AIを前提にした企業経営のフレームワークを提示
2024/01/28 09:11
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投稿者:巴里倫敦塔 - この投稿者のレビュー一覧を見る
よくあるDX本に、AIとデータサイエンスのエッセンスをトッピングした書。ハーバード・ビジネス・スクールの教授がAIを前提にした企業経営のフレームワークを提示する。データ、アナリティクス、AIを動力源にデジタルネットワークを活用する「デジタル企業」とは何か、どうすればなれるのか、企業や組織のリーダーはどのように対応し変革を進めるべきかを論じる。
AIファースト・カンパニーではスキルやケイパビリティ、カルチャーを構築するために、リーダーの継続的かつ全面的なコミット、賢明な一意専心のリーダーシップが不可欠とする。ただし過度な期待は禁物である。筆者の主張は「データ・アナリシスやAIで活用できるように、情報システムを全社最適で整備しなさい」なので、普通のDX本と大きな隔たりはない。AIファーストの響きに期待し過ぎると失望するかもしれない。
生成AI以前に出版されており、弱いAIを前提にしているところにも注意が必要である。生成AIが柔軟性に富んでいる点を考えると、いわゆるDX本は根本的な見直しが必要になりそうだ。本書は2020年1月の出版だが、技術革新の速さもあって少し古さを感じる。
筆者は多くの事例を挙げて、AIファーストの必然性を説く。アマゾンやウォルマート、マイクロソフト、エアビーアンドビー、ネットフリックスといった米国企業のほか、中国のアントフィナンシャルを、弱いAIを迅速かつ広範囲に展開し、重要な業務タスクの自動的に実行している企業として取り上げる。各社で共通するのは、AIを中核に置き、人間の労働力の代わりにコードで成り立つ組織を構築したこと。価値提供のクリティカルポイントから人間を外し、周辺に位置づけた。業務固有の知識や専門性よりも、ネットワーク効果や学習効果を重視する。
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『#AIファースト・カンパニー』
ほぼ日書評 Day736
タイトルと内容を見比べると、想像通り「羊頭狗肉」であるが、そこに目をつぶれば、学ぶところも少なくない(Amazon等ではきわめて高評価である)。
ちなみに原題は "Competing in the Age of AI" だ。いかにも生成系AIブームに乗ったような題名は、猛省を求めたい、とまで要求したらやり過ぎだろうか?
加えて、現著の刊行が2020年、その3年後には翻訳版が出たわけだが、紙、印刷、人の手による翻訳、といった従来の常識的手法を自らアイロニー化しているようにも思われる。
ともあれ、本書の主張を一言で示せば、「AI時代の競争に打ち勝つには、胴元は、傘下構成員の囲い込みを徹底し、中抜き取引を断じて許すべからず」ということ。今風な用語を使い、様々な事例を引いて説明を試みるが、商売の肝は変わらないのだと改めて痛感する。
全般を通じて何度も比較言及されるのが、ウーバーとエアビー(AirBandB)。
コロナ禍のさなか、eats等の周辺事業にも積極的に挑戦した結果、史上最高益を叩き出したウーバーについては懐疑的な一方で、祖業にこだわり、利用客数の落ち込みをカバーできなかったエアビーを高く評価しているのは興味深い。
デジタルやAIを駆使したビジネスモデルが革新的とされた両社であっても、逆風下での舵取りは、経営マターであったということだろう。
2年後の評価が楽しみな一冊だ。
https://amzn.to/47I7bD7
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何だかちょっと分かりにくいタイトルですが、
要は企業のDX化について述べた本。
案の定、洋書だからか、本文は分かり辛いのですが、
最後の訳者の解説が優れていて、
そこだけ読むのでも読む価値はある本かと思います。
端的に言うと、既存ビジネスのプロセスを
既存のプロセスありきで
そのままデジタル化しただけでは不十分で、
顧客視点で顧客に提供できる価値を考えて、
その価値を提供する仕組みをゼロから考え、
デジタル化しないと、GAFAを初めとする
デジタルネイティブな会社には到底勝てませんよ、
という風に理解しました
(が、その理解で正しいかどうかは若干怪しいです)。
その全体の仕組みをデザインするのが一番難しくて、
それをどうしたら良いのか、教えてくれる
魔法のような本があったらいいんだけどな~というのが
個人的希望です。
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AIが既存のビジネスを効率化するだけでなく、その建て付け自体を大きく変えうる技術要素であることが理解できる1冊。一方で、本書に度々登場するウーバーの事例のように、AIファーストな企業であっても、必ずしも圧倒的な競争優位を築いているわけではないこと(マルチホーミングやネットワークのクラスタリングによる)も具体の事例をベースに学ぶことができ、AIの持つ可能性だけでなくそれを用いたビジネスの事業経済性や戦略の観点からも複合的に学ぶことができる。
AIがこれまで人が行ってきた判断を部分的にでもITシステム化できるようにしたことで、ビジネス活動における人が思考・判断することでしか行うことができなかった業務の時間・コスト的な制約が取り払われる。これによりAI登場以前には選択しえなかったビジネスモデル・オペレーティングモデルの構築が可能になった。この新たな実現可能性と、それがもたらす競争環境の変化をベースに企業の戦略を検討・推進することが重要。
このような市場・社会の変化がまさにリアルタイムで起きている現代において、その中の1プレイヤーである企業やその中の1人である自身の思考・行動を変化させないわけにはいかない。自身の立場においては技術部門だから技術のことだけを、という所属部門の役割に偏った姿勢ではなく、AIのインパクトを知る技術部門だからこそ、現況における新たな戦略の立案とそれを実現するための各論へ介入する姿勢をより強めていきたい。
ちなみにあと書きに監訳者である吉田素文先生の解説があり、これも必読。本書のまとめとして非常にわかりやすい(DXの『ふりかけ』モデル等の吉田節あり)。
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情報技術の発展により、産業構造は従来から大きく異なってきている。特に日本においてはものづくりが中心で垂直統合型の産業構造が特徴であり、あくまでもプロダクト売りが目的になっていた。しかし、現在はプロダクトではなく、そのプロダクトを利用してどのような顧客体験価値が提供できるのか、自社の枠組みにとらわれず、エコシステムとして価値共創する世界を描き、自社がどのような役割を担うのかを考えなければならない。これは、AI技術や情報データが資産の中心に変わってきたことからその考え方を変える必要があり、産業構造の変化を捉えなければならない。よって、従来の顧客提供価値やビジネスモデルから一歩離れ、顧客視点で改めて顧客体験価値を考え直し、どのように価値を提供するかオペレーティングモデルを考えなければならない。そして、それを理解し、組織を変革するためには、トップをはじめ従業員の理解と変化に対する覚悟が必要と言える。改めて、情報技術、特にAIというものの理解度を上げること、従来の産業構造とこれからの産業構造の変化についてよく学ばなければならないと実感する。従来のやり方に危機感を持ち、そして、これからの変革のために何が必要なのかを教えてくれる本であった。