ファンから長年愛され続ける赤城乳業
国民的アイスとして、長年たくさんの人たちから愛され続けている「ガリガリ君」。その製造・販売をしているのは、老舗アイスメーカーである赤城乳業株式会社だ。
▲なんと今年で40周年なのだそう
赤城乳業と言えばガリガリ君。それは間違っていない。けれど、赤城乳業には「ガリガリ君の影に隠れた名作アイス」がたくさんある。そこで、今回はあえて「ガリガリ君以外」の商品に注目してみた。
例えば、ガリガリ君とともに真夏のアイスの双璧を成す「ガツン、とみかん」。みかんの缶詰をそのまま凍らせたような果肉感と、シャリシャリとしたかき氷の食感がたまらない。「ガリガリ君より売れていないこと」を自虐したキャンペーンも話題になった。
▲ガツン、とみかん(マルチ)(378円)。誇張ではなく、本当にみかんの果肉がたっぷりと入っている(写真提供:赤城乳業株式会社)
#ガツンとみかん#売れてないのに20周年
— ガツン、とみかん【公式】 (@gatsunto20) 2018年5月9日
ガリガリ君より売れてないボクの20周年なんて・・・ pic.twitter.com/z0acGE6sV1
または、ガリガリ君と同じく格安アイスバーの「BLACK」。こちらも、2018年に40周年を迎えた超ロングセラーアイス。潔いほどにシンプルなパッケージは、コンビニやスーパーなどで一度は見たことや食べたことがある方も多いのではないだろうか。
▲BLACK(棒)(76円)。シャリシャリとした食感の王道チョコバー(写真提供:赤城乳業株式会社)
一方で、発売するやいなや話題をかっさらい、あっという間に売り場から姿を消した「かじるバターアイス (※2021年4月現在は販売終了)」に代表されるような、独自の企画性のアイスを展開するのも赤城乳業の特徴だ。
時に王道でありながら、時に悪ノリすれすれのぶっ飛んだ発想もぶつけてくる。かと思えば、本格的でおいしいご褒美アイスを作ってくる赤城乳業に対して、筆者はいつからか「大人が全力で遊んでいる」イメージを抱くようになった。
もちろん、その“遊び”は常にファンを飽きさせず、新しい味を追求するガリガリ君にも表れているのだが、もっといろいろな商品の魅力を知りたい。
赤城乳業で商品開発に携わる、マーケティング部の影山泰大さんが取材に応じてくれた。
過去には「いくら丼アイス」も? 赤城乳業の攻めたアイス
──他社と比べると、新商品を見かける機会が多いと感じます。「ガリガリ君以外」だと、年間にして、どれくらいの数の新商品を出しているんですか?
影山さん:年間100以上の新商品を出しているので、他社さまと比べても多いと思います。
──年間100以上!? コンビニで手に取るアイスの“赤城乳業率”が高いのは間違いじゃなかったんですね……。
影山さん:弊社はアイス専業メーカーというのが大きな強みですので、アイスの市場を盛り上げていくため、NB(ナショナルブランド)はもちろん、各コンビニエンスストアさまのPB(プライベートブランド)商品の開発にも注力しています。
ですので、自然とコンビニで見かける機会が多いのかもしれませんね。
──NBというと、赤城乳業が独自に製造・販売をする商品のことですよね。赤城乳業とひとくちに言っても、企画性が光るものや、ド王道路線、本格派の味を堪能できるものなど、さまざまな顔があると感じるのですが、大まかな分類はあるのでしょうか?
影山さん:そうですね。大きく分けるとするなら、
- 「その発想はなかった」「ふざけてるな~」といった“おもしろおかしい商品”
- 食感や味の組み合わせを意識した“食べて楽しい&おいしい商品”
- 素材や製法にこだわった“本格派商品”
- トレンドを意識した“スイーツ的商品”
でしょうか。
ただ、全ての商品をきれいに分類できるわけではありません。商品ごとに、一つの要素に全振りしたり、複数の要素が合わさったりというイメージです。
──なるほど。それが、赤城乳業のアイスの幅広さに繋がっているんですね。「おもしろおかしい」を突き詰めたもので言うと、ガリガリ君では“ナポリタン味”の失敗がもはや伝説として語り継がれていますよね(笑)。「ガリガリ君以外」の商品ではいかがですか?
影山さん:1996年に販売した「イクラ丼アイス」ですね。
▲イクラ丼アイス ※2021年4月現在は販売終了(写真提供:赤城乳業株式会社)
──え、イクラ丼? どういうアイスなんですか……?
