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第9回「偽の出動要請」で医療関係者拘束か 病院にとどまった救命士の証言

有料記事首都攻防 ウクライナ侵攻生存者の証言ブチャ=金成隆一

【証言⑨】救急救命士のルドミラ・スカカラバさん 「ロシア軍は救急車にも攻撃してきた」

 戦闘が激しくなり、路上に横たわる民間人の遺体が増える中、ブチャでは、多くの住民が危機感から市外に退避した。

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 一方で、ブチャに残った人々もいる。

 公立病院に最後まで残った医療関係者がいる――。そんな話を取材先から聞いた。病院が3月11日までに閉鎖され、医師や患者が市外に退避した後も、1人で病院に残っていたという。

救急救命士の女性は、ロシア軍による「偽通報」を恐れたといいます。ロシア軍側は何のために、医療関係者にそんなことをしたのでしょうか。記事後半で、女性はロシア軍の狙いについて語ります。

 その人は、救急救命士の女性ルドミラ・スカカラバさん(46)。夜勤明けに時間を作れるというので、5月2日、救急車の発着基地で待ち合わせた。

 19歳からの27年間を救急医療の最前線で過ごしてきたベテランだ。

 ロシア軍に占領された1カ月間は、異常な精神状態だったといい、記憶が混乱しているという。「特に日時は間違えているかもしれない」と断った上で証言してくれた。

2月24日に戦争が始まって以降も、通報があれば救急車で出動し、患者を病院まで搬送していました。

しかし、日増しに情勢が悪化し、3月5日以降は通報があってもすぐには出動できなくなりました。戦闘がさらに激しくなったからです。出動する前にウクライナ軍に連絡をとり、目的地で戦闘が起きていないかなど、安全面を確認する必要があったのです。ロシア軍は、救急車でも遺体搬送車両でも、攻撃対象にしていたからです。

【プレミアムA】「死の通り」 ブチャ 生存者の証言

ロシアによるウクライナ侵攻から半年が過ぎました。大量虐殺の悲劇に見舞われた街ブチャに「死の通り」と呼ばれる場所があります。生存者が語るロシア占領下の「絶望の1カ月」とは。金成隆一記者が住民の証言を丹念に集めました。臨場感のある写真や映像とともに伝えます。

 ■もう一つの理由があります…

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この記事を書いた人
金成隆一
大阪社会部次長|災害担当
専門・関心分野
国内社会、米国、外交、ジャーナリズム

連載首都攻防 ウクライナ侵攻生存者の証言(全14回)

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