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投稿者:yukiちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
神話をテーマにしたSFには、例えば、インド神話を元にした、ロジャー・ゼラズニィの「光の王」や、北欧神話を元にした、ディ・キャンプの「ハロルド・シェイ」シリーズなどがあるが、この本については、同じギリシア神話を元にした、ダン・シモンズの「イリアム」「オリュンポス」が思い浮かぶ。
エンターテインメントを主目的としたシモンズと、今作のグィンとは目的もテイストも全く違うが、Wikiで見ても黒字にしかなっていないラーウィーニアに光を当てたあたり、さすがというしかない。
物語は、女性目線の哀愁を帯びた静かな情景を描き出す。しかし、彼女の周りでは、戦争と死と歴史の歯車が情け容赦なくダイナミックに動いている。
読んでいて、清少納言の生涯を描いた、冲方丁の「はなとゆめ」を思い出した。
これを機会に、ウェリギリウスの「アエネーイス」や、元になったホメロスの「イーリアス」など、ギリシア神話の古典にも目を通してみようと思う。
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古代イタリア、ラウィーニア姫の物語。そこかしこに神がいる世界、戦があり平和がある。儀式があり読み解くお告げがある。日常を営む多くの人が共に住む場所に。
身体を脱ぎ捨てた彼女の意識は、どの時のどの場所でどんな人々を見ているのだろう
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ウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」にほんの少しだけ触れられているアエネーアスの妻ラウィーニアを語り部として「アエネーイス」の物語を描く。
といってもウェルギリウスの「アエネーイス」なんて、世界史の知識としてしか知らず、トロイの木馬で有名なあの戦争の負けた方の人の話というぼんやりとした知識のまま読み始めたが、これがまたとても面白い。
ラウィーニアについてウェルギリウスがほんの一言程度しか触れなかったのを逆手に取り、ラウィーニアは自分の意思のまま語り、行動し、時空を超えてウェルギリウスと語る。自分の運命を知ってもただ流されるのではなく、それとは違う方向に(そして自分の望まない方向に)物事が流れそうな場合はいろいろ考えて自ら行動し運命を切り開く。
「アエネーイス」の話を過ぎても当然ラウィーニアの人生は続くわけで、ここでもラウィーニアはしたたかにしなやかに自らの人生を歩んでいく。
ラゥーニアの造形がまさにル=グィン好みの女性で一気に読み切ってしまった。
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下敷きの「アエネーイス」全然知らなくても楽しめるのか?と言えばYesなのだけど(生き生きした登場人物に引き込まれ、面白かった)、でも知っていたらもっと面白いのだろうな、とずっと感じさせられてしまう。世界史、古代イタリアに興味のない、SF作家ル=グウィンから入った自分にすら、「アエネーイス」に興味を持たせてくれる、という意味で、いい作品だとは思うのだけど、そこまで手を出せない自分にとっては、ちょっと悔しい思いをさせられる、残念な作品。
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ローマ建国前のイタリア。トロイアから落ち延びた英雄アエネーアスと結ばれた、ラウィーニア姫の愛と冒険の物語。さすがグウィン❗️読み応えたっぷり‼️
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ローマの詩人、ウェルギリウスの『アエイーネス』に発想を得た作品。トロイアから逃れたアエイーネスがローマの建国の前史に関わったというが、本作のタイトルとなっているラウィーニアという女性については詩人ウェルギリウスの言及は少ないという。ラティウムの王女のラウィーニアは兄弟を失い、否が応でも王国の後継者としての役割が期待され、あまた求婚者が現れるなか、お告げによってアエイーネスと結ばれる。男優位の社会の中での彼女の主体的な選択の模索が未来につながるという物語となっている。
そのきっかけになったのが、ラティウム王家の神託の森でラウィーニアがウェルギリウスの死ぬ間際の霊魂に出会ったことにあった。ということは、ローマ詩人のウェルギリウスが死の間際に過去にさかのぼり、自ら作品に登場させた人物に、ローマ建国の未来あるいは自らの作品の内容を知らせたという伏線があるということだ。この作品はタイムトラベル物でもあるのだ。
著者のル・グウィンは、もともと欧米の教養人たちの共通の知識であった『アエイーネス』を始めとする古典が失われていくという状況も題材をここに見出した理由があったという。関連して思い出すのだが、オーストラリアの友人たちとの会話の中で、聖書やシェークスピアなど、彼らが知っている知識との落差に驚いたことがある。もちろん、ストーリーとしては知らないわけではないが、それを英語を使って話しをするとなると、厄介なことになる。語学の点では、タイトルや内容について、英語で話すことができるか、聞き取ることができるかということについて、これは、もちろんやむを得ないということではあるかと思う。しかし、ひるがえって、日本人同士の会話の中でこうした共通する教養といったものが成立するのか、ということが気になったことを思い出した。はたして、日本人としての共有する(あるいは、共有すべき)基礎知識的な教養というのは、いったいなんだろう。
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アーシュラ・ル・グインです。
こんなところで出されたら、見つからないわ〜!
「三体」といい、いまアシモフの「銀河帝国の興亡」映画作ってるんだって!
SFブーム、来るのかしら?
2022/02/16 更新
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あとがきまで愛に溢れて少し切ない。幅広い読者層に受け入れられると確信!
ウェルギリウスと『アエネーイス』へのル・グウィンさんの敬意と、彼女に対する翻訳の谷垣暁美さんの敬意で二重に包まれた、温かく素敵な一冊がいま私の手元にある。
・とある国のお姫様が男に出会う
・その男は未来で叙事詩を書いたウェルギリウス
・そう。現代の我々の世界にも繋がっている
・お姫様は彼の作品に出てくる登場人物だと告げられる
・自分が二次元創作物だったなんて強展開!信じられる?!
・古典アエネーイスのスピンオフ
・けど原作知らなくてもイケる
ここらへんまでで、ライトな小説勢も面白そうだと思いませんか?
・姫は運命を受け入れながらも、自分らしく生きる
・それが人間らしく、愛情深く、聡明で爽快
・英雄アエネーアスも魅力的
・ラウィーニアを通しているからかな。愛しい人
・味方の女性陣が好き
・父のじれったい敬虔も粋
・狂った母にさえ納得感はある
・お城と深い森
・きこりの家、洞窟、狼
・海風の香り、サルサ・モラ
ル・グウィンさんファン及びファンタジーファンを喜ばせる、地に足がついた登場人物、自然と住居のありありとした描写、崇高な信仰や儀式は雰囲気たっぷり。トリップできます。
・平和と戦争のギャップがきつい
・映画化できそう、皆に知って欲しい
・でもいじくらないで。自分の感じた世界観をそっとしておいてほしい矛盾
原作勢あるある。
かつてゲド戦記に泣き、クラバートの帯に「宮崎駿絶賛」と書かれていて慄いた私です。
結局長くなってしまった。
訳者あとがきが大変秀逸なので、私が語ることは特になかった(はずなのに)。
自身も愛と感謝を込めた重めのラブレターを書きたかったが、誰も読むまい。
拙い箇条書きが誰かの読書のきっかけになれば嬉しい。
もしそうなれば文化が、本が脈々と受け継がれる歯車の一つとして、ル・グウィンさんのファンタジーに組みすることができたようで、それは非常な喜びだ。
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語り手としてのラウィーニア、生きているラウィーニア。読者として物語に向き合ったが、両者は、一体化したり離れたりを(よく練られた語りに!)感じさせすぎることなく、ただ、「ひとり」の人間として在ったと思う。ときどき冷静な視点が内省するところは読者/わたしにも良い振り返りどきになったし、終わりの語り手としてだけのラウィーニアの出現にはどきりとした。それにしても、後代の詩人の登場と、それによって「未来を知っている」ためのラウィーニアの嘆きや恐怖、さらにはそれを超えたところで、自分が知っていることを利用できる強かさ、その描かれ方が素晴らしい。あくまで想像だけれど、「神」と向かい合う行為から、土と血と礼拝と地続きであることから、ラウィーニアの強さは醸成されていったのだろうと思う。
ひとつだけ、ちょっと眉が上がったのが、ラウィーニアが「男」と「女」について考えるところ。これはラウィーニアの考えで、グウィンの考えではないのかもしれないが、『闇の左手』を知っているだけにひっかかるものがあった。
あと、シィルウィウィスはかわいい!!
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ウェルギリウスの『アエネーイス』からの着想で、ゲド戦記のル=グウィンによって書かれたもの。
古代ギリシャの知識があればもう少し楽しめたかもしれない。
『アエネーイス』で脇役で取り上げられなかったラウィーニアが主人公のアナザーストリーのよう。取り上げられなかったからこそ、ここでは意志を貫いているように思う。
おもしろいのは作者のウェルギリウスが登場して、自分の作品の登場人物であるラウィーニアと会話をするシーンがあること。あなたの未来、私が書いてますよというような会話で、途中までその通りに進んでいく。最後の数十ページはハラハラしながら読んだけど、ラウィーニアの強さを感じたし、おおむねハッピーエンドと捉えていいのかしら。