天使のくまさんのレビュー一覧
投稿者:天使のくま
旱魃世界
2023/07/27 08:50
破滅に向かう人が見る光景
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本書を読みながら、ずっと東京オリンピックのことを考えていた。
オリンピックそのものに反対だし、まして東京オリンピックなんかコロナとは関係なく、開催すべきではないと思っている。スポーツの国際大会を否定するつもりはないけれど、誰かの努力に乗っかって勝手に感動しているのは気持ちが悪い。金メダルをとった選手がたくさんいる国よりも、誰もがやりたいスポーツを自由にできる国の方が豊かだと思う。スポーツ観戦はきらいじゃないけど、国を背負って競技しないでほしいとも思う。栄誉は個人のものだ。
とはいえ、コロナの感染拡大が懸念されるという理由でオリンピックを中止すべきだということには、違和感がある。コロナがなくても中止されるべきなのに、何か言い訳をしているみたいで気持ちが悪い。
でもその一方で、IOCとJOC、日本政府と東京都庁はオリンピック開催に向けて止まらない。そこには、狂気すら感じる。たとえ感染が拡大し、世界中で大きな被害が起きたとしても、IOCやスポンサー企業や電通やパソナを守るために、やめるわけにはいかない、ということだろうか。たかがそんなことのために、多くの人の生命を危機にさらす。破滅に向かわざるを得ない、そんな狂気だ。
バラードの破滅三部作は、これまで『結晶世界』しか読んだことがなくて、なんかうまくその世界に入っていけなかった。それ以降のバラードの長編はだいたい入っていくことができたのに。おかげで、この時期のバラードの長編には手を出していない。でも、その理由として、バラードの作品をどう見ているか、先立つものがあるのだろう。『結晶世界』を破滅する世界でどうにか生きようとする、そんなストーリーの小説だと思って読み始めて、うまく入り込めなかったのではないかと考えている。そうではなく、破滅する世界にいる人がどのような光景を見ているのか、ということが描かれている小説なのだろう。それは、破たんするオリンピック大会を強引に開催しようという人たちの内面にも似ているのかもしれない。当事者たちには、それが見えていないし、どんな形にせよオリンピックを開催することが、望ましい世界なのだから。
『旱魃世界』は、ある意味で奇妙な翻訳だ。訳者の山田和子があとがきで述べているのは、その後のバラードの作品をすべて読んだ上で、この本を訳しているということ。それは最初から、この本が破滅する世界で主人公がどう生き延びようとするのかというストーリーを扱った小説ではなく、破滅する世界にいる主人公が見ている光景を描いた小説だと、そのことが明確に意識されて翻訳されているということだ。ぼくもバラードの作品はだいたい読んでいるので、そういった前提で、『旱魃世界』のランドスケープを読むことができる。それは多分、『強風世界』と『沈んだ世界』しか読んでない人が訳すこと、読むこととは違うのだろう。だから新しく訳されたのは、『スーパーカンヌ』や『コカインナイト』につながる『旱魃世界』である。
ごく普通のストーリーであれば、主人公たちはなぜ破滅する世界と戦うのだろう。しかしバラードの小説ではそうはならない。破滅する世界はユートピアでもあるのだから。コロナの中で開催するオリンピックもまたユートピアなのだろう。世界中のお金持ちが関係者だということでスポーツを観戦しながらお酒を飲むイベント、そんなことそのものが狂気の世界なのではないか。そこにいる人たちにとっては、オリンピックを開催しないことそのものが理解できないはずだ。もちろん、多くの人たちがそんな破滅の世界に巻き込まれるべきではないのだが。
2024/11/28 15:52
童話×ミステリーはなかなか新鮮
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童話をアレンジしてミステリーにする、というのはなかなか新鮮な発想だと思いました。
それなりに3巻までおもしろく読めました。
赤ずきんもなかなかブラックな感じがして、それはそれでいいと思います。
ミステリーとしては、魔法がある世界で、合理的な説明をされても、どうなんだ、というような気がしないでもないですが、それはまあ、いいとします。
ただ、読後感はどうかというと、犯人がちょっとかわいそうになってきて、救いがない感じもします。
そのあたりで、ちょっと☆を減らしています。
2024/11/13 11:14
