『翻訳夜話(ほんやくやわ)』  by 村上春樹、柴田元幸

翻訳夜話(ほんやくやわ)
村上春樹柴田元幸
文藝春秋
2000年10月20日 第1刷発行 
2012年6月1日 第9刷発行

 

私の中で、ちょっとアメリカ文学ブームな気分になっている。ポール・オースター『カラスの街』を読んで、柴田さんの翻訳に触れ、エリン・モーゲンスターン『夜のサーカス』を読んでアメリカの田舎町を感じ、『レイモンド・カーヴァー傑作選』を読んで村上春樹翻訳にうなり。。。

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そんな話を友人Kとしていたら、やっぱり、村上春樹柴田元幸の本が面白い、、と言われて、村上春樹柴田元幸『本当の翻訳の話をしよう (増補版)』を読み、さらに、本書も面白いと・・。
お二人の本なので、まよわず、ポチった。

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2000年の本。ほぼ四半世紀前の本。でも、色あせない。。。

村上春樹、1949年京都府生まれ。柴田元幸、1954年京都府生まれ。村上さんは小説家でありつつ、翻訳もたくさん手掛けている。柴田さんは翻訳家であり、東京大学名誉教授。お二人は翻訳を通じていっしょにお仕事されている。

 

表紙カバー裏の説明には、
”roll one’s eyesは、「目をクリクリさせる」か?意訳か逐語訳か、「僕」と「私」はどうちがう?  翻訳が好きで仕方がない二人が思いっきり語り明かした一冊。 「翻訳者にとって一番大事なのは偏見のある愛情」と村上。「 召使のようにひたすら 主人の声に耳を澄ます」と柴田。 村上が翻訳と創作の秘密の関係を明かせば、 柴田はその「翻訳的自我」をちらりと覗かせて、作家と研究者の、言葉をめぐる冒険は続きます。 村上 がオースターを訳し、 柴田がカーヴァ-を訳した「競訳」を併録

 

目次
翻訳の神様  まえがきにかえて  村上春樹
フォーラム1 柴田教室にて
 偏見と愛情
 かけがえのない存在として
 作家にコミットすること
 雨の日の露天風呂システム
 ビート とうねり
フォーラム2 翻訳学校の生徒たちと
 「僕」と「私」
 he said she said
  テキストが全て
  ヒントは天から降りてくる
 日本語 筋力トレーニン
 翻訳の賞味期限
 百面相と自分のスタイル
 Kidneyオブセッション
 「涙目」と「あばずれ」
  越えられない一線
  複雑化する愛
海彦山彦 村上がオースターを訳し、柴田がカーヴァーを訳す
 村上・カーヴァー「収集」
 柴田・カーヴァー「集める人たち」
 村上・オースター「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」
 柴田・オースター「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」

 

感想。
これは、贅沢だ。私にはとても贅沢な一冊だ。二人の楽しいおしゃべりが聞こえてきたり、カーヴァーやオースターだけでなく、様々な作家のトリビアがあったり。加えて、「翻訳」という作業の楽しさがつたわってくる。

 

本書と並行して、村上春樹レイモンド・カーヴァー傑作選』キャッチャー・イン・ザ・ライを読んでいたので、解説書を読みながら読んでいるようで、濃い読書になった。

 

村上さんの翻訳への熱量がひしひしと伝わってくる。自らの創作活動とは別に翻訳を心から楽しんでいる。それは、目次タイトルで言うところの「雨の日の露天風呂システム」なのだそうだ。創作でつかった頭を休めるのが「翻訳」作業だと。村上さんにとって翻訳は、報酬のためではなくなにか無形の報い「bounty」があるのだと。翻訳で癒されるって、、、、。ちょっと、わからなくない気がする。createすることと、transrateすることは、頭の使う部分が違う。

 

気になるコメントを覚書。


・村上さん:翻訳をして学びになった作家。ジョン・アーヴィング、カーヴァー、ティム・オブライエン。「僕は その3人から少しでも何かを学びたい、滋養を吸収したいと思って、 だからこそ自分で翻訳をしたという部分はあります。」

 

・今後の翻訳のビジョンについて。
村上さん:「カーヴィーの書いたもので、訳しのこしているものをやらなくてはならないですね。それから、グレイス・ペイリーの短編集があと2冊あって、それはどうしても僕がやりたい。どうしてこんなにペイリーが好きなのか、 正直なところ 自分でもよくわからないですけど、 とにかく これはきちんと形にしたい。」
*『レイモンド・カーヴァー傑作選』(中央公論社・1994)は、この時すでに出版済み。
**グレイス・ペイリー村上春樹訳は、『最後の瞬間のすごく大きな変化』(文藝春秋・1999)、『人生のちょっとした患い 』( 文藝春秋・2005)、『その日の後刻に』(文藝春秋・2017)

 

・翻訳チェックに関して。
柴田さん:翻訳チェックをした相手が 技術的な問題であるにも関わらず、人格の問題として捉えちゃうことがある。村上さんは、間違ったことを指摘されても受け入れが速いので、二人の作業は早い。

 翻訳に限らず、校正をしていてもそうだし、通常の仕事でも、仕事に対して意見しているのを「自分の人格が否定された」ととらえてしまうのはありがち。。。。
他人に校正を依頼したり、意見を求めるからには、まずは素直に聞く耳を持とう。。。

 

・柴田さん:英語の表現辞書として『しぐさの英語表現辞典』(研究者)がお薦め。

 

・ダジャレの翻訳は難しい。
村上さん:「 ダジャレ みたいなものを別の形にどんどん 勝手に翻訳者が置き換えていくというのは、 それがたとえどのようなジャンルの小説であっても、純文学であってもエンターテイメントであっても、あまり 正しいことではないんじゃないかと僕は思うわけです。 翻訳とリライトは別のものですから。」

 

・笑いがポイントの文学作品:ジョゼフ・セラー『キャッチ=22』(1961)

 

・村上さん:「翻訳というのは 言い換えれば、「 もっとも効率の悪い読書」のことです。 でも実際に自分の手を動かして テキストを置き換えていくことによって、自分の中に染み込んでいくことはあると思うんです。

 

・村上さん:「 翻訳というのは、極端に濃密な読書であるという言い方もできるかもしれない」

 これ、すごくわかる。今、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅』を英語の勉強のために翻訳しているのだけれど、すごく濃密な読書になる。言葉を言い換えるって、すごく、、、、普段使わない脳みそのどこかを使っている感じ。楽しい。

 

ジョン・アーヴィング『未亡人の一年』を訳しているという若い翻訳者が、「自分よりもなく能力があって粘着力があってなんだかわからない人が自分の頭の中に無理やり入ってきて 頭蓋骨を力ずくで広げられているような感じがいつもしているんです」と、コメント。それに対して村上さんが、「やりかねない人だからね(笑)。」

 ジョン・アーヴィングって、どんな人なんだろう???読んでみようかな・・・。

 

・村上さんの「カキフライ理論」:自分のことを書けと言われて困っている人には、「カキフライについて書け」とアドバイスするという。コロッケでも、メンチカツでもなんでもいいんだけど、、、と。
「 カキフライについて書くことは自分について書くことと同じなのね。自分と カキフライの間の距離を書くことによって自分を表現できると思う。 それには語彙はそんなに必要じゃないんですよね。 一番必要なのは 別の視点を持ってくること。それが文章を書くには 大事なことだと思うんですよね。 みんな、 つい自分について書いちゃうんです。 でもそういう文章って説得力がないんですよね。」


なるほど、、、、さすが、小説家の言う事は違う!!!感心しきり!!

自分と何かの距離感を表現することで、自分を表現する。なるほどぉぉ!!と感動。

 

全体に、すごく興味深い。
面白い一冊。
翻訳の面白さがつたわってくるということもあるけれど、さまざまな作家へのコメントも面白い。

 

で、カーヴィーとオースターの同じ作品を二人が訳している。そして、原文の英語の載っている。こんな贅沢な翻訳見本はない。『収集』は、先日読んだ『レイモンド・カーヴァー傑作選』に入っていたので、更に濃く読んだ感じ。オースターの作品は、知らなかったけれど、面白い。クリスマスのネタに困っている作家が、知り合いの店の主人から聞かされるクリスマスにまつわる話を聞かされる。本当なの、創作なのか?わからないけど、男同士の軽い友情?

 

また、読みたい本がふえちゃったなぁ。。。

なんちゃって遊び翻訳も、楽しい。私の場合、一生かかっても終わらないスピードの気がするけど。。。。。

 

読書は、楽しい。

 

 

  翻译: