その遺骨は、誰からも引き取りの申し出がなかった。26人の死者を出した放火殺人事件の容疑者のものだ。親族すら名乗りを上げず、事件から1年以上が過ぎた頃、容疑者とは一面識もない1人の女性が引き取った。「放っておけなかった」と語るそのわけとは――。【洪玟香】
「あんたの人生、つらかったね」
路上生活者が多く集まるとされる大阪市西成区。住宅が密集する一角に、赤い十字架が壁に掛けられた小さな建物がある。「メダデ教会」。ここに谷本盛雄容疑者(当時61歳)の遺骨が引き取られている。2021年12月17日、大阪・北新地の雑居ビルに入る心療内科クリニックに放火し、現場に居合わせた院長やスタッフ、患者計26人を殺害したとされる容疑者だ。自身も現場で煙を吸い込んだとみられ、約2週間後に死亡した。
教会に遺骨が届いたのは23年9月1日。事件から1年と8カ月半が過ぎていた。「関係ない人を巻き込んで殺した罪は重い。それでも『あんたの人生、つらかったね』と思う人がおることを知ってほしい」。教会の西田好子牧師(73)が信徒たちを前に演説した。谷本容疑者の遺骨の引き取りを希望した、その人だ。
「『第二の谷本』を生まな…
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