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投稿者:井沢ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
途中で話が終わっており中途半端感は拭えない。要は初めての公害問題だが解決までは長い道のりで落ちが見えないと言ったところ。最初の公害事件なだけに抵抗勢力は国家も含めて巨大で、解決できないままに主人公、田中正造は亡くなり、それを引き継いだ宗三郎も難渋のままでこの話は終わる。犬死にした田中正造とそれを引き継ぐ宗三郎、果たして結果は?で終わってしまっており、中途半端に感じる。調べてみると約百年近くかかった公害問題だったようで、解決するまでの長いトンネルに入ってしまった話の前半。できれば落ちも書いてすっきりした方が良かったと思う。その方がこの甚大な被害をもたらした公害に最初に立ち向かう英雄とその後継者の話で終わるが、「その後も解決せずに長らくかかったものの民主主義や人権重視の見方が強まり、それ以降も引き継いだ雄志の力により解決に向かった」との説明を入れることにより落ちが見えすっきりする。
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その独特な風貌や日本で最初の公害闘争に身を投じたというエピソードから、気になっていた田中正造。
この本を読んでみて、先見の明があり、清貧な聖人のような人というだけでないことがわかった。妻をぞんざいに扱い、事務手続きでもミスをし、そしてとにかく頑固。
しかし、人を巻き込むエネルギーにあふれ、谷中村残留民に寄り添う気持ちも人一倍あった。
正造は、聖人のようでもあり狂人のようでもあった。
この本は二部構成になっていて、後半は残留民たちが正造の遺した強烈なエネルギーに後押しされて、権力と苦闘を続ける様が書かれている。
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足尾鉱毒事件がもとで強制廃村となった谷中村から離れようとしない残留民たちと、彼らとともに戦った田中正造について描いた伝奇小説。
これから書く原稿のお勉強のつもりで手に取ったが、文章が上手くて熱があり、とても引き込まれた。
子どもの頃読んだ日本の偉人マンガに田中正造も入っており、天皇に直訴したりとか大隈重信の家の庭に勝手に汚染土を持ち込んで松を枯らしてみせるとか、正義感が強い反面なかなかぶっ飛んでる人だなあという印象を持っていたが、よく考えてみれば(いやよく考えてみなくても)ぶっ飛んでるのは行政のほうであった。公害で苦しむ村を助けるどころか、池を作って村を沈めるという。銅山の操業を止めさせるほうが筋じゃない?
立ち退きを拒否する住民に対する扱いも、家を強制破壊したり、壊れた堤防を直さず放置したりととんでもない。鉱毒被害のみならず、残留民の人々をひどく苦しめたろう。
なぜ国が鉱毒対策を十分に取らなかったについてはあまり深く考えたことがなかったが、銅は当時日本の主要な輸出資源で、かつ日露戦争前後の時期であったので、小さな村より国益が優先されたのだ。足尾銅山は日本一の銅産出量を誇っていた。
ただこれはやはり田中正造が言うように、憲法に反している措置だったと思う。
国益のために地方を切り捨てるという構図は、100年以上経った今もあまり変わっている気がしない。
なお田中正造が「有害無益」と断じた渡良瀬遊水池は、いまラムサール条約指定地となり貴重な動植物が残る場所になっているという。公害によって苦しめられ、追放された人々の故郷が、いまや自然豊かな場所になっているというのは、なんだか皮肉な感じがする。