看護・福祉でのケアを問う
2021/08/15 20:07
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投稿者:雑多な本読み - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の題名は「ケアとは何か」であるが、医療や福祉部門の政策を示しているものではないし、ケア技術の本でもない。
目次を見ると、第1章コミュニケーションを取る、第2章<小さな願い>と落ち着ける場所、第3章存在を肯定する、第4章死や逆境に向き合う、第5章ケアのゆくえという構成になっている。
第1章のコミュニケーションを取るでは、確かにコミュニケーションを阻む要因というケアの解説の本にも見られるところがあるが、技術で解決できる問題ではないし、行政施策としてどう生かすかという点では難しいと思われる。しかし、数多くのエピソードを通して、コミュニケーションをどうとっていくかを考えさせる章である。
第2章の<小さな願い>と落ち着ける場所では、厚生労働省の人生会議のポスター問題から入る。自己決定とは何か、医療上必要ということで小さい願いがかなえられなかったりするが、私たちはこれをどうとらえていくかということを問いかける。
第3章の存在を肯定するでは、在る、居るという哲学的なテーマから入りつつも、自己の存在をどう肯定していくかに迫る。
第4章では、言葉にならないことをどう言葉にしていくか、孤立した人とどうつながっていくか、技術というわけではなく、どう人間として突破していくかを問う。
第5章では、新型コロナウイルスの感染拡大で、人と人の関係が切断されるという厳しい中で、当然、ケアも切断される現実がある。しかし、当事者のピアのグループでのつながり、弱いことを肯定する等々で乗り越えていく道筋を示していく。
通読して、今のハウツーに頼る傾向から見ると、具体的にどうすればいいのかというのがわかりにくいかもしれないが、紹介されている大阪市西成区では、試行錯誤しながら具体的に実践している例もある。
学ぶべきことが多い書である。
体験重視 一読理解は 難しい
2024/07/21 22:52
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投稿者:清高 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1.内容
ケアとは何かを、「とりわけ医療や福祉といった援助の現場での実践」(まえがきp.5)において検討する本である。そしてそれは、「誰もが日常的に家族や周囲に対して行っているようなケアにも拡張できるもの」(まえがきp.4-5)である。
2.評価
村上靖彦には、客観性の落とし穴.筑摩書房,2023,(ちくまプリマー新書).という本があるが、本書もエビデンスより「個別の体験」(まえがきp.5)を重視するスタンスとなっている。それゆえか、引用が豊富で、引用をきっかけとして読者に考えさせる内容になっている。
一読で理解するのが難しかった点で1点減らして4点とするが、困難に陥っている人がどのように考え、行動するのか、ならびに、ケアラーがどう支援しているのかの一端がわかる、有益な本である。
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ケアの技術や、そのやり方の本かと思ったのですが……読み進めると、どうも、違うようで……。テクニカルな面よりもむしろ、心理面とかに重点がおかれて、書かれた本です。介護に関わり始めた方ぜひー。
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ケアとは、声かけ、そこに一緒にいること。暴言やたった一言や、沈黙でも、相手の何らかのサインに対して、声かけをする。その場にいるだけで、ケアが始まっている。
そのことで、ケアされる側は言葉で物語れたり、反応して、生きている実感が得られる。
そんな事を学べました。
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看護の現象学の第一人者が、当事者やケアワーカーへの聞き取りをもとに、福祉のあり方にも通底するケアの本質について論じる。
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タイトルにある問いかけへの回答は十分に尽くされている。当事者が必要とするのは「人間として扱われているという感覚」であり、ケアに求められるのは「相手の声を聴き」「相手の位置に立って考えること」により相手の存在を肯定することであって、必ずしも治すことを試みることではないという説明が腑に落ちる。全五章に分かれてはいるが、この核となる見解はいずれの章でも一貫している。それだけに同じ内容が何度も繰り返される単調さも感じなくはなかった。
文献と聞き取りから得られたケアに関する具体例は数多く収録されている。帯に「実践の現場から学ぶ」とあるとおり、様々なケアラーの方々への聞き取りも収められてはいるが、どちらかといえば文献からの引用のほうが目立つ。本書内から窺い知れるケアにまつわる筆者の実践的な活動は、本書にはそこまで反映されていないように見える。もっと筆者が直接見知った情報を多く取り入れた内容を期待していただけに物足りなさは残った。
