「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・旅賢録 5
晴奈の話、第297話。
央北上陸。
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5.
その後もいくらか話をしている内に、空と海が赤く染まってきた。
「もう、こんな時間か。……まったく、奇想天外な話ばかり聞いていて、すっかり時間が経つのを忘れてしまった」
「はは、楽しんでもらえたみたいで」
晴奈が雪乃の弟子と知ったモールは、上機嫌になって色々な話をしてくれた。
弟子である「金火狐」エリザの話や、克大火と争い勝利を収めた話など、数々の英雄や偉人たちを直接その目で見てきたモールの思い出話は、それだけでなかなかの英雄譚だった。
「良ければまた明日、お話を聞かせていただけませんかしら?」
フォルナの頼みに、モールはウインクして応えた。
「いいとも。私の思い出話でいいんなら、いくらでも」
「ありがとうございます、モールさん」
「いいって、いいって。それじゃまた明日ね」
晴奈たちはニコニコと笑いながら、モールに別れを告げた。
モールはそのまま、椅子に座っていた。ずっと赤く輝く海を見つめていたが、帽子のつばを下げ、目を閉じた。
(黄晴奈……、なかなか面白い子になったもんだね。
殺刹峰の討伐、か。正直、あの組織に近付くなんて、あんまりいい気分じゃないけども――新しい英雄譚を間近で鑑賞するのも、悪くないね。そっと、付いて行ってみようかねぇ)
この船旅で、公安組は散々カードゲームに興じた。その結果バートは792クラムの大敗を喫し、逆に小鈴が824クラムの大勝を記録した。
晴奈たちはモールから様々な話を拝聴し、有意義な時間を過ごせた。
ゴールドコーストを出発してから17日後。船は央北、ウエストポートに到着した。
「やっぱり、央中とは雰囲気が違うな」
晴奈は港を見回し、小鈴とフォルナにささやいた。
「そうですわね。央中は『狐』と『狼』ばかりでしたけれど、ここは耳が短い方の割合が大きいですわね」
「ま、人種もそーだけど、一番の違いは……」
小鈴はそっと晴奈の袖を引っ張り、港の向こうを指差す。指し示された方向には、大規模な軍港が構えていた。
「央中じゃあんまりあーゆーの見なかったけど、央北はあっちこっちに軍事基地や軍関係の施設があるのよ。だから自然と、軍事が生活に大きな影響を及ぼしてる。
あと、こっちは央北天帝教の方が――名前通りだけどね――影響力すっごく強いから、あんまり央中の常識とか慣習持ち出すと、えらい目に遭うわよ」
「ふむ……」
確かに、街の空気は央中のように雑多、活発と言う雰囲気では無い。あちこちに軍人や官僚と思しき姿の者がうろついており、ひどく物々しい。
そんな空気を懸念したジュリアが皆を集め、今後の行動についての注意点を伝える。
「戦争の最中で警戒が強められてるから、あまり目立った行動はしないようにね。
この任務は公安の管轄外での行動だし、公安のサポートは期待できない。総帥が仰っていた通り、財団も不要な混乱を避けたいし、中央政府当局に何らかの嫌疑をかけられて捕まっても、最悪の場合、見捨てられることもあるわ。
いくらエラン君が総帥の息子だと言っても、通用しないでしょうね」
「うぅ……」
これを聞き、エランが不安そうな顔になる。
「それから、ここからは三人一組、3チームに分かれて行動すること」
「三人、一組に?」
「何でなん?」
きょとんとする楢崎やシリンに、フェリオが説明する。
「9人が固まってゾロゾロうろついてるなんて、あまりにも怪しすぎるっスよ。だからこの先、クロスセントラルまでは3チームに分かれて、目立たないように行こうってことっス。
で、このチーム編成ですけど……」
フェリオに続いて、バートが説明する。
「ナイジェル式諜報班編成――リーダー、補助、戦闘員の三人で構成する。
チーム1、ジュリアがリーダー、補助にコスズ、戦闘員にナラサキさん。
チーム2、俺がリーダー、補助にフェリオ、戦闘員にシリン。
チーム3、フォルナちゃんがリーダー、補助にエラン、戦闘員にセイナだ」
「何で僕が補助に……」
不満げなエランに、フェリオがニヤニヤしながらささやく。
「そりゃー、フォルナちゃんの方がしっかりしてるもん。総帥のお墨付きだし」
「あぅ……」
こうして3チームに分かれた9人は央北の首都、クロスセントラルを目指すことになった。
さらわれた息子の救出、央中圏の安全確保、そしてロウの仇――様々な理由から集まった9人が、「大陸の闇」へと挑む。
蒼天剣・旅賢録 終
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央北上陸。
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5.
その後もいくらか話をしている内に、空と海が赤く染まってきた。
「もう、こんな時間か。……まったく、奇想天外な話ばかり聞いていて、すっかり時間が経つのを忘れてしまった」
「はは、楽しんでもらえたみたいで」
晴奈が雪乃の弟子と知ったモールは、上機嫌になって色々な話をしてくれた。
弟子である「金火狐」エリザの話や、克大火と争い勝利を収めた話など、数々の英雄や偉人たちを直接その目で見てきたモールの思い出話は、それだけでなかなかの英雄譚だった。
「良ければまた明日、お話を聞かせていただけませんかしら?」
フォルナの頼みに、モールはウインクして応えた。
「いいとも。私の思い出話でいいんなら、いくらでも」
「ありがとうございます、モールさん」
「いいって、いいって。それじゃまた明日ね」
晴奈たちはニコニコと笑いながら、モールに別れを告げた。
モールはそのまま、椅子に座っていた。ずっと赤く輝く海を見つめていたが、帽子のつばを下げ、目を閉じた。
(黄晴奈……、なかなか面白い子になったもんだね。
殺刹峰の討伐、か。正直、あの組織に近付くなんて、あんまりいい気分じゃないけども――新しい英雄譚を間近で鑑賞するのも、悪くないね。そっと、付いて行ってみようかねぇ)
この船旅で、公安組は散々カードゲームに興じた。その結果バートは792クラムの大敗を喫し、逆に小鈴が824クラムの大勝を記録した。
晴奈たちはモールから様々な話を拝聴し、有意義な時間を過ごせた。
ゴールドコーストを出発してから17日後。船は央北、ウエストポートに到着した。
「やっぱり、央中とは雰囲気が違うな」
晴奈は港を見回し、小鈴とフォルナにささやいた。
「そうですわね。央中は『狐』と『狼』ばかりでしたけれど、ここは耳が短い方の割合が大きいですわね」
「ま、人種もそーだけど、一番の違いは……」
小鈴はそっと晴奈の袖を引っ張り、港の向こうを指差す。指し示された方向には、大規模な軍港が構えていた。
「央中じゃあんまりあーゆーの見なかったけど、央北はあっちこっちに軍事基地や軍関係の施設があるのよ。だから自然と、軍事が生活に大きな影響を及ぼしてる。
あと、こっちは央北天帝教の方が――名前通りだけどね――影響力すっごく強いから、あんまり央中の常識とか慣習持ち出すと、えらい目に遭うわよ」
「ふむ……」
確かに、街の空気は央中のように雑多、活発と言う雰囲気では無い。あちこちに軍人や官僚と思しき姿の者がうろついており、ひどく物々しい。
そんな空気を懸念したジュリアが皆を集め、今後の行動についての注意点を伝える。
「戦争の最中で警戒が強められてるから、あまり目立った行動はしないようにね。
この任務は公安の管轄外での行動だし、公安のサポートは期待できない。総帥が仰っていた通り、財団も不要な混乱を避けたいし、中央政府当局に何らかの嫌疑をかけられて捕まっても、最悪の場合、見捨てられることもあるわ。
いくらエラン君が総帥の息子だと言っても、通用しないでしょうね」
「うぅ……」
これを聞き、エランが不安そうな顔になる。
「それから、ここからは三人一組、3チームに分かれて行動すること」
「三人、一組に?」
「何でなん?」
きょとんとする楢崎やシリンに、フェリオが説明する。
「9人が固まってゾロゾロうろついてるなんて、あまりにも怪しすぎるっスよ。だからこの先、クロスセントラルまでは3チームに分かれて、目立たないように行こうってことっス。
で、このチーム編成ですけど……」
フェリオに続いて、バートが説明する。
「ナイジェル式諜報班編成――リーダー、補助、戦闘員の三人で構成する。
チーム1、ジュリアがリーダー、補助にコスズ、戦闘員にナラサキさん。
チーム2、俺がリーダー、補助にフェリオ、戦闘員にシリン。
チーム3、フォルナちゃんがリーダー、補助にエラン、戦闘員にセイナだ」
「何で僕が補助に……」
不満げなエランに、フェリオがニヤニヤしながらささやく。
「そりゃー、フォルナちゃんの方がしっかりしてるもん。総帥のお墨付きだし」
「あぅ……」
こうして3チームに分かれた9人は央北の首都、クロスセントラルを目指すことになった。
さらわれた息子の救出、央中圏の安全確保、そしてロウの仇――様々な理由から集まった9人が、「大陸の闇」へと挑む。
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総もくじ 双月千年世界 3;白猫夢
総もくじ 双月千年世界 2;火紅狐
総もくじ 双月千年世界 1;蒼天剣
総もくじ 双月千年世界 短編・掌編・設定など
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もくじ 双月千年世界 目次 / あらすじ
もくじ 他サイトさんとの交流
もくじ 短編・掌編
もくじ 未分類
もくじ 雑記
もくじ クルマのドット絵
もくじ 携帯待受
もくじ カウンタ、ウェブ素材
もくじ 今日の旅岡さん
~ Comment ~
NoTitle
ここまで来ると色々なキャラクターが出てきますよね。
それぞれがそれぞれの思惑で動くのがいいですよね。
私もこういうの好きですね。
ようやくこちらでもユキノが本登場してアオリで出しております。
がんばります。
それぞれがそれぞれの思惑で動くのがいいですよね。
私もこういうの好きですね。
ようやくこちらでもユキノが本登場してアオリで出しております。
がんばります。
- #625 LandM
- URL
- 2011.11/30 07:08
- ▲EntryTop
NoTitle
ウォーゲームのことはさっぱりですが、確かに第6部は各キャラにスポットが当たる展開が多く、ゲームじみた戦いが繰り広げられます。
シリンは攻撃力に特化してるのでまだ使えるユニットでしょうが、もっと足を引っ張るのが約一名いたり。
シリンは攻撃力に特化してるのでまだ使えるユニットでしょうが、もっと足を引っ張るのが約一名いたり。
NoTitle
こういう言葉を聞くとついスタックしたユニットと諸兵連合効果を想像してしまうウォーゲームファン(←何語(^