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時には忘れることも大事。進化の視点から見た忘却のメリットとは?

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うっかり忘れものをしてあちゃーな顔をする女性この画像を大きなサイズで見る
Photo by:iStock

 買い物しようと町まで出かけたら、財布を忘れて、愉快なサザエさん現象をリアルで体験してしまうとか、用事があって席を立ったはずなのに、何をしようとしていたのか忘れちゃうとか、そんなときは自己嫌悪に陥ったりするものだ。

 物忘れは、多くの場合、ネガティブにとらえられがちだが、実は人間は、物忘れをするように進化をしてきたのだという。

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 四六時中物忘れをするのはまた別の問題だが、物忘れは、人間が生き延びるための生存戦略の1つなのだという。

 いったいどんなメリットがあるのか?では詳しく見ていこう。

 トリニティ・カレッジ・ダブリンの神経科学者スヴェン・ヴァンネステ氏とエルヴァ・アルルチェルヴァン氏は、The Conversationで、忘れることの利点について説明してくれている。

人が物忘れをする理由とは?

 19世紀のドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは、人が物事を忘れる理由は、ただ単に記憶が薄れていくことが原因だと考えた。

 彼が考案した「忘却曲線」によると、私たちが何かを新しく覚えたとき、その細かい部分はあっという間に忘れてしまうが、その忘却速度は時間とともに緩やかになっていくという。

 これは忘却についての初期の研究成果で、最近では神経科学的に再現されている。

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忘却曲線が示す物忘れのスピード。最初のうちは細かいことをどんどん忘れてしまう/Cloud Assess

忘れることの機能的役割

 だが忘却は、ただの時間による記憶の風化というだけでなく、機能的な役割があると考えられる。

 と言うのも、私たちの身の回りには洪水のように情報があふれているからだ。

 もしも、そのすべてを記憶しようとすれば、本当に大切な情報を記憶しておくことが難しくなるだろう。

 それを防ぐ方法の1つは、無視することだ。

 ノーベル賞受賞神経学者エリック・カンデル氏などによる研究では、記憶の形成を支えているのは、脳内の神経細胞同士のつながり(シナプス)の強まりであることを明らかにしている。

 何かに注意を払うことは、シナプス結合を強化し、その記憶をより濃いものにすることにほかならない。

 だから、それとは逆に注意を向けないことで、身の回りに溢れているどうでもいい情報を忘れることができる。

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image credit:unsplash

記憶の柔軟さが先祖の命を助けてくれた

 新しい情報に対処するために、それまでの記憶が書き換えられ、それが忘却につながることもある。

 例えば、日々の通勤・通学では、いつもの道順をたどるだろう。するとその都度、脳の結合が強化され、その道順がしっかりと記憶されていく。

 ところが、ある日、道路の1つが通行止めになり、しばらく別の道を迂回せねばならなくなったとする。

 この場合、新しい状況に対応するために、記憶を柔軟に修正してやる必要がある。そのためには一部の記憶結合を弱めて、新たな結合を強化する。こうすることで新しい道順を記憶するのだ。

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いつものように車で会社についた時、そこまでどうやって運転してきたか覚えていないことはないだろうか?Photo by:iStock

 こうした記憶の更新ができなければ、困ったことになる。例えば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、恐ろしい記憶を更新できず、それによっていつまでも苦しめられる症状だ。

 こうした記憶の柔軟さは、私たちの祖先の命を救ってきたのだ。

 例えば、狩猟採集生活を送っていた私たち祖先が、安全な水場を発見し、日々そこを訪れていたとしよう。

 ある日、そこで敵対する集落や危険な野生動物を発見した。

 この場合、彼らの脳は、水場がもう安全ではないと記憶を更新する必要があった。そうすることで、命を落としかねない危険から身を守ることができた。

忘れたようで本当は忘れていない

 じつは忘却の中には、単純に記憶が失われたことが原因でないケースもある。記憶自体はあるのに、そこにアクセスできなくて思い出せなくなっているのだ。

 たとえば、マウスによる実験では、忘れられたはずの記憶がシナプス結合を助けてやることで思い出されることが確認されている。

 またアクセスできなくて思い出せないという経験は意外と身近なものだ。何かの名前が喉元まで出かかっているというのに、思い出せないという経験は誰にもあるだろう。この現象は「舌先現象」とも呼ばれている。

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喉元まで出かかっているのに思い出せない。それは頑張れば思い出せるという脳からのサインかも Photo by:iStock

 1960年代にこれを研究した心理学者ロジャー・ブラウンとデビッド・マクニールは、名前を思い出せない人が、その名前の要素(たとえばSで始まる、短いなど)を特定できることに気がついた。これは情報が完全には忘れられていないことを告げている。

 舌先現象についての仮説によれば、思い出せないのは、名前とその意味を結びつける記憶結合が弱まったからであるという。

 だが別の可能性として、情報はきちんとあるのに、ただアクセスできないだけであることを伝えるサインとして機能しているとも考えられる。

 そう考えると、年齢を重ねて知識が増えた人ほど、舌先現象を経験しやすくなる理由をうまく説明できる。

 脳にたくさん情報がある人は、それらを整理して特定の情報を思い出すことが大変になる。

 そこで脳が舌先現象を経験させて、「情報自体は消えていない、頑張れば思い出せるぞ」と告げているかもしれないのだ。

物忘れには進化的なメリットがある

 要するに、私たちが物事を忘れるのは、理由あってのことなのだ。

 情報を無視したり、時間とともに記憶が薄れたり。ときには記憶を更新するために、古い物事を忘れるかもしれない。

 あるいは忘れたと思っていた記憶が、じつは忘れてはおらず、単にアクセスできないだけということもある。

 こうした忘却はどれも、脳が上手に機能するためのもので、私たちの祖先はそのおかげで生き延びてきた。

 アルツハイマー病のような病気による忘却に問題がないというのではない。

 ただ忘却には進化的なメリットがあることを忘れてはいけない。だから言おう、たまにうっかり物忘れをしても、それは進化上の利点の1つであるのだと。

References: The evolutionary benefits of being forgetful

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この記事へのコメント 11件

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  1.  認知症などの老化プロセス。外部情報が、凝り固まった固定観念・既定記憶と機械的なオン・オフ反応しかしない。新発見、新認識が起こらない、新しい脳内回路が形成されない。その種の人たちは、恐ろしい速さで老化退化していく。
     新しい気づきや発見がなくなったら、あなたの脳機能は劣化退化プロセスに入っている!

  2. もともと反復強化しないと忘れるものだが催眠術とか香り刺激などがあるとかなり細かく思いだせるから
    記事通り、消えるというよりアクセスの容易さが変わるのが忘れるということだろう
    ただ人に話すことほど思い出が変容する気が…
    あの尾鰭が付くというのはなぜだろう

    1. 脳を無くしたんですか?
      脳をなくして進化と言うなら脳はミミズにとって不必要な物だったんでしょうか?

  3. 忘れたい事はいつまでも覚えているのに、覚えていたい事ほど忘れていく

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