『海辺の王国』 by ロバート・ウェストール

『海辺の王国』
ロバート・ウェストール 作
坂崎麻子 訳
徳間書店
1994年6月30日 初版発行
2001年9月30日 9刷発行
THE KINGDOM BY THE SEA (1990)

 

昨年の12月に読んだ、『クリスマスの幽霊』がなかなか素敵で深いお話だったので、ロバート・ウェストールの本も他にも読んでみたくなった。

megureca.hatenablog.com

 

本書『海辺の王国』は、「児童文学の古典として残る作品」であり、90年にガーディアン賞を受けたとのこと。代表作の一つだったので、図書館で借りて読んでみた。徳間書店の児童書シリーズの一冊。

ハードカバーの児童書。絵はない。多くの漢字には、フリガナがふってある。小学校中高年が対象の本。

 

ページをめくっていくと、

〈作者おぼえがき〉
これは、 物語である。 地理の本ではない。 愛するノーサンバーランドについては、とくにリンディスファーンの見はり塔については、 事実を変えたところがある。

 

と。ノーサンバーランドは、作者の故郷だ。リンディスファーン島をは、ウィキによれば、

”イギリス・ノーサンバーランド州にある小島。リンデスファーンともいう。ホリー・アイランドホリー島とも呼ばれ、潮が満ちると島となり、干潮になると土手道で本土とつながるタイダル・アイランドである。ウォルター・スコットがかつて島の記述を残した。2001年調査時の定住人口は162人である。” とあった。

 

訳者あとがき含めて、262ページ。半日で読み終わる。

 

感想。
読み始めたら、止まらなかった。まるで、 絵本を見ているかのように情景が浮かんでくるのだ。 そして、 読み終わってから 挿絵なんかなかったことに気がつく。 この臨場感 はすごい。これは、 子供なら夢中になって読みそうだ。でも、ちょっと悲しい冒険のお話。

 

物語は、第二次世界大戦中の空襲から始まる。 主人公のハリーは、パパ、ママ、妹のダルシーと暮らしていた。そこへドイツ機が、爆弾を落としにやってきた。空襲から逃げるために防空壕に駆け込んだハリーは、家族とバラバラになってしまう。そして、空爆が止んで表に出ると、家は、、、、無くなっていた。家の方へかけだそうとすると、自警団の男に腕を掴まれ、
「いっちゃいかん、ぼうず。ガスがもれている。あぶない。」と言われてしまう。
「ママとパパが・・」というと、男は「もうだれもいない。避難所へいけ」と言われる。

そして、ハリーは、男の手を振り切って、自宅へ走った。飼っていたウサギがいた。でも、みんな死んでいた。パパもママも、ダルシーもどこにもいない。自警団のひとが、いっても無駄だといった意味も分かった。

 

ハリーは一人ぼっちになった。大変なことになったということはわかった。でも、親類のエルジーおばさんの家に連れていかれたらもっと大変な「こと」だ!と考えた。エルジーおばさんは、かわいそうだといって、みんなにハリーのことを話しまくって、ビービー泣くのだろう。そんなことになったら、ことだ。孤児としてつかまる前に、死ぬまで歩き続ける方がまっとうだと考えた。

そして、一人ぼっちでさまよい始める。13歳のハリー。

 

特に男の子なら、ハリーの独り立ちへの冒険話に、ワクワクしちゃうのではないだろうか。

 

手元には、ママのカバンがあった。お金も少しある。通帳も入っている。生きていくのにママのカバンがハリーの全財産となった。そして、飼い主を失った犬がハリーの仲間になる。犬は、首輪が付いていた。首輪には、 高級住宅地の住所と「ドン」と名前が書かれていた。その 高級住宅地は3週間前 ドイツ軍の爆撃にやられ、 生き残った住人といえば病院にいるひとだけだ。ドンはハリーの犬になった。

 

ハリーとドンは、雨風をしのげるボートなどで夜を過ごす。時には、食べ物を買いに行く。ハリーは、洗濯をしてできるだけ清潔さをたもって店に行く。それでも、13歳の子どもが一人でフィッシュ・アンド・チップス店にいっても、邪険にされたり、意地悪をされたり・・。
子どもをイジメるなとかばってくれる大人がいたり・・・

 

物語は、ハリーが出会った様々な人たちとの交流が描かれる。良い大人もいれば、悪い大人もいる。みなしごだとバレると警察に連れて行かれちゃう恐れがあるので、できるだけ家族がいるかのようにふるまった。海から流れ着くものを拾って生計を立てている男には、生きる術を教わる。軍人たちのつかいっぱしりをすることで、食べ物をもらったり。

 

ハリーはたくましい。ときには、ドンを撃ち殺そうとする悪いオトナをやっつけるために、そいつを木の棒でぶんなぐっちゃったり。

 

同情されたり、同情すべき大人に出会ったり。

 