本書を読んでいて思い出したのは佐々木倫子の漫画、『おたんこナース』だった。「ケア」という言葉がまだそれほど定着していない頃に描かれたていたが、病院を舞台としてまさにケアが何かというテーマを模索しながらユーモアたっぷりの作品として仕上げられていたことを思い返した。本書中で紹介されているエピソードのなかでとくに印象に残ったのは、入院中の星野源が一般病棟に移って窓の外から感じる風や子どもたちの遊ぶ声をきっかけに回復していった話だった。
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ナラティブによる、ケアについて
専門職が仕事の中で語って来たことを民俗学的に集め、ケアとは何か?を専門職の語りから表現して行く。
口語体の部分もあり、はっきりとしておらず、
どうにでも解釈できる。
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ケアとは。ケアするとは。ケアされるとは。
ケアについて様々な角度から考察されています。
赤ちゃんから母親のSOSをキャッチする、のエピソードや、ピアの活動など、「そうだよねぇ」と思わず頷いてしまう場面がいくつも紹介されていました。
ソーシャルワーカーの私にとっては、頭の中で未整理だった経験が整理され、言葉が与えられていく感覚になれる本でした。
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自分自身では本年最高の読後感であった。現場の声から本質を捉えていく方法論で紡いでいく本書であるだけに力があるものだと思う。まずケアのゴールからであるが、「当事者が自身の<からだ>の感覚を再発見し、自らの願いを保てる、そのような力の発揮を目指すことこそがケアのゴールだ」で始まり、以下コミュニケーションを取る、小さな願いと落ち着ける場所、ということでACPにも言及。「いるつら」でも有名になった、存在を肯定する、「居る」を支えるケア、死や逆境に向き合う、「言葉にならないこと」を言葉にする、最後にケアの行方、当事者とケアラーのあいだで、ピアについて言及して締める。言葉にならないことを言葉にすることがその人の力になる、それを援助することがケアにつながることを紡いでいる。あらためて人の話をしっかり聞く、話せれない人でも接触を持つ、アナログではあるがあらためて原点に返る力を与えてくれた本であった。
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ケアについて,現象学的アプローチから実践ベースに語られた良著。私はメイヤロフ,ノディングズなどに明るくないが,それでも読み切れてしまう。
〈出会いの場〉〈からだ〉など現象学チックな言葉づかい,概念も多いが,平易な文章のため難なく読めるのではないだろうか。
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ケアというよく言われる言葉を掘り下げており、様々なインタビューや文献を元に考察しているので、いろいろなケアの考え方を知るにはいいと思う。
ヤングケアラーや終末医療など、ケアとは何か気になっている人は最初に読むといいと思う。興味を持ったら、本でなければ、映画の「こんな夜更けにバナナかよ」がお勧め。
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必要があって読み直したら、〈出会い〉とか〈からだ〉とか、あいまいな言葉ばかり使っていてよくないと思いました。ただし、〈からだ〉の方は「私たちが内側から感じるあいまいな〈からだ〉」と説明がありました。体性感覚とほぼ同じ意味で使っているようです。
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ケアのゴール、【当事者自身が〈からだ〉の感覚を再発見し、自らの願いを保てる、そのような力の発揮を目指すこと】(本文より引用)というのが絶妙にしっくり来た。医療専門職ではない現象学的分析で明らかになったケアの本質を辿る作業がおもしろい。
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研究者である筆者が、対人支援職(看護や福祉職の現場で働く人々)と接し、実際の現場を観察する中で学んだケアに関する本質についてが述べられている。
ケアとは病む人と共にある営みであって、コミュニケーションを絶やさない努力の重要性が本の中で、何度も綴られていた。
人は孤独の中では生きられない。だからこそコミュニケーションを取ろうと声をかけ続けることがその人の存在を支える力になる。
21世紀に生まれて発展してきたピアの文化(同じ立場のフラットな関係の人たちが語り合う場所)も、自分が孤独ではないことを確認する手段の一つであることが記されていた。
また、ケアする立場の人(ケアラー)が注意すべきこととして、当事者へ気持ちを押し付けることなく、同じ目線で考え寄り添うことが挙げられていた。
医療について知識がなくても読みやすく、支援職の方の具体的エピソードもたくさん盛り込まれているので、現場でのケアについて想像しやすかったように思う。
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ACPの小藪さんのポスターの件、星野源さんの入院の件、磯野さんと哲学者の方の対話など、さらなる読書へと誘う一冊。