既読つかなかった友へ 「忘れるもんか、君のことも事件のことも」
「大丈夫?」
送信したメッセージが、既読になることはなかった。いつも前向きで、にこやかに話を聞いてくれて……。親友のように思っていた存在が奪われた。「君のことも、事件のことも忘れるもんか」。かけがえのない存在を失ったあの日から、3年が過ぎようとしている。
大阪・北新地の心療内科「西梅田こころとからだのクリニック」で2021年12月17日、医院のスタッフや患者ら計26人が命を奪われる放火殺人事件が起きました。クリニックの患者だった谷本盛雄容疑者(当時61歳)も煙を吸い込み、事件から13日後に死亡したことから不起訴となっています。痛ましい事件から3年。治療で励まし合った仲間や寄り添ってくれた院長ら、かけがえのない存在を失った思いを元患者の人たちに聞きました。
「その筆箱、すてきだね」。大阪府摂津市の会社員男性(54)は5年ほど前、近くにいた40代の男性に声を掛けた。大阪市北区の心療内科「西梅田こころとからだのクリニック」で、職場復帰に向けたリワークプログラムが開かれていたときのこと。何気ない一言がきっかけで、付き合いが始まった。受診の帰りに喫茶店でコーヒーを何杯もおかわりして互いの悩みを打ち明けたり、居酒屋で世間話に花を咲かせたり。お互いに「前に進もう」と言葉を掛け合った。
リワークの参加者は互いの事情を第三者に口外せず、院外での交流も避けるべきだとされていた。ただ、「心の不調って本当に周囲に分かりにくい。言葉にできないつらさを理解し合える仲間は大切だった」。友人とはプライバシーに入り込み過ぎない、つかず離れずの関係が築けた。それが心地よかった。
そんな二人の関係は2021年12月17日、突然終わりを迎えた。
午前11時ごろ、男性の携帯に妻から繰り返し電話があった。体調が改善して復帰した職場で忙しく、着信音が鳴っても…
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