いや〜!参った!この本には。ふっと読みだしたら、一気読み。感動だあ!!!出会いってスゴイ、本ってスゴイ。ひとつの出来事が、小さなタネが、みんなつながって、小さな波紋が広がっていくんだね。本ってスゴイなあ!!!……「スゴイ」しか言ってないなあ。(笑)まさに、ワタシの還暦以降のテーマ『酒とギターと歌とつながり』だね。
「〈本を愛するすべての人に!〉本が生まれて、読者へとつながる「本に関わった五人の奇跡の物語」。仕事がなかなかうまくいかない女性編集者の最後のチャレンジで実 現した新作小説。その小説が人々を気持ちを奇跡のように紡いでいく。心の機微をやさしく綴る感情の魔術師の最高傑作」そのエッセンスを紹介しよう。
・初対面の津山奈緒という編集者は、小心者で、 ちょっと不器用で、自分に自信が持てずにいるけれど、一方では、まじめで、優しく、 素直な人――。 そんな印象を抱かせる人物だった。はっきり言って、こういうタイプの人間は嫌いじゃない。 仕事ができるかどうかはともかく、人としての信頼に足ると思うし、どこか俺と似通った「 駄目なところ」が見え隠れして、ついシンパシーを抱いてしまいそうにもなる。
・津山はあきらめなかった。それどころか、「 これだけでも聞いて下さい。お願いします」と、 テーブルにおでこが付きそうなほど深く頭を下げたのだ。いったい何なんだ、この人は。見ていて痛々しいし、泥臭すぎる。 あの、いつもスマ ートで泰然自若としていた東山とは真逆の人間じゃないか――。俺は少し困ったふりをしつつ、 津山がゆっくりと顔を上げるのを待った。そして、 おどおどしながら話す声に耳を傾けた。
・「ええと、わたしとしては、 これまでのようなミステリーではなくて、先生の代表作と 言える『空色の闇』のような、人間愛を描いた小説を、もう一度、書いて頂きたいんです。
・『空色の闇』は―――、 まだ素人だった俺の作品を嬉しそうに読んでは、「マサミには文才があるなぁ」と褒めてくれた父に捧げた作品だった。 その原稿を書きはじめたのは、父の身体に癌が見つかり、余命を宣告された日の夜のことで、「 〆切り」は、父が元気でいるあいだ、と俺自身が設定した。当時、勤め人だった俺は、空き時間のすべてを執筆にあて、 必死に筆を走らせた。何 としても父の好きな「小説」というカタチで、 俺の想いを届けたかったのだ。だが、結果から言えば、その願いは叶わなかった。
・父を亡くしたあと、俺はその原稿から距離を置いていた。しかし、 四十九日の法要の とき、父と仲の良かった叔母が、 喪服の俺をまじまじと見てこう言ったのだ。マサミくん、佇まいがお父さんに似てきたねぇ――――。 それを聞いたとき、俺は、当たり前すぎることに想いを馳せた。そうだ、俺の半分は父なのだ。ということは、父の遺伝子は、 まだ生き残っている。 俺のなかに……………。そう思ったら、 俺は自分の身体がずいぶんと大切なものに思えてきて、そして、 とても自然な感じでスイッチが入ったのだった。
・ふと、俺の本に「救われた」と言った津山の台詞を思い出した。
・「才能、なかったのかな、俺………………」父親という役割をこなす才能について、 俺は思いを馳せていたのだ。俺には小説家としての才能がある、と言ってくれる人なら、いる。
・そうか。かつての俺が、病床の父のために『空色の闇』 を書いたように、いまの俺は、真衣だけのために、 俺が伝えたいことを内包させた小説を書けばいいのではない か?もしかすると、それは真衣にとっての「救い」 になるのではないか?いや、 「救い」だなんて大袈裟でなくてもいい。せめて「支え」 になってくれれば・・・・。百パ ーセント純粋で、嘘のないメッセージが含まれていて、そして、 何歳の真衣が読んでも伝わるように。
・物語の主人公は少女で、名前は真衣といった。 真衣は、数奇な人生に翻弄されながらも、 常に凜として自分の道を必死に歩んで行こうとする、とても魅力的な女子高生だった。世の中で「常識」とされている不明瞭な道理、 大人たちからの理不尽な圧力、強者の 理論、権力者の横暴、善人の沈黙――― そういった不条理にたいして、真衣はその「知性」と「優しさ」と「遊び心」と「友情」と「飛び抜けた行動力」 を武器に立ち向かっていく。そして、自分らしい未来をつかみ取ろうともがくのだ。正直、六五歳の俺ですら、胸が高鳴るような物語だった。 原稿の残りが少なくなって くると、読み終えるのがもったいないとさえ思った。巷では「結局、人は、一人で生まれ、一人で死んでいくものだ」 などと言われるが、この小説の立場は違った。
