師匠は、弟子に圧倒的な実力差を見せつけていた。自身に近づく余地を1ミリも与えない。「獅子は我が子を千尋(せんじん)の谷に落とす」ということわざを身をもって示す高座だった。
10月5日、埼玉会館(さいたま市浦和区)で開かれた落語の独演会。2023年度「彩の国落語大賞」を受賞した桂三四郎さん(42)の晴れの舞台――のはずだった。しかし、師匠とのあまりのレベルの違いには、崖から落とされたような感覚を味わった。
独演会の特別ゲストとして高座に上がったのは、桂文枝さん(81)。三四郎さんの師匠だ。文枝さんは得意の創作落語を披露し、客席を笑いの渦に巻き込んでいく。「惚(ぼ)けてたまるか!」という演目で、その変幻自在なテンポに、裏方のスタッフたちも高座を映すモニターにくぎ付けだ。
舞台裏にいた三四郎さんは思わず口にした。「全然、手加減せえへんな」。本来は三四郎さんの祝勝会みたいな場なのに、文枝さんは弟子に花を持たせることはない。ひたすら自身の芸を見せる。客の反応も含め、三四郎さんは師匠に圧倒された。
「崖から落とすだけではない。…
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