亀の背に乗る観音様
おふさ観音の通称で知られる無量山観音寺は、橿原市小房町にある小さな寺院。毎年七月と八月の二ヶ月間行われている風鈴まつりへ行ってきた。
無量山観音寺 【むりょうざんかんのんじ】 | |
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所在地 | 奈良県橿原市小房町コイノクチ6-22 |
宗派 | 高野山真言宗 |
御本尊 | 十一面観世音菩薩 |
創建 | 慶安三年(AD1650) |
開山 | 妙円尼 |
寺格等 | 高野山真言宗別格本山 |
別称/旧称 | おふさ観音 小房観音寺 癪観音 |
昔、大和国高市郡四分村におふさという娘がいた。この一帯が鯉ヶ淵という大きな池だった頃のことだ。
慶安三年(1650)四月十八日早朝、おふさが池のそばを歩いていると、突然水面に波が立ち、朝霧の中から観音菩薩が白い亀の背に乗って現れた。おふさは池のほとりに小堂を建てて観音を祀り、いつしかそれはおふさ観音と称ばれるようになった。それが観音寺の始まりだという。
四分村からの分村で小房村が成立したのが明和六年(1769)のことだ。小房の地名は寺の通称から採られたのだろうか。
現在の本尊十一面観音は天明二年(1782)頃、妙円尼によって寺院としての体裁が整えられた時に、十市郡下八釣村(現橿原市下八釣町)から迎えたものだという。この像は空海作とされ、もと比叡山北谷(東塔・西塔のどちらの北谷かは不明)の観音院の本尊だったもので、織田信長の比叡山焼討の時に住僧覚澄が持ち出して下八釣に遷したと伝える。癪に悩む人のために覚澄がこの観音に祈念したところ痛みが治まったことから、癪観音と称ばれた。
厄払いの音色
おふさ観音は「薔薇と風鈴の寺」と称ばれている。境内に約三千八百種、約四千株のイングリッシュローズが所狭しと植えられており、春と秋には色とりどりの花が咲き誇る。
そして夏は風鈴。二千五百個の風鈴が境内いたる所に吊り下げられ、風に揺られて澄んだ音を響かせる。
風鈴のルーツは風鐸という、古代中国で寺院の軒先に吊り下げた小さな鐘。その音に魔除けの効果があるとされていた。
この地域では昔から夏に厄払いのお参りをする風習があったそうで、夏の参拝者が少しでも心地良くお参りできるようにと、暑さを和らげ、また厄除けにもつながる風鈴を吊るすようになったとのこと。今や大和の夏の風物詩として定着している。
風が吹くと、一斉に音を奏でる風鈴。何せ数が多いので、なかなかの音圧。でも不快な感じは全くない。涼やかな音色が暑さをしばし吹き飛ばしてくれる。
音で暑さを和らげるという発想が日本ならではのものなのかどうかは知らないが、風鈴が「日本の夏」を感じることのできるものであることは確かだ。そういえば外国人の姿もちらほらと。彼らも日本的な「風情」なるものを感じるためにここを訪れるのだろう。
暦の上では既に秋だが、まだまだ暑さが続く。おふさ観音の風鈴まつりでひとときの涼を楽しんでみてはどうだろうか。
参考文献:
◇角川日本地名大辞典編纂委員会(編)『角川日本地名大辞典29 奈良県』 角川書店 1990
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