地震の爪痕まだ残る能登 共通点多い四国の南海トラフ後を考える
地震からまもなく1年を迎える能登半島で復興の歩みが遅い。倒壊家屋の解体が進まず、強震や津波の生々しい爪痕が各所に残る。これは将来、南海トラフ巨大地震が起きた後の四国の風景ではないのか――。能登の現地を歩き、徳島県のグループによる支援活動を通して復興のあり方に思いをめぐらせた。【井上英介】
12月11日午前、石川県輪島市中心部。寒波が近づき、冷たい雨が降りしきる中、1台のキッチンカーの前に多数の市民が行列を作っていた。徳島県キッチンカー協会が1月の発災直後から取り組む能登半島支援で、今回が5回目。冷凍した「ハモの天むす」「米粉しらすバーガー」「肉巻きおにぎり」など約2000食と、キッチンカーで調理する揚げたてチュロス約1000食分を無料配布した。
「支援は有り難いです」。行列に加わる宮永安博さん(75)が白い息を吐きながら言った。自宅は地震で中規模半壊。さらに9月の集中豪雨による土石流で一部損壊の被害を受けた。同居していた妻は親族宅に逃れ、玄関が開かなくなった家に1人で暮らす。「自炊は難しく、車で毎日のように炊き出しを回っている」と話す。
同市山本町の宮永さん宅を訪ねた。豪雨災害から3カ月近く経過し、重機が多数投入されているが復旧は終わらない。1月に倒壊した近所の家屋が手つかずで、道を半分塞いでいる。農家だった宮永さんは自宅前の畑で芋などを作っていたが、農地は土砂で埋まり再開は絶望的だ。
それにしても復興の速度が遅すぎないか。
電柱が傾いて雑木に電線が引っかかっていたり、倒壊家屋が道を半ばふさいでいたり。復興のための国費が足りないのではないか。豪雨災害にしても、普通に川が機能していれば、あの程度の雨では起きないだろう。地震後のインフラ整備の遅れで橋に木が引っかかってダムとなり、それが決壊するなど人災の面もありそうだ。
「いろんな理由があるのでしょう。うちは電気が使えてどうにか住めるだけましです」と宮永さんは言う。
◇
能登支援を続ける徳島県キッチンカー協会の北條誠一理事は、徳島県阿南市の農家だ。東日本大震災の支援に取り組んだ経験から豊富な食料備蓄の必要性を痛感し、高性能の急速冷凍装置で食事をそのまま凍らせてローリングストックする「復興常備食」を開発。南海トラフ地震をにらみ、平時から国に頼らぬ備えを提唱している。
今回の能登支援で配布したハモの天むすは徳島県小松島市の、しらすバーガーは阿南市の中学生が考案した。北條さんが所属する同県キッチンカー協会と学校現場が連携し、子どもたちが復興常備食のメニュー作りを通じて災害や復興を考える取り組みが少しずつ広がっている。
私は先ごろ、被災地の読者から「能登は見放されている」という悲痛なメッセージを受け取り、今回、能登を訪ねた。現地の惨状に国のやる気を疑わざるを得ないが、アクセス道路が限られ、限界集落が点在する能登半島の地理的、物理的な難しさはあるだろう。
四国はどうか。能登半島よりはるかに広く、道路網は同じように貧弱。沿岸で深刻な津波が予想され、孤立が懸念される山奥の集落も多数ある。北條さんは言う。「防災も大切だが、日本は災害が不可避で、災害からどう復興するかをもっと考えるべきだ。国の支援に頼るだけでなく、持続的な『復興常備食』で自ら備える必要がある。南海トラフ地震に備え、支援を通じて能登で学びたい」
四国が災害に見舞われた「その時」と「その後」を、本気で考えなければならない。
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