うみしまさんのレビュー一覧
投稿者:うみしま
2021/07/03 22:24
圧倒的な自然描写
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新聞の書評を見たときからずっと読みたいと思っていた本です。
自然の描写力に圧倒されました。まるでジョセフコンラッドの本に出てくるような
濃密な湿地を思い浮かべました。
そのうえで、挿入されている詩ストーリーの展開をになっていることも魅力的です。
著者は動物学者でもあり、長年アフリカで研究をしていたという方なので、
観察力は言うまでもないのですが、小説としてこれほど詳細に表現できる力もある、アメリカのSTEAM教育を目の当たりにした気がします。
訳者の後書きにもあるように、この本はサスペンスとしても上質ですが、少女の成長譚としても、また自然観察の描写としても上質な読み物となっており、とても重層的な味わいがありました。
それにしても、70歳にして初の小説がこれほどの完成度とは。年を重ねることへ少しパワーをもらった気がします。
2017/10/28 07:42
圧巻でした。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
朝井さんの作品は以前、雑誌連載の銀の猫を読んでいたので、軽快な印象を持っていて、本書を読んでみようと思ったのですが、良い意味で裏切られた感じです。水戸藩の幕末の事件のことはほとんど知らずに読み始めました。獄中の描写を読みながら、なぜか、マーティンスコセッシ監督の映画、沈黙の中の拷問シーンが繰り返し甦ってきました。 皮膚感覚というか、ゾワリとした感触が襲って来るような気がしました。朝井さんの描写力の凄まじさに圧倒されました。それだけではなく、幕末の志士らの辞世の句に着目された朝井さんの視点にも新しさが感じられました。中島歌子の心の奥底に秘めた、まさに恋歌には誰もが心を揺さぶられるのではないかと思います。
2021/01/31 13:09
心の煤払い
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変調百物語として書かれている三島屋シリーズ第3巻の解説に、この作品が書かれたのが東日本大震災後であるとありました。あの頃は、日々の不安と共に、体験した者にとっては、「死」を改めて考えさせられる日々だったと思います。亡くなった方への想い、生き残った自らの苦しみ。そんな中で、このような作品を書くことができた宮部さんの胆力は、作中の18歳になったおちか同様日々強くなっているように感じ入りました。作家とは強い心の持ち主だと。
第3巻は凄惨な事件や災害から微笑ましい嫉妬まで、幅広く描かれています。これまでの2巻での体験が主人公おちかを成長させているように、読者もまた少しずつ成長しているのかもしれません。
おちかが初めて本来の意味の百物語会へ参加することで、自らの百物語の意味を見つめなおすきっかけとなり、一面的に「悪」と決めつけていたものが、別の側面では「発心」「よきこと」と位置付けられるということが、読者にも納得できる筋立てです。おちかが参加した百物語会の座元が、「怪談語りは1年一度の心の煤払い」と定めて、語ることで自らを見つめなおし、誰の心にも巣くう闇を闇として見つめながら、語ることで昇華して、客観的に見つめなおす、考え直すきっかけとなることを提示してくれていると思いました。
2020/09/26 20:07
この本に出逢えた幸せ
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新聞の書評欄を見てほしいなあと思っていた本です。そして、電子版で読めると知り、即買いました。上質の短編集は、何度も読み返したいと思う作品ばかりでした。翻訳者の方のルシアへの想いがこもっている言葉選びの力もありますが、選び抜かれた言葉に惹かれます。本作を読んでつくづく思うのは、いかに自分が見ているようで見ていない、見えているようで見えていない。聴いているようで、聴いていない。ということです。ルシアのものを見る力、聴く力に圧倒されます。好きな作品は、「喪の仕事」「ラヴィアンローズ」「さあ土曜日だ」ですが、それ以外の作品もとにかく、とっつきやすいのに、読めば読むほど、味わい深いと思います。私小説を超えた、リアリティがあるのに、幻想的ですらある描写が後をひく、繰り返し読んでいきたい作品でした。
2022/12/04 15:23
ズシリと来る短編集
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米澤さんは言わずと知れた前回の直木賞受賞作家であり、文体、内容ともにすばらしいのだから、当たり前かもしれないが、こんなに重厚な短編集は珍しい気がしました。
イヤミスという一言では言い表せない、恐ろしさ。
いずれの作品も、怖さの中に引き込まれ、止まらない感覚。凄みのある力を感じます。
ベテラン警察官の疑念が、真実をひらく、「夜警」官能的な怖ろしさを見せる「柘榴」表題作の「満願」の3作が特に今まで読んできた米澤さんの青春推理小説とは全く違う世界を見せられて、作家としての重厚さを感じました。これからもどんな姿を見せてもらえるのか、楽しみです。
2022/02/09 14:17
内なる偏見に気づく
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凪良さんの作品を読むのは2作目となりますが、この作品は本屋大賞にもなったので、前から読みたいと思っていました。
職場のダイバーシティ研修で、内なる偏見に気づくところからが、出発と言われたのですが、正に本作によって、そのことが腑に落ちた気がします。自分では一生懸命気遣っていると思い込んでいることが、相手にとっては、何のためにもなっていない、あるいは、もっと、傷つけているということを、知ることがいかに難しいのか。
また、相手を気遣っているということは、あくまで主観に過ぎないこと。そして、自分の常識は他人の非常識であることを知ることの難しさ。相手の立場に立つことは、本当に難しい。それでも、人と関わりを持たなければ生きてはいけないのだということを、やさしい言葉で語りかけられたように感じました。
2020/12/30 22:58
ご縁
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宮部さんの作品が徐々に電子化されていることは本当にうれしいことで、早速買い求めた1冊です。
変調百物語ということで、怪談ものに属する作品ではありますが、やはり宮部さんの作品ならではの、単なる怖い話ではなく、そこから立ち上がる勇気とそれを支える人の愛情や縁を強く感じました。つらい経験をしたおちかが、黒白の間で客から聴く話はたしかに「おそろし」なのかもしれませんが、もっと怖いのは人の心。しかし、その人の心も光の当たり方で全く違う表情を見せる。人を殺めた側も殺められた側も、ほんの紙一重の心だという怖ろしさと同時に、そこから立ち上がり、ご縁によって力を得て、立ち向かうことも人の心という、勇気を見せていただいたと思います。
2017/07/22 17:45
直木賞残念でした。
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ずっと読み続けている作家さんです。女子を書かせたら天下一品です。そんな柚木さんが、事件物?とびっくりしながら読み始めました。やはり女子の心理描写は天下一品で、グイグイ惹きつけられ、引き込まれました。直木賞獲る気なんだなとその気迫を感じました。今回賞は逃したけれど、新しい世界が拓けたのだと確信しました。これからも応援したい作家さんです。
2017/09/23 17:57
伊藤くんだけではない
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軽い題名につられて、読み始めましたが、やはり女の子の心理描写にドンドン引き込まれました。そして、女の子のみならず、誰にでもある負のベクトルに斬り込んだ本作は、近作のBUTTERにも繋がる布石のような気がしました。
2023/05/16 01:32
YOASOBIとコラボ
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YOASOBIは、紅白歌合戦で見たことがあるという程度でした。NHKて、この小説集とコラボしている曲を聴いて、また、作家との対談を聴いて、読みたくなりました。
まず、コンポーザーのAYASEさんの小説の読解力の凄さには脱帽です。
いずれも力のある直木賞作家の作品を丁寧に読み、深く理解して、それをうまく歌曲にまとめられるのは、読解力だと思います。4人の作家の小説に対して、AYASEさんは一人で曲にまとめているのですが、4人の作家のテイストだけでなく、文体の違いや物語を短いフレーズで表す、アンサー曲のような感じがしました。
曲を聴いてから、この小説集を読むと、味わいが深まる気がしました。
あの宮部さんに、私はこういうことが書きたかったんだと納得させた曲作りは凄いと改めて感心しています。
4つの物語それぞれに、味わいも異なり、また、それぞれの文体も異なる作品集は、何度も繰り返して読み返したいと思いました。特に好きな作品は、島本さんの「私だけの所有者」が、繊細な心情の描写と、サスペンスのような物語の世界が最後に融合される感じがして良かったです。