影山さん:オレンジゼリーをイクラに見立てて、バニラアイスの上にかけたアイスです。「アイス売場にイクラ丼が並ぶとおもろしい」という発想から作ったんですけど、テスト販売は好調だったものの、全国販売した際はさっぱり売れませんでした(笑)。
──それは……攻めましたね(笑)。僕は世代的に遭遇することはできませんでしたが、もし出会えていたら挑戦してみたかったです。ちなみに、最近の商品で「これは攻めてみた!」と言えるものはありますか?
影山さん:現在、販売は終了していますが「かじるバターアイス」ですね! 「バターをかじりたいというギルティな欲求を、アイスなら低カロリーで満たせるのではないか?」という、これまたふざけた企画から商品化しました。
──食べました! パッケージもバターそっくりに作られていたので、かじりつくまで「え、本当にアイスだよね……?」と不安になるほどで、一連の体験を通してすごく楽しかったアイスです。
影山さん:ですよね。アイスの形もパッケージも、本物のバターに見えるように試行錯誤して作ったんです(笑)。
“遊び心”を大事にする赤城乳業のモノづくり
▲ダルゴナコーヒーアイス(カップ)(151円)。ふわふわのホイップの再現度に赤城乳業の技術力を感じる(写真提供:赤城乳業株式会社)
──先ほどの「かじるバターアイス」や「ダルゴナコーヒーアイス」に代表されるように、新しい味やトレンドの味をいち早くキャッチして商品化している印象を受けるのですが、このスピード感はどのようにして生まれているんですか?
影山さん:そうですね。弊社は企画自体の自由度が高く、あまり「あれが駄目だ」「これが駄目だ」とならないんです。
社内の空気感としても、企画段階でおもしろいなら「まずやってみよう」となりますので、それが新しかったりトレンドになっている味を商品化する、スピードの速さに繋がっているのだと思います。
──やっぱり企画の自由度は高いんですね。企業スローガンの「あそびましょ。」が象徴しているように、“遊び心”を大事にしているように感じるのですが、まさに“遊び心”から生まれたアイスってありますか?
影山さん:2017年から発売開始して、今年リニューアルした「Sof’(ソフ)」ですね。
▲Sof' ミルクバニラ(カップ)(151円) 。(写真提供:赤城乳業株式会社)
──「Sof’(ソフ)」と言うと、あの斬新なコンセプトのアイスですよね。
影山さん:専門店でソフトクリームを購入するときって、コーンで頼むか、カップで頼むか選ぶじゃないですか。
「コーンタイプはスーパーやコンビニで買えるのに、普段カップで頼む人用のソフトクリームって売ってないよね」という声が社内で挙がり、「ソフトクリームからコーンを取ってそのままカップに詰める」というコンセプトで商品化しちゃったんです(笑)。
──なんとなくは理解できるんですけど、静かなクレイジーさを感じますね……。
影山さん:でもこれまでの市販のカップアイスになかった、ソフトクリームをイメージした形と食感が好評を呼び、今では弊社の売上を支える重要な商品になったんです。
──へえー! 「Sof’(ソフ)」が主力商品というのは、個人的には意外でした。最近始まった「ソフトクリームの上だけ」が歩いている、「Sof’(ソフ)」のシュールなCMの世界観にも通ずると思うのですが、赤城乳業はクリエイティブ面でも“遊び心”があるなと感じています。
影山さん:商品全体にも言えることですが、「ノリ」や「ゆるさ」が“赤城乳業らしさ”に繋がっているのかな、と思います。
ノリで商品化まで辿り着いてしまう、会社全体のいい意味でのゆるさに加え、お客さまが「赤城がまた変なことやってる(笑)」と好意的に受け止めてもらえることで、“赤城乳業らしさ”ができ上がっていると感じます。
これからも赤城乳業のアイスにワクワクしたい
あえて「ガリガリ君以外」のアイスについて伺うことで、赤城乳業の魅力に迫った今回の取材。
当初、筆者が抱いていた「大人が全力で遊んでいる」イメージは変わらず、むしろ補強する結果となった。これはアイスに限らないけれど、モノづくりにおいて「作り手が本当に楽しんで作っているか」は、案外買い手にも伝わるものだと思う。
ガリガリ君を除いても年間100種類以上。これだけのアイスを作り続けている赤城乳業だからこそ、埋もれてしまっているアイスも多いのかもしれないし、現在は販売終了しているアイスだと食べる術もない。
それは残念だけど、筆者としてはこれからも、赤城乳業が遊び心たっぷりで作ったアイスを楽しみにしたいし、「赤城乳業がまた変なことやってる(笑)」と言わせてほしい。
最後は、筆者がこの記事のために、近所のコンビニとスーパーを走り回って集めた赤城乳業のアイスとともにさようなら。