・むしろ、その行間からは、「いつでも、何があっても、 君は一人じゃない。たとえ、 大切な人と会えなくなる日が来たとしても、 心はちゃんと寄り添っているし、『想い』 は君とつながっている」という、 あたたかなメッセージがにじみ出ているのだ。
いや、それだけではない。泥臭いほどにピュアな真衣の言動は、 さらに多くのことを読者に伝えようとしていた。
・命とは時間のことであり、誰しもが、毎秒、 少しずつ残された命を削り取られてい る。つまり、いつかは必ず大切な人との離別のときがくるのだ。 そして、その際に味わ う悲しみが大きければ大きいほど、 その人の人生は美しかったと言える。なぜなら、そ の人は、他者と心を深く通わせ、幸せに生きたからこそ、 別れがいっそう悲しくなった のだから。どうせ生きるのなら、 別れがいっそう悲しくなるように、いま目の前にいる 人との時間を慈しむべきだ。そして、そのことが理解できたなら、 君はドグマにさよな と言えるだろう――――。
・俺は、真衣の言動から、そんなメッセージを受け取っていた。 おそらく、この小説は、読者への純粋なラブレターなのだ。だからこそ、作者の「想い」は、深くて、痛くて、 苦しいほどに胸を揺さぶるし、同時にそれらを含めたすべてが愛で満たされているようにも感じられ るに違いない。 やがて、最後の一行を読み終えてしまった。
・あなたは、つながっているから大丈夫。だから安心して、 思い切って、あなたらしく
生きてね―――。
・とにかく、 自分は一人じゃないん だって思えたかな。それと、さっき引用したけど、 すごく気に入った一節があって、そ れが、なんていうか、心のエネルギーになった感じ」「その一節って、これだよね?」 わたしは鞄のなかから手帳を取り出した。そして、メ モをしたページを開いて朗読した。
「わたしの人生は、 雨宿りをする場所じゃない。土 砂降りのなかに飛び込んで、ずぶ濡れを楽しみながら、 思い切り遊ぶ場所なんだよ。あなただって、本当は、そうしたいんでしょ?」
「そう、そこ!」「ヒロインの真衣ちゃんの台詞」「うん。そこ、読んでて鳥肌が立った」
・「人生は一度きりなんだし。 なるべく好きなことをたくさんやって、わくわくする気持
ちをたくさん味わって――、それでいいんじゃないか?自分に自信が持てないなら、 とりあえず就職してサラリーマンになっておいて、 そのうち絵を描きたくなったら好きに描けばいいし、それを画商に売ってカネになるようになったら、 サラリーマンをやめて画家になればいいわけだろ?」
・いろいろあったんだろうな、あの小説家にも・・・・・・。そうでなければ、こんな小説を書けるはずがない。勝手にそう確信して、私はふたたびページを開いた。そして、そこから先の物語は、 もはやジェットコースターのようだった。勢いがつきすぎて、途中で止めることなど出来るはずもない。 だから私は最後の一行まで、呼吸を忘れたように夢中になって読んだのだった。読了し、そっとページを閉じたとき――、 私は深い満足感の海にたゆたっているような、ふしぎな浮遊感を味わっていた。その感覚をもっとリアルに味わいたくて、目を閉じ、ふう、 とため息をついた。すると、どういうわけか、 私の胸の浅いところで健太郎の声が響いたのだった。そういう日が来たら、 マジで心から祝福するってことを覚えておいてよ――――。
・「いよいよ、動き出すね」「え?」「俺たちの時間が」俺たちの、時間————。それから私は、少しのあいだ、その言葉の意味を憶った。やさしい夜の海風が吹いて、風鈴がささやく。
「第一話 編集者・津山奈緒の章」「第二話 小説家・涼元マサミの章」「第三話 デザイナー・青山哲也の章」「第四話 書店員・白川心美の章」「第五話 読者・唐田一成の章」、それぞれの登場人物のドラマが魅力的だ。
今年読んだ本のベスト10入り、間違いなし。傑作です。超オススメです。読むべし!!!(^^)