雨の中ずぶ濡れになったとき休む場所を提供してくれた家族(4人家族はすでに戦争でなくなっていた)のおじいさんは、元気になったハリーを見送ると、どこに行くのか?ときいた。「ただ・・・海をそって」と答えたハリーに、おじいさんは、「海辺を歩いていくなら、リンディスファーン島に行くんだな」と言う。ハリーは、リンディスファーン島を目指してあるく。そこは、干潮時には歩いて渡れる島だけれど、満潮時には孤島になる。そして、リンディスファーン島にいってみると、意地悪な子どもと意地悪な大人。この島にはいられないと思って陸地に向かったハリーだったけれど、途中で潮が満ち始める。引き返すこともできず、陸に向かうこともできず。。。足元には海水がどんどん上がってくる。

 

絶体絶命のピンチの時、見張り用の塔があったことをおもいだし、海の中の塔をめざす。ドンも連れて行かなきゃ。溺れそうになる一人と一匹。命からがら、塔に登って満潮をやり過ごすのだが、その時にドンは足に大けがをしてしまう。

疲れ果てて倒れ込んでいたハリーとドンに、一人の男が声をかける。そして、この犬は獣医に見せてやらないと死んでしまうだろう。と言われたハリー。男は、マーガトロイドと言って、戦争で息子を亡くしていた。

 

マーガトロイドさんは、無口で怖そうだけれど、いい人だった。ドンを獣医に見せて、治療させてくれる。ハリーにも家のベッドで寝ればいいといって、親切にしてくれた。このままここにいてもいい、という。でも、やっぱりハリーが本当にみなしごだとしても、このままではマーガトロイドさんは、誘拐犯にされてしまう。ハリーを学校に通わせるのなら、甥っ子だなんて嘘も通用しなくなる。そこで、マーガトロイドさんは、ハリーを連れてハリーの故郷へもどって、きちんとした手続きをすることにする。

 

ハリーがドンと一緒に苦労して苦労して歩いた海辺の王国は、マーガトロイドさんの車で戻るとほんの数時間の距離だった。

 

そして、マーガトロイドさんは、ハリーの家族の手がかりを探す。なんと、パパもママもダルシーも大けがをして病院に運ばれ、今は、リッジスという貧しい人たちの暮らす街にいるということが分かった。ハリーは、そんなの嘘だとおもった。パパがリッジスに住むくらいなら死んだ方がましだというに決まっている。

 

教えられた11番地にいくと、庭は雑草だらけだった。パパは、庭を雑草だらけにしたことなんてない。こんなところに、本当に家族はいるのか?

 

マーガトロイドさんが、ドアをノックした。
足音が近づいてきた。
玄関のドアがゆっくりあいた。

杖に寄り掛かったパパがいた。
マーガトロイドさんのうしろのハリーを見ると
「このちび」と腹立たしげに言った。
「 一体どこに行っていたんだ。 気が変になりそうなほど心配したぞ」
ママは泣き出してハリーを抱きしめた。

 

でも、ダルシーは、私のママだと言わんばかりに、ママの腕の中にすりよる。そして、ドンが怖いといって、いやがる。パパは、「犬なんてとっとと捨ててこい」という。

 

ハリーとパパは、昔には戻れないということをさとる。

 

ハリーは、一人で旅した間に色々な大人から様々なことを学ぶ。実際に生きるために欠かせない食べ物を得る方法であったり、鳥が水に潜る様子から魚のありかをしる術であったり。やさしさ。厳しさ。

 

ハリーは、成長した。自分でも、パパにもそのことが分かった。そして、それをパパは憎んでいる。

 

ドンは、マーガトロイド さんが引き取ってくれることになる。そして、時々ハリーがドンとマーガトロイド に会いに行くと約束して別れる。

 

家の外でマーガトロイドさんと別れて、ドアを開けると、パパとママとダルシーが話している声が聞こえる。それは、マーガトロイドさんを変人扱いするような言葉だった。
ハリーは、マーガトロイド さんが普通に結婚したが奥さんを亡くし、息子さんも戦争で亡くした人だというと、口をつぐんだ。そして、この家で本心を見せて過ごすことはないだろうと悟る。

 

いつか、いつかかならず、ぼくは海辺の王国に帰りつこう、ハリーは思った。

THE END.

 

何とも言えない。

読み終わっても、何度もハリーが必死に生きぬこうとする姿が目に浮かぶ。まるで、映像で観てきたかのような読後感。すごい。

 

13歳の少年がひとりで生き抜いた時間は、同じところにとどまっていたパパより大きな人間を生み出した。戦争による不幸を嘆いたところでどうにもならない。たくましく生き抜こうと決意したハリーと、不幸を恨んで暮らすパパとの違い。

 

う~ん、たしかに、これは名作だ。

意地悪な大人たちの話は、大人に読んで聞かせたい・・・。

著者自身が、乗り越えきれないほどの悲しみを抱えつつ、優しく、たくましく、強い人だったんだろうと思う。子供たちにこういう名作を遺せるのがすごい。

 

おとぎ話なんかじゃない。そういう強さのあるお話。

良い一冊だった。

読んだことが無ければ、子育ての終わった世代にこそ、ぜひ、読んでほしいかも。

 

やっぱり、読書は楽しい。

児童書って、いいなぁ。。。

 

 

  翻译: