スピッツは1991年に「ヒバリのこころ」でデビューした男性4人組ロックバンド。数年でブレイクを果たし、2020年代に突入した今に至るまで約30年間という長期に渡り存在感を発揮し続けている。日本レコード協会によれば、これまでにダウンロード売上10万以上を記録した曲は11曲で、認定総ダウンロード売上は290万(歴代37位タイ)となっている。これらのデータをランキング化した表は以下のとおりである。この表をもとにしながら、スピッツのヒット史を振り返る。
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1990年代
スピッツがブレイクした1990年代はCDバブル期であり、当時の楽曲人気指標の主流はCD売上だった。したがって、デビュー初期の楽曲人気を把握するには、CD売上を中心に見ることになる。一方で、スピッツの楽曲は時代を超えて長期に渡り支持されており、2006年3月にスピッツの楽曲がダウンロード販売解禁されると、1990年代の楽曲もダウンロード売上を積み上げた。
ロビンソン
スピッツの大ブレイクをもたらした曲が、デビューから約4年が経過した1995年4月に発売された11thシングル「ロビンソン」である。この曲は当時平日夕方に放送されていたバラエティ番組のタイアップはあったものの、口コミを中心として徐々に人気を広げていくアクションを見せた。当時の楽曲人気指標の主流だったCDシングル売上チャートでは、週間最高位は4位だったながらも、ロングヒットにより年間で1995年の9位を獲得。累計売上は162万枚を記録した。これは自身最多CDシングルセールスである。
発売からかなりの年月が経っている本曲だが、その人気は時代を超えて後の世代に受け継がれている。ダウンロード売上は2000年代以降の楽曲人気指標の主流であるが、2006年の配信解禁から約9年後の2015年に50万ダウンロードを突破した。
さらに2010年代以降の楽曲視聴ツールの主流となったYouTubeにおいても、2010年のMV解禁からの積み上げで累計MV1.8億再生を突破。90年代発売曲として国内史上初のMV1億再生突破を果たしており、記事執筆現在でも自身最多どころか90年代発売曲最多MV再生回数記録を保持している。
さらにさらに2020年代以降の楽曲視聴ツールの主流となった各種サブスクリプションサービスにおいても聴かれ続けており、2019年の配信解禁から約4年後の2023年に累計ストリーミング1億再生(RIAJ)を突破している。このように「ロビンソン」は、音楽の聴き方が時代とともに移り変わっていく中で、その全ての主要指標でヒットを記録している。
これは、ボーカル草野マサムネのハイトーンボイスが活かされた流麗なメロディーラインや、イントロ等で印象的に繰り返されるアルペジオフレーズ、想像をかき立てる抽象的な歌詞等、この楽曲の魅力が時代の流れに対する極めて強い耐久性を持っていることを意味しており、並大抵の人気では実現できない偉業である。
ちなみに「ロビンソン」のアルバム初収録は、1995年9月に発売された6thオリジナルアルバム『ハチミツ』で実現している。このアルバムもCD売上累計169万枚を記録する大ヒットとなり、オリジナルアルバムでは自身最大のセールスとなった。年間でも1995年12位→1996年54位と推移するロングヒットを記録した。このアルバムには、「ロビンソン」に続く12thシングルとして発売され98万枚を売り上げた「涙がキラリ☆」も収録されている。
空も飛べるはず
こうしてトップアーティストの仲間入りを果たしたスピッツが次にミリオンセールスを記録した曲が「空も飛べるはず」である。実はこの曲は「ロビンソン」よりも前の1994年に8thシングルとして発表されており、発売当時は目立ったセールスではなかったが、1996年に最高視聴率12.6%を記録した人気ドラマ『白線流し』主題歌に起用されたことを受けて再出荷され、このタイミングでCDシングル売上が急上昇。自身初の週間1位を獲得するまでに至った。累計売上は148万枚を記録し、年間でも1996年の6位を獲得。同じタイミングで、本曲を収録し1994年に発売済みだった5thオリジナルアルバム『空の飛び方』も売上を伸ばし、こちらは累計85万枚を記録した。
「空も飛べるはず」も時代を超えて支持されており、ダウンロード売上は2006年の配信解禁から約17年後の2023年に自身最多タイとなる75万ダウンロードを突破。他指標でもMV1億再生、ストリーミング1億再生(RIAJ)を突破している。
本曲も草野マサムネのハイトーンボイスや抽象的な歌詞等の魅力が時代の流れに対する極めて強い耐久性を有していると言えるが、「ロビンソン」が比較的ドラマティックな曲調であるのに対して本曲はより親近感のあるポップナンバーに仕上がっている。
チェリー
「空も飛べるはず」のチャートインが続く中、1996年4月には13thシングル「チェリー」が発売された。本曲はノンタイアップだったが、人気絶頂期の発売だったことや口コミでの人気の広がりによって息の長いセールスを記録し、自身3曲目のミリオンセラーを達成。累計売上は161万枚を記録し、年間でも1996年の4位を獲得。自身3曲目の代表曲となるに至った。
やはり本曲も時代を超えて支持されており、ダウンロード売上は2006年の配信解禁から約8年後の2014年に自身最多タイとなる75万ダウンロードを自身最速記録で突破。これを以て冒頭に示したダウンロードランキングでは本曲を1位としている。他指標でもMV1.1億再生、ストリーミング2億再生を突破しており、これらの指標を勘案すれば「ロビンソン」を上回る自身最大のヒット曲であると言っても差し支えない。
本曲の普遍性は随一であり、ギター初心者向け教本や学校の音楽の教科書へ掲載される機会が多いほか、旅立ちや絆を想起する歌詞も相まって合唱曲としても採用される機会も多い。後年の世代とのタッチポイントの多さが永続的なものになっていることは、一際時代横断的な大ヒットとなっている背景の一つであると考えられる。
渚
1996年9月には14thシングル「渚」を発売。CD売上は83万枚を記録した。ダウンロード売上でも、2006年の配信解禁から約10年後の2014年に10万ダウンロードを突破している。壮大かつ幻想的なサウンドと自然体で歌われるボーカルによって一つの世界観が確立された一曲となっている。
1996年10月には「チェリー」や「渚」を収録した7thオリジナルアルバム『インディゴ地平線』を発売。134万枚をセールスし、年間でも1996年20位→1997年76位と推移した。
楓
1997年には新たに3枚のシングルを発売。15thシングル「スカーレット」が60万枚、16thシングル「夢じゃない」が33万枚、17thシングル「運命の人」が28万枚を売り上げた。
1998年3月には8thオリジナルアルバム『フェイクファー』を発売し、70万枚をセールス。収録曲の中では特に「楓」が人気となっており、ダウンロード売上は2006年の配信解禁から約3年後の2009年に10万ダウンロードを突破しているほか、他指標でもMV8,000万再生、ストリーミング1億再生(RIAJ)を突破している。
本曲は喪失感を美しく歌い上げた珠玉のバラードナンバーとして時代を超えて支持され続けており、例えば2017年に上白石萌歌が「午後の紅茶」のCMで本曲をカバーした際にはBillboard JAPAN Hot 100で週間6位に急浮上するほどの話題性を獲得した。なお発売当時のCDシングル売上チャートにおける週間最高位はシングルカットだったこともあり10位であったため、発売から19年後に当時を超えるヒットチャート順位を記録したことになる。
1999年には3曲入りEP『99ep』が21万枚、企画アルバム『花鳥風月』が42万枚をセールス。さらに年末にはこれまでのヒット曲を集めたベストアルバム『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』が本人非公認ながらもレコード会社から発売され、2000年の年間7位を獲得したほか、登場週数238週を記録し累計214万枚を売り上げる特大ヒットとなった。
2000年代
2000年には21stシングル「ホタル」が22万枚をセールスし、これを収録した9thオリジナルアルバム『ハヤブサ』が36万枚を売り上げた。
2001年には23rdシングル「遥か」が31万枚をセールス。2002年にはこの曲も収録した10thオリジナルアルバム『三日月ロック』を発売し、42万枚を売り上げた。
2004年1月には28thシングル「スターゲイザー」を発売し、24万枚をセールス。ダウンロード売上でも、2006年の配信解禁から約11年後の2017年に10万ダウンロードを突破している。本曲は人気恋愛バラエティ番組『あいのり』の主題歌として親しまれ、イントロの爽やかなカッティングギターや開放的なメロディーライン等が支持された。
2004年3月にはこの曲も収録した企画アルバム『色色衣』を発売し、24万枚を売り上げた。
2004年11月には29thシングル「正夢」を発売し、14万枚をセールス。2005年1月にはこの曲も収録した11thオリジナルアルバム『スーベニア』を発売し、35万枚を売り上げた。アルバム曲のうち、「春の歌」はCDでシングルカットされたほか、ダウンロード売上でも、2006年の配信解禁から約10年後の2016年に10万ダウンロードを突破している。ストリーミング5,000万再生、MV4,000万再生も突破している。
2006年3月にはデビュー15周年を記念した本人公認ベストアルバム『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』2枚を発売し、それぞれ74万枚、54万枚を売り上げた。前者は登場週数150週を数えている。過去曲のダウロード販売解禁もこのタイミングであった。
2006年7月には31stシングル「魔法のコトバ」を発売し、フル配信20万ダウンロード、CD11万枚、ストリーミング5,000万再生を記録。本作以降はCDとダウンロードの同時期発売が定着していくが、この曲の売上を見ても分かるとおり、楽曲によっては既にCDシングル売上よりもダウンロード売上の方が上回る状況となっていた。なおCDシングル売上10万超えは本作が自身最後であるが、以降は配信市場で10万超えのヒット曲を複数輩出していくこととなる。
2007年には12thオリジナルアルバム『さざなみCD』を発売し、21万枚をセールス。以降のオリジナルアルバム発売は3年に1作ペースで定着していった。
2010年代
2010年には13thオリジナルアルバム『とげまる』を発売し、17万枚を売り上げた。
2012年には最高視聴率10.9%を記録した人気ドラマ『僕とスターの99日』の主題歌に「タイム・トラベル」が起用され、これが10万ダウンロードを記録した。この曲は原田真二の同名曲のカバーである。
2013年には14thオリジナルアルバム『小さな生き物』を発売し、12万枚をセールス。2016年には15thオリジナルアルバム『醒めない』を発売し、13万枚をセールスした。
2017年にはバンド結成30周年を記念した本人公認3枚組コンプリートシングル集『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』を発売し、28万枚を売り上げた。
2019年には、42ndシングル「優しいあの子」がNHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』主題歌として話題となり、フル配信10万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生突破を果たした。この曲を収録した16thオリジナルアルバム『見っけ』も同年発売し、14万枚を売り上げた。
2020年代
美しい鰭
コロナ禍を経た2023年には、46thシングル「美しい鰭」が自身久々の大ヒットを記録した。本曲は興行収入138億円を記録したアニメ映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影』主題歌として書き下ろされた。同作でスポットが当てられた人気キャラクター灰原哀の心情を表現したような歌詞や清涼なサウンドは映画の大ヒットとともに多くのリスナーに支持され、フル配信10万ダウンロード、ストリーミング3.5億再生、MV3,000万再生を突破するに至った。
Billboard JAPAN Hot 100の年間でも2023年10位→2024年43位と推移しておりロングヒットしている。国内最有力総合楽曲ヒットチャート年間TOP10入りはCD売上時代まで遡り、1996年に「チェリー」「空も飛べるはず」で記録して以来実に27年ぶりとなった。
本曲を収録した17thオリジナルアルバム『ひみつスタジオ』も同年発売され、12万枚を売り上げた。
まとめ
以上まで見てきたとおり、スピッツは草野マサムネによる唯一無二のハイトーンボーカル、清涼なロックサウンド、想像を掻き立てる歌詞等の要素によって、その個性を時代を超えた普遍的なものに昇華させ多くの支持を集めていた。その活躍はデビューから30年以上が経過した今なお強い現役感を以て示され続けており、今後も目が離せないものとなっている。
以上までに紹介した主要なヒット曲を入手できるアイテムとしては、ベストアルバム『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』や、最新オリジナルアルバム『ひみつスタジオ』がおすすめ。
この記事で紹介したダウンロード売上データは日本レコード協会HP内の下記サイトで検索することができる。新たな発見の宝庫なので、時間があれば好きな曲やアーティストのダウンロード数を検索してみることをおすすめする。