中では1番読み易いですから、ゆっくり御読みくださいまし〜。
投稿元:
レビューを見る
カケル&ナディアシリーズの第4作目。
この分厚さ(文庫本で1160ページ)は、30年前の事件を間に挟んでいたためだったのですね。
カケルやナディアたちが存在している「現在」で起きた密室殺人と、30年前、第二次世界大戦中にコフカ収容所で起きた密室殺人。
いままでのシリーズ作品同様、事件を解決してゆく推理小説というよりも、それを取り巻く人たちの人生、密室の謎を解いていく際に吐露される、それぞれの生死の捕らえ方、哲学論がこの作品の中心にあるように思います。
間に挟まれている30年前の収容所での出来事。
戦時中の、しかもユダヤ人虐殺に関する描写であるため、読んでいてツライ部分も多く、一体どこで「現在」の密室につながってくるのかと、その部分を読み始めた頃は斜め読みしていたのですが、次第にその雰囲気に心を捕らえられてしまいました。
吹雪の中、重々しい影を背負ったコフカ収容所、コンプレックスばかりでその身を包んだ、御山の大将・フーデンブルグ所長の哀しい虚勢。
彼とは対照的な、美しい外見と名誉を持ったヴェルナー少佐が訪ねてきて・・・。
ユダヤ人虐殺や、収容所で過ごした過去を持つ人たちの苦悩について、読み進めながら私もいろいろ考えさせられました。
人の生死に関する哲学的な議論も興味深かった。
そして事件の舞台となる30年前のコフカ収容所にせよ、現在のダッソー邸にせよ、そこの寒さや匂いを感じさせて、まるでその場所にいるように感じさせる筆者の描写力に、改めて圧倒されました。
次はついに、シリーズ最後の作品(現時点では。)。期待大です。
投稿元:
レビューを見る
矢吹駆シリーズ。カケルとナディアはダッソー家の3重密室殺人の謎に挑むうちに、第2次世界大戦ユダヤ人収容所で起こった3重密室殺人の謎にぶち当たります。ページ数は確かに多いですが、ぐいぐい読ませてくれる筆力は相変わらずです。カケルシリーズは必ず哲学と密接につながっています。今回はハイデッガー哲学への反論あり。でも哲学を知らない人でも大丈夫。ナディアが私たち一般読者の代表ですから。
投稿元:
レビューを見る
矢吹駆シリーズ四作目。
今のところシリーズの中で一番好きです。駆の出自がほんの少しですが垣間見えてよかったと思います。
投稿元:
レビューを見る
ハルバッハの「死の哲学」は、ナチスの生んだ「大量死」の現実の前に砕け散った
(試合に勝って勝負に負けたとでも言うべきか)
一方でナディア・モガールは、ハルバッハを応用して、自分なりの「愛のかたち」を発見する
しかしそれは結局、「特権的な死」の夢想を、裏返したにすぎないものではないか?
久々に読んだけど、あらためて超名作と思いました
けど、607ページのイラストおかしくないだろうか
あれカンヌキ抜けなくね?
投稿元:
レビューを見る
開口部を完璧に閉ざされたダッソー家で、厳重に施錠され、監視下にあった部屋で滞在客の死体が発見される。現場に遺されていたナチス親衛隊の短剣と死体の謎を追ううちに三十年前の三重密室殺人事件が浮かび上がる。現象学的本質直感によって密室ばかりか、その背後の「死の哲学」の謎をも解き明かしていく矢吹駆。二十世紀最高のミステリ。
投稿元:
レビューを見る
物理的にも内容的にも、シリーズ中最大重量級。重いうえに難解。だけどそれに充分見合うくらいにミステリとしても面白かったので満足。三重密室×2にわくわく。
しかしやっぱりカケルの言ってることちっともわからない……。劣等感に苛まれる一冊であることも間違いないので、その点も留意して読むべし(笑)。読み終えると、すごーく勉強したぞっ!という気分にもなれるけどね。
投稿元:
レビューを見る
■時空を超えて共鳴する、ふたつの“三重密室”
開口部を完璧に閉ざされたダッソー家で、厳重に施錠され、監視下にあった部屋で滞在客の死体が発見される。現場に遺されていたナチス親衛隊の短剣と死体の謎を追ううちに30年前の三重密室殺人事件が浮かび上がる。現象学的本質直感によって密室ばかりか、その背後の「死の哲学」の謎をも解き明かしていく矢吹駆。1100ページ超の全1冊で贈る20世紀最高のミステリ!
投稿元:
レビューを見る
名探偵矢吹駆がパリを舞台に活躍する本格推理小説。哲学がキーワードになり、単に殺人事件を解決するだけではなく、哲学的な思索が作品の骨組みを作っている。とてつもなく豊かな読書経験を与えてくれる、僕にとっては最高と言っていいほどのミステリであった。
30年の時間をおいた、二つの3重密室は、それだけで興奮できる不可能犯罪である。そしてその背景で、事件の欠かせない要素であるナチによるユダヤ人虐殺は、それに関わった人たちに心理を含め、鳥肌が立つような迫力で迫ってくる。こういったことと正面から向き合うには、確かに哲学が必要だと思う。
「死」の持つ意味や、豊かな「生」をつかむことなど、読んでいて考え込んでしまうことも多かった。単なる推理小説としてもすばらしい完成度を誇る重量級の作品だけど、哲学書(とまで言っていいかどうか、僕にはわからないが)としても、興味深いものであった。
すばらしい時間をもらえた。
2005/4/1
投稿元:
レビューを見る
人のおススメを聞いただけなのだけど、読んでみたくなりました。
物語を展開していく着眼点がすごい!すごそう。
これをきっかけに哲学書をかじるようになったらいいなあという
ちゃっかり心もあり。
投稿元:
レビューを見る
矢吹駆シリーズ
南アメリカでの駆の調査。イリイチの父親の謎。
ダッソー邸に呼び出されたモガール警視。密室で殺害されたダッソー氏の客人でボリビアから来たルイス・ロルカン。凶器の折れたナイフの発見。巻き付けられたカッサンンのスカーフ。ダッソー邸に拘禁されていた疑いのあるロルカン氏の謎。誘拐されたと思われるイザベル・ロルカン。ダッソー邸の客クロディーヌの逃亡。
1945年コフカ収容所。所長フーテンベルグの奴隷となっている女性ハンナ・グーテンベルガー。収容所の撤収命令を伝えに来たハインリッヒ・ヴェルナー少佐。小屋の中のハンナの殺害。雪の密室。コフカ収容所の集団脱走事件。殺害されたウクライナ兵とドイツ兵。爆発と機関銃掃射。
コフカを訪れたヴェルナー少佐の副官パウル・シュミットの捜査。カケルの助言でダッソー邸の裏の廃屋で発見されたイザベル・ロルカンの遺体。イザベルの遺体のそばに落ちていた顔の切り抜かれた写真。フ-テンベルグとうつった謎の人物の正体。事件と20世紀最大の哲学者ハルバッハの関係。ダッソー邸でのハルバッハの墜落死。使用人グレの逃亡。
2011年5月15日読了
投稿元:
レビューを見る
どこかの小説でこの本が凶器になっていたが、確かにハードカバーだと凶器になってもおかしくないほどの存在感。重い。
タイトルに違わず内容もまた重厚。読みながら考えさせられるものがあり、思考が逸れる、それに気付きまた読書に戻る。それを繰り返して読み終えたという感じ。ミステリを漁っていれば必ず出会う本ではあるので、時間があるミステリファンにはオススメしておく。
投稿元:
レビューを見る
まさに「哲学者の密室」としか呼びようのない物語。三重の密室(特にコフカのほう)という謎は非常に魅力的。哲学談義のおかげで読み進めるのはかなり大変だったけれど、振りかえってみればあらゆる意味で重厚な物語だったことは否定の余地がない。
投稿元:
レビューを見る
1945年のドイツと1974年のフランス、30年の時を経て起きた2種類の「三重密室」事件。現象学を駆使する哲学者が読み解く、事件解決に必要な、関係者達が抱えるそれぞれの「死の哲学」とは。
「死」とは、「生」とは何かを考えさせられる、哲学的推理小説。
-------------------------------------------------------------------------------------
残酷で悲劇的な死の描写で溢れているが、映像化されたほど人気がある作品がある。なぜこのような絶望的なサバイバルを描いた作品に一定の人気があるのか。そう考えたことはないだろうか。この『哲学者の密室』は、その回答となりえるかもしれない。
この作品は三部に分かれている。前篇の舞台は1974年のフランス。匿名の通報で資産家の家に駆けつけた警察が発見したのは、胸部に刃が突き刺された老人の死体。しかも発見場所は、簡単に言うと「三重の密室」で閉ざされており、解決の困難さが容易に想起できる複雑怪奇な様相を見せていた。この事件の謎に、現場に駆けつけた警視、警視の娘、娘の友人である哲学者の三者が挑む。
中篇では舞台は一転、1945年のドイツとなる。場所はユダヤ人の強制収容所、悪名高い絶滅収容所、殺人工場である。そこの所長に囲われていたユダヤ人女性が、監禁場所で死体となって発見された。発見者は敵の進軍を考慮し、収容所の撤収作業を命ぜられた武装親衛隊少佐に同行した部下の軍曹。現場には所長がいて自殺を主張するが、死体には他殺の疑いも残っていた。しかも現場は、所長以外の人間の出入りが不可能な「三重の密室」の体を成していた。
後篇ではフランスに戻り、過去のドイツと現在のフランス、双方の密室事件の解明が試みられる。ここで哲学者・矢吹駆が考察するのは、関係者それぞれが抱える「死の哲学」だった。
彼は言う。
「(前略)長いこと僕は、死とはたんなる生の不在であると感じていた。あるいは死は、瞬間的に到来するものだと。
暖かい室内から、凍えるような戸外に出る。生と死は、そのように直線で分割された、対照的な二つの領域であると。だから、できることなら自分に納得できるような形で、生と死を分けている絶対的な線を越えたいとも願った。
しかし、そのような画然とした死は、たぶん青年が想像する死なんだね。そのような死もありうるだろう、たとえば戦場の死のように。しかし、それは例外的なんだ。死とは、本質的に惨めなものではないだろうか、あの老婆のように。惨めで、だらしなくて、無様に弛んで、直視できないほどに醜いもの。我慢できないほどの嫌悪感をもたらすもの、不気味なもの、おぞましいもの。(後略)」【690頁】
「そのおぞましい死を隠蔽するために、勇敢な死、決意された死、美しい死の観念が生じる。」――と若き哲学者は続ける。
絶望的なサバイバルの中で、キャラクターは惨たらしい最期を迎える。喰われたり、裂かれたり、潰されたり。だが、あくまでそれらは虚構であり、例外的だ。何事も起きない限り、我々が迎える死は、苦痛に満ちた、永遠に続くかにも感じられる、だらだらとしたモラトリアム(猶予期間)のような死��である。
人は、自覚・無自覚に関わらずその事実から目を背けたいがために、躍動感や未来に対する希望などに溢れた生と、理不尽な突然死が描かれた作品に目を向けるのではないだろうか。
そして、だからこそ、山田雄介に代表されるホラーやヒロイックな物語、怪談等が周期的に売れるのではないだろうか。