退化した日本の姿
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核戦争などがあって文明が崩壊した近未来、日本は3つの国に分裂し、戦争している、という設定。
「三国志」がネタとして使われているのだけれど、それ以上に、日本の退化した姿、というかメンタリティが妙にリアルな気がする。何より、登場人物に少しも感情移入できないのだけれど、そのことも含めて、面白かった。でも、実際にウクライナやパレスチナ、レバノン、あるいはスーダンやミャンマーもだけれど、そこで起きていることを考えると、想像力がまだまだ足りないのかもしれない、とも思う。そうしたことも含め、今後に期待したいしたく、その分、星を少なくしました。
2024/11/09 08:43
80年代は遠い昔
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ぼくとしては、雰囲気は60年代か70年代だって思ってしまうのだけれど、80年代の大阪が舞台。美化されるような遠い昔になっちゃったのかな、と思いながら読みました。ピンクレディとか、阪神のバースとか、懐かしいですけど。お父さんは70年代フォークだしなあ。80年代はテクノポップだったから、そこもギャップ。
少女の成長物語としても、面白いです。よくできているかな。
あと、大阪の銭湯には洗髪料があったとか。これは知らなかった。
でも、ちょっとべたな感じもして、そこでちょっと減点してしまいました。
2024/10/17 10:18
困っているところに行って人を助けることが自分を救う、のかもしれない
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精神科医が総合診療医になって、しかもへき地に移住して、そこでいろいろな体験をする、というエッセイ。
基本的に連載をまとめたものなので、話題の繰り返しがちょっとじゃまかな、と思うこともあるけれど、基本的に北海道に移住したことの発見は、こちらにもいろいろ伝わってくる。
医者といいつつ、マニュアルを見ながら診療したりとか、不安もないわけじゃないけれど、逆に医者を身近に感じることもできる。
あと、著者の転職のきっかけがアフガニスタンで亡くなった中村医師である、ということはきちんと書いておきたい。結局のところ、困っている場所に行き、人を少しでも助けることで、世界は少しずつ変わっていくのかもしれない。そんな視野を持ちながら、地方で働く、ということもあるのだと思う。
著者は還暦過ぎでまだ新米の総合診療医なので、熟年のキャリアのありかたということも考えさせてくれます。
2024/09/26 19:37
ちょっとひねりがあるのはよかったかも
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調布市住民なので、読んでみました。
正直、駅とはあんまりかんけいないかなあ、とは思います。
まあ、著者の名前も京王線の駅なのですが。
でも、それぞれのエピソードはちょっとひねりがきいていて、ちょっと面白く読めました。
キャラクターは、いまいちかも。
ラストは、まあ、何というか。
でも、それ以上ではないかなあ。評価がちょっと辛めですみません。
2024/07/15 06:57
学習漫画を思い出す
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絵のタッチといい、内容といい、学習まんがを思い出します。
農村での生活の、それもわりと昔の生活の、理論的な内容、といえばいいのでしょうか。
田んぼのしくみとか、狩猟の方法とか、いろいろ学ぶことができます。
まあ、実際に狩猟をするかどうかは別として。
現想と幻実 ル=グウィン短篇選集
2023/08/23 08:24
ル=グインの技巧を堪能、でも長編のが好き
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ル=グインの自選短編集から未訳の作品を選んだもので、生前最後に発表された「水甕」まで収録されている。SFばかりではない。地上のどこかでの話(現想)と他の宇宙・内なる世界(幻実)の2つのパートに分かれていて、ハイニッシュユニバースの短編も含め、ル=グインの多様な作品が読める。
ル=グインの書いていることって、「みんなはこんなふうに思っているのかもしれないけれども、実際のところ、こんなことなんじゃないのかな」ということなんじゃないかな、と思う。というのがよくわかるのは、本作品中でもっともよみやすい「狼藉者」。「いばら姫」を題材にしたこの作品、別の視点からの語り直しではあるのだけれども、まあ誰もが王女にキスしたいわけじゃないよね、と。あるいは最初の作品「ホースキャンプ」は、「馬ですけど何か?」という感じ。
そう思うと、ル=グインにとってのフェミニズムも、「ジェンダーとかセックスとかみんなこんなふうに思っているのかもしれないけれど、本質的にはこうなんじゃないかな」ということなんじゃないか。でも、「こうなんじゃないかな?」と言われて困る人は、「竜が怖い」人でもあるんだろうな。
ル=グインは長編の方がはるかに読みやすいと思う。まあ、そうじゃないのもあるけど。でも、改めて短編を読むと、ル=グインがどれほど技巧的な作家なのか、ということがよくわかる。その技巧が、最初に言ったことをシンプルに伝えてくれる。「水甕」に示されているのは、ル=グイン自身が自分の小説を「ある所から別の場所に行く、場合によっては元の場所に戻る話」だとしていたし、構造はとてもシンプルなものが、最後まで続いていること。というか、作家としても元の場所に戻っているのかもしれない。
パッサカリア
2023/07/27 08:53
風景の変奏
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ロベール・パンジェの名前を最初に知ったのは、遠い昔、新潮社から出ていた「フランス文学13人集」全4巻の解説。そこで、どういった基準で13人を選んだのかが記されているが、次の機会に見送られた作家もいる。その中にパンジェの名前があった。次の機会がまさか今年だったとは、と思わずにいられない。同じく見送られた作家としては、ベルナール・パンゴーは『囚人』以外見るものないとされ、ピエール・ド・マンディアルグはその後ずいぶんと訳されている。今さら、フランソワーズ・サガンもないだろう、と。
そのパンジェの『パッサカリア』である。ヌーヴォ・ロマンである。冒頭、馬小屋の堆肥の中で死んでいる男性の姿から始まる。それが誰なのかわからない。推理小説のように始められたこの作品は、けれども真相にせまることはなく、農村の光景がさまざまな時系列で描かれ、いつのまにか男性が死ぬ場面にたどりつく。人の営みが、かつてあったことが、音楽のように変奏されていく。何だかわからないけど読んでいるのが快感、というものでもある。記憶はつねに変奏され、個人的なものとして記憶に定着していくものなのかな。
女肉男食 ジェンダーの怖い話
2023/04/23 10:16
デタラメを信じる小説家の狂気の迫力がすごい
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最初にきちんと言っておくと、ターフの主張はでたらめです。
女湯のちんこのついた性自認女性が入ってくる危険性が指摘さえていますが、そもそもそれって、夫婦別姓にしたら子供がかわいそう、という右翼の論点ずらしとなんらかわりません。トランスジェンダーの人はそれなりに銭湯に悩む人もいるし、それがわかっているから、トランスジェンダー向けの日を設けた銭湯すらあります。そして、性自認がどうであろうと、女装して女湯に入ろうするすバカはいるし、女子トイレでのぞき見するバカはいます。
それから、身体で性が決まるということにしてしまうことで、少なくないトランスが問題に直面していることは、理解されてもいいです。そして、メスをいれなければ性転換できないとしてしまうと、ちんこのついた女性というのが「じぶんらしい」と思う人は否定されてしまう。それでなくても、トランスの人に肉体的負担を求めるのはどうか、と思います。
それに、そもそもジェンダーとはなにかということについて、著者は無知すぎます。
その上で、著者が長年、肉体が女性であるということによる抑圧を感じてきたことは理解できますし、それが「水晶内制度」のような作品になっていることも理解します。同時に、著者はジェンダーからもセクシュアリティからも離れたところで活動してきており、そのことが、二元論におちいる身体のセックスにしかアイデンティティを求められないといえるでしょう。そのアイデンティティを奪われる危機を、性自認やジェンダー論、クイア理論から感じるのではないでしょうか。そして性別二元論が、女性を男性と分けたがる、右翼の思想と共鳴しており、山谷えり子という日本会議支援の政治家とつながってしまいます。
日本に限らず、ターフの思想が右翼とつながってしまうというのは、他の国でもみられています。
