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 高次脳機能障害は、脳が傷ついたことでおこる、認知機能の障害だ。原因は、脳卒中が8割、頭部外傷が1割で、男性の方が多い。2008年時点で全国に50万人の患者がいて、年間3万人が新たに患っているとの推計もある。

 主な症状に、新しいことを覚えられない(記憶障害)、物事に集中できない(注意障害)、計画的に行動できない(遂行機能障害)、怒りっぽくなる(社会的行動障害)、言葉が出てこない・人の話を理解できない(失語症)などがある。脳のどこがダメージを受けるかで表れる症状が異なる。頭部外傷では脳の前方が傷つきやすい傾向があり、行動と感情の障害、遂行機能障害、注意障害や、記憶障害を経験することが多い。

 高次脳機能障害は「外から見えない」ため、周囲に気づかれず、理解されない難しさがある。食事やトイレ、身なりを整えるといった身体的な日常生活動作は一人でできる人が多く、一見、健康そうに見える。一方で、手段的日常生活動作と呼ばれる金銭管理、銀行や役所の手続きなどを一人でできる人は4割を下回り、社会生活に困難を抱えている人が多い。買い物や外出も、5割前後が介助を必要とするという。

「退院後」を見すえたリハビリを

 リハビリは、急性期や回復期の入院中から始めるのが理想で、退院後も続く。仕事、就学、趣味の再開など、一人一人のニーズに合わせ、目的を決めて取り組む。記憶を補うためにメモをとる、計画性を補うために工程表をつくる、などの代償補助手段も練習する。

 東京慈恵会医科大学付属第三病院リハビリテーション科の渡邉修教授は「目的を決め、そのために何が必要かを書き出し、実際に体験していくことが大切。そうして社会の中に意欲的に参加することで、脳はさらに奮い立つ」と話す。

 医療機関は、「退院後を見据えた家族への助言や、社会資源をふまえた対応を考えておく必要がある」と東京都リハビリテーション病院の倉持昇・作業療法科長は話す。ただ、適切な助言が得られなかったり、退院後に問題が顕在化したりする場合もある。全国には、都道府県などが指定する支援拠点機関が計120カ所あり、支援コーディネーターが在籍していて相談を受け付けている。国立障害者リハビリテーションセンターのHPに、一覧が掲載されている。

 また、障害があっても車を運転できる場合もある。日本高次脳機能障害学会(理事長=三村将・慶応大精神・神経科教授)は20年、運転を控えるべきかを判断する目安とフローチャートをまとめ、公表した。こうした目安を参考に、運転シミュレーターや自動車教習所での実車評価を踏まえて医師が診断書をつくり、公安委員会で臨時適性検査を受けることで、運転の可否が判断される。地域によって対応にばらつきがあるのも実情だが、三村さんは「障害があるから運転をあきらめるのではなく、安全性を確認しながら、日常生活の幅を広げていけることを知ってほしい」と話した。(鈴木彩子)