可能ならば、YOASOBIの曲を聴く前と聴いた後に読んでみるとより物語を味わうことができるのではないかと思います。
2023/01/21 07:58
重厚長大
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新聞の書評で知ってから、しばらく経って、ちょうど帝銀事件のテレビ番組を見て、本書のことを思い出して購入。下山事件については、学生時代に熊井監督の映画を観ていたので、興味がありました。
本書を読み始めてすぐに文体の重々しさが、ジョセフコンラッドに似ていると感じました。解説を見てなるほどと思いました。下山事件は、さまざまな映画、小説などが出ているのですが、まだ解明されてない戦後の謎とされています。本書はそれを3つの時代に分けて、それぞれ別の視点から描いています。
ミステリーともいえますが、これまでさまざまな形で発表された説をなぞっているようにも感じます。
しかし、外国人作家が、日本文学、新聞資料その他書籍をここまで調査、研究して描いていることはとても凄いことだと思いました。
文体の重々しさに慣れてしまえば、興味深く読める作品だと思いました。
2021/10/11 21:24
懐かしい本
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10代に熱狂的に読書をしていた頃、この本が最愛の一冊だった。何度も繰り返し読んでは感激していた筈だ。が、うん10年振りに、電子化された本書を手に取った時、あれ?こんな話だったか?と思った。大学時代に友人にも勧めた際、それ程良いと思わないと言われたことを思い出した。確かに、何歳で読んだかによって印象はこうも変わるのだと実感した。現代の若者が読んだら、ちょっと古典なのかもしれない。それにしても、大江健三郎、柴田翔、村上春樹という流れが好きな人にはわかるかも。
2021/03/31 14:35
鬼はどこにいるのか?
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宮部作品が電子化されて本当に嬉しく、さらに電子特典もついている一冊。
宮部さんは、怪談やホラーを多く書かれていますが、一貫しているのは、ただ、訳もなく怖ろしい
のではなく、怖ろしい結末であっても、読者に一緒に考えさせるような趣があります。
本作も怖ろしいのは、人のこころの持ちようということが、ちりばめられています。
人は生きていれば楽しいことも、つらいことも、意地悪をされることも、することもあって初めて生きているということだと、「安達家の鬼」の姑が話すシーンがあります。
まさに、どんな人もこのようなこころの動きはあり、誰もが清濁を身の内に持つのだけれど、
それでも、懸命に生きていれば、「鬼」になることはないという宮部さんの想いが伝わってきます。
人を陥れず、羨まず、驕らず、ただひたすらに働いていくことが身を立てることになり、懸命に生きることで「鬼」にはなることはない。その部分にとても共感しました。このことは、自分への励ましとも、戒めとも感じられました。
2020/05/05 19:15
圧倒的な身体表現
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桜木さんの表現の巧みさは今まで読んだ作品から十分わかっていましたが、本作はダンスシーンンの表現をはじめとして、身体表現の巧みさに惹き込まれました。ストリッパーを取り上げた作品は、以前星々たちという作品にもありましたが、本作では終盤に鬼気迫る老ストリッパーの踊りを表現している部分が、圧巻でした。物語としては、生きなおすというテーマが強く感じられ、桜木さんの通奏低音のような一貫した想いを感じました。
2020/01/12 12:55
宮部作品が電子で読める幸せ!
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この作品は今をときめく5人の作家の作品を一度に読めるアンソロジーです。しかし、それ以上にすごいのは、電子化されない宮部みゆきさんの作品を電子版でも読めることだと思い、早速手にしました。
冒頭の宮部さんの作品は、不思議な話として始まるのですが、最後に非常にダークなまま終わる怖さがあります。このモチーフを引き継ぐように辻村さん、薬丸さん、東山さん、宮内さんと繋がり、最後に宮部さんの作品の冒頭に見事に繋がっています。そういう意味でも、単なるアンソロジーというよりも緩やかな繋がりのある連作短編集のような作りでもあります。宮部さんの作品は怖いままですが、最後の宮部さんの作品で、ほのかな解が見えて来る気がしました。人の心が最も怖いのかもしれませんが、それは気づきで再生されるものなのかもしれないと感じました。
宮部作品が是非電子化されることも祈りつつ。