でも、ターフが否定しているのは、自分が自分らしくあるという思想なのです。バトラーのクイア理論の根底も、わかりやすく言えば、自分自身を説明するものなのです。そして、既存の性別にアイデンティティをもつ人は、そのことを受け入れられないということです。
というころで、著者の主張はまったくのデタラメだし、そんなものを真実だと信じられても困ります。
本書で取り上げられている「トランスジェンダー問題」を読むことをおすすめします。そこでは、本当にトランスが困難な状況にあることがわかります。同時にマイノリティの救済はなかなかおこなわれない、というのはどの国でも同じです。
とまあ、そういう本なのですが、さすがに小説家だけあって、デタラメを信じる狂気は、とても迫力があります。そういうつもりで読むと、けっこう楽しめます。
その楽しさということだけで、★を増やしています。
笙野頼子発禁小説集
2023/04/23 09:55
著者の最後の傑作を収録、でも性自認の問題はデマなので注意
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あらためて、笙野は特異な私小説作家だなあと思った。
発禁だということだけれども、その理由は政府批判ではない。というか、発禁というよりは、出版社の自主規制というのが、笙野の見方なのだけれども。
笙野が次に問題にしたのが、性自認問題。LGBTQ問題を背景と舌、性は自分で決めればいいという運動に対し、そうなったら女湯にも陰茎のついた自認女性が入ってきて、女性の居場所がなくなる、という。笙野の小説の主人公は、性自認が認められたら、女性という存在が消されてしまうと訴える。そして、この問題を取り上げた作品の掲載や出版を、講談社は拒否したということだ。もはや、笙野の原稿を掲載してくれるのは、鳥影社の「季刊文科」しかなく、本書も『発禁小説集』として鳥影社から出版された。
とはいえ、そもそも性自認の問題は、笙野の小説が指摘するような問題ではない。そもそも、性が単純に2分できるものではないというところに、LGBTQ問題があるし、その多様性はわりと社会では認められるようになってきている。だからといって、女湯や女子トイレに男性が入っていくというのは別の問題。たしかに、そうした事件が起きていることは事実だが、陰茎のついた自称女性は排除されていたはずだ。とはいえ、では、女性だとしか思えないような男性が女湯や女子トイレに入ったらどうなのか。女子トイレは基本的に個室なので、防ぎようがないけれども、同時に実害も考えにくい。隠しカメラを置くかもしれないけれども、それは女性がやっても犯罪だ。女湯の場合、裸になってしまうので、排除されてしまう。豊胸手術をした陰茎付き女性の場合、下半身を隠していたらわからないけれど、そもそもそこまでしたら、男湯に入るのもためらわれる。銭湯に行けないトランスセクシュアリティの方々のために、いくつかの銭湯ではLGBTQの日を試行したこともある。
性自認を問題視する笙野の小説の主人公は、性の根拠を身体に求めているという点では、極めて保守的だ。こうした文脈から、笙野はフェミニスト(とりわけ学術フェミニスト)を敵と見なし、さらにこれに同調するリベラルな日本共産党などには裏切られたとする。近年、積極的にジェンダーの問題を取り上げているけれども、実態は男尊左翼だということだ。さらに、性自認の問題で真実のことを語る政治家は、自民党の山谷えり子だけということであり、選挙では震える手で「自」という文字を書く。
笙野は性自認の問題についてヒステリックなまでに指摘する一方、そこには社会を覆う妖怪の姿はあまり強く感じられない。全体を通して感じるのは、デマを通じてリベラルを信じられなくなった人が、保守派に回収されていく姿である。そのことが私小説として書かれる。そうした形で作品が成り立っていく、というのが、あらためて笙野が特異な私小説を書いてきたということを感じさせるということだ。妖怪に引き込まれた作家は、これまでの特異な世界を描かない。
本書のもう1つのテーマは貧困だ。コロナ禍と先の掲載拒否によって、収入が減少し、金策が必要となる。困窮した状態をリアルに描いた「質屋七回ワクチン二回」は、ひょっとしたら笙野の最後の傑作かもしれない。
ピュア
2023/04/07 11:11
ちょっと古いかな、と感じなくもない
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表題作は「SFマガジン」に掲載されてちょっと話題になった作品。ぼくも銭湯小説『メゾン刻の湯』の作者ということで、掲載時に読んだ。女性が男性を食べないと妊娠しないという世界の話である。
ジェイムズ・ティプトリーJrの「愛はさだめ、さだめは死」という短編と比較する人は多いと思う。でも、「ピュア」は、生物学がテーマのSFではない。むしろ、他の作品も含めて、女性の生きにくさをSF的な設定を利用して描いているのではないか。女性が男性を食べるというのは、生物学的な要請ではなく、極端なジェンダーとしての結果となっている。また、「ピュア」に描かれた女性同士の絆は、現実のホモソーシャルな男性社会の裏返しではないかと思う。だから、そうした現実認識の一方で、ストーリーそのものはわりとシンプルなラブストーリーとなっている。そこが、弱みでもあり共感を得やすいしくみでもあるんだろうな。
なお、ぼくの中ではそもそも「愛はさだめ、さだめは死」への評価は低い。生物学がテーマのSFとしては、アイデアのみで掘り下げが足りないんじゃないかと。「汝が半数染色体の心」から「一瞬のいのちの味わい」にいたる、生命の持つ本質的な残酷さと心理の深さに比べると、どうしても劣るんじゃないか、と。
「バースデー」は主人公の親友がいきなり性転換して恋人になろうとする話。FTMの話のようであるけれども、それはセクシュアリティというだけではなく、やはり女性としての生きにくさが反映されているのではないだろうか。そうでなければ、性転換する必要などなかったはずだ。
「To The Moon」における、女性だけの世界へのあこがれもそう。あるいは「幻胎」では、一方的に妊娠・出産から逃れられない女性。
女性の生きにくさをあらためて説明することもないのかもしれないけれども。でも「ピュア」を例とすれば、学校においては名簿にも示されているように、女性は男性の後という位置に置かれ、スカートの制服を強制させられている、といった刷り込みがある。その裏返しとしての世界だ。
正直に言えば、このテーマでもっと奥深く入り込んでいけると思うのだけれども、表面的な気がしないでもない。同時に、現在なお、表面的な部分で共感が得らえてしまうような、社会そのものの進歩のなさも感じてしまうのである。
わたしは灯台守
2023/11/28 10:52
人生の断片を描いた幻想小説
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「長崎」が傑作だったので、新刊として出た短編集も買ってしまった。書かれた順は前後することもあり、「長崎」ほど切れ味が良くはないけれども、同じように奇妙な話がいくつも収録されている。
冒頭の「列車が走っている間に」は、人々が走っている列車の中で生活している世界の話。並走する他の列車の人とは接することはなく、窓を通して知ることができるだけ。それも、列車は互いに行先が違うので、いつまでも並走しているわけじゃない。そんな世界で、主人公は並走する列車の窓の向こうにいる女性に恋をする。表題作「わたしは灯台守」は、孤島の灯台に住みこみ、長くその仕事を続けている主人公が、やがて灯台の無人化によって去らなければいけなくなっていく、そんな話だ。
生きるということは、何かにこだわり、それを形にしていくことに意味を見出すものなのかもしれない。それが他の人にとっては、理解できないものであっても。読者もまた、他の人だからこそ、奇妙に思えてしまうが、同時に主人公に感情移入することで、その想いもすくいあげることができる。
そんな人生の断片を描いた幻想小説として、しみじみと読める傑作。
2025/01/05 10:26
ネメシスの1冊
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けっこうネメシスの試合が気合が入って描かれていて、それだけで満足してしまいます。
でもそれ以上に、次巻につながるのが、テリーマンとネプチューンマン。とりわけテリーマンが楽しみです。
ぼくのはそっちのほうがポイントが高いです。
2024/12/31 11:41
高橋一生が目に浮かぶ
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なんか、NHKのドラマの印象が強い岸部露伴だが、読んでいて高橋が演じている印象が強くて、目に浮かぶ。というようなセリフの書き方とか、柴田勝家のうまさなんだろうな。
ストーリーもよくつくられていて、ヘブンズドアが効かない相手とか、いろいろピンチになります。
他の登場人物も荒木飛呂彦の絵が目に浮かぶようです