原色の街・驟雨(新潮文庫)
著者 吉行淳之介
見知らぬ女がやすやすと体を開く奇怪な街。空襲で両親を失いこの街に流れついた女学校出の娼婦あけみと汽船会社の社員元木との交わりをとおし、肉体という確かなものと精神という不確...
原色の街・驟雨(新潮文庫)
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商品説明
見知らぬ女がやすやすと体を開く奇怪な街。空襲で両親を失いこの街に流れついた女学校出の娼婦あけみと汽船会社の社員元木との交わりをとおし、肉体という確かなものと精神という不確かなものとの相関をさぐった「原色の街」。散文としての処女作「薔薇販売人」、芥川賞受賞の「驟雨」など全5編。性を通じて、人間の生を追究した吉行文学の出発点をつぶさにつたえる初期傑作集。
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男と女のあいだ
2011/10/04 12:12
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第31回芥川賞受賞作(1954年)。
吉行淳之介はこの時三十歳で、受賞の報せを結核病棟の夜の病室で聞いたという。
その後の日本の文学シーンでの吉行の活躍を知っているものからみれば、この時の吉行の受賞はすこぶる評判が悪い。選考委員の一人石川達三は選評の冒頭、「吉行君には気の毒だが、この当選作について世評は芳しくあるまいと想像する」とまで言い切っている。
また、同じく選考委員の瀧井孝作は「当選なしが続くのは不可といわれ」と、芥川賞の裏事情まで漏らしている。ちなみに、前回の第30回芥川賞は受賞作なしであった。
宇野浩二委員は受賞作となった「驟雨」については推薦しにくいが、「吉行のこれまでの努力と勉強に対して」芥川賞が決まったとしている。
それほど「驟雨」は作品としての出来はよくないだろうか。
主人公山村英夫は大学を出て三年めの汽船会社で働くサラリーマンである。結婚の意思はない。それよりも、「遊戯の段階からはみ出しそうな女性関係に巻き込まれまい」と心決めている。だから、彼は好んで娼婦の町を歩いた。
その原色の町で「しとやかな身のこなしと知的な容貌」をもった道子という娼婦と出合う。そして、いつしか道子に「遊戯の階段からはみ出しそうな」感情を抱くようになる。
娼婦の町という貧しい性の現場を舞台にしながら、男の愛に対する一途さを描いた作品である。
終盤近く、道子の鏡台から使い古された何本もの安全剃刀を見つけた山村は激しく突き動かされる。それは道子の体に重なる男たちの姿でもあった。
このあとにつづく贋アカシアの葉が「まるで緑いろの驟雨」のようにはげしく落葉する場面は印象的だ。おそらく、主人公の山村の心からもはげしく何かが落ちていったのだ。
どれほど愛しても重なることのない娼婦との恋愛。しかし、それは娼婦だけではなく、男と女の恋愛そのものがそうなのかもしれない。
この受賞作のあとも吉行淳之介はずっとそんな感情をじっと見つめ続けた。
ファインダー
2002/04/21 00:00
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゴンス - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉行は、今で言う風俗雑誌の仕事を経て作家になった人であり、その影響の下に出発した作家である。
吉行が徹底的に描いたことは娼婦である。が、単に娼婦の人間模様、あるいはその行為を描いたのではなく、娼婦というフィルターを通して「女性」を描いたのである。
更に、吉行の小説は一見すると思わせぶりで、数多くの娼婦が頻出するにも関わらず、性描写はほとんどない。そこが吉行の巧さであり、それこそが本物のエロティシズムなのである。簡単に云おう。女性の躰に「触れる」行為と、女性を眺める行為、後者が吉行の小説である。
そしてそれは、「美」や「耽美」なる大袈裟なものに繋がらないからこそ、逆に吉行の小説は輝きを放つのである。
セックスしてから恋愛関係になる、それもありかもしれない
2019/09/07 22:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
散文としての処女作「薔薇販売人」が昭和25年の発表、ついで「原色の街(初稿)」(芥川賞候補)が昭和26年の発表で、「驟雨」(第31回芥川賞受賞作)、「夏の休暇」「漂う部屋」、というのが作品の時系列だが、私たちが読める「原色の街」というのは初稿にのちに二つの作品を合わせて加筆・訂正したものだ。作者が芥川賞受賞の報を受けたのは結核病棟に入院中のことで、その入院中のことを扱ったのが「漂う部屋」。戦前、戦中の結核を扱った小説というのは多数あるが、そのほとんどが結核を不治の病としているが、戦後も10年近くなると結核も不治の病ではなくなっているのだ。「原色の街」や「驟雨」の男女の関係が面白い、彼らはセックスをしたあとで恋愛関係になる。でも、それもありかもしれない
情欲の気怠さ
2001/08/30 09:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:呑如来 - この投稿者のレビュー一覧を見る
性をテーマに据えた小説は数多いが、吉行淳之介の作品はサドの明るさや村上龍の退廃感とは違った“虚無感”が魅力である。精神と肉体を別物ととらえる古い固定観念は作品を枠の中に押し止めてしまってはいるものの、窒息気味の文体から得られる浮遊感は何物にも変え難い。表題作もそうだが、「薔薇販売人」「夏の休暇」は時間を置いて定期的に読み返したいという気にさせられる。