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以前からちょっと気になる作家だった。ちょうど図書館前の「自由にお持ち帰りください」コーナーで見つけ、手に取った1冊。長崎県出身、イギリスの作家で、2017年にはノーベル文学賞を受賞した。
この作品は、老画家の回顧録のようなもの。戦時中に、戦意高揚のため、日本精神を鼓舞し名をなした主人公小野は、終戦を迎えた途端、周囲から冷たい目を向けられるようになる。戦中戦後と価値観が180度変わる大きな混乱期を人々は生きぬいてきた。「自殺」した仲間もいる。父親としての責任から、二女の結婚を何とか成就することをきっかけに、貫いてきた自らの信念と新しい価値観の間で葛藤する。舞台が、戦後間もない時代であるが、孫「一郎」に対する接し方などにも、海外ならではの個人主義的な価値観を感じる。大きなお屋敷の中で、ロッキングチェアに揺られながら昔語りを聞くような、静かな作品である。
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ページが進むにつれ、小野に対して、「お前…」と思いながら読んでしまった。もちろん日常で人にお前なんて言うことはないのだけれど。
戦時中に体制翼賛の戦争画を描いて評価されていた画家の晩年。
自分のしたことを後悔はしていないが、世間の目のせいで忸怩たる思いを抱えて、無自覚ではあるかもしれないが気持ちも少し揺らいでいるといった感じ。
弟子にしたことを後悔してなさそうなあたりは恐ろしい。
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時代の流れの中で、持て囃されたり、批判されたりするものは一変する。戦前戦後は特に激変する中、迎合したり、反省して死すら選ぶ人も描かれている中、自分の信念を貫いたと信じ切ることの悲哀が、回りくどい会話や微妙な人との邂逅によってぼんやりと浮かび上がってくる。変化し続けることが重要、という無意識に根ざされた価値観を揺さぶられる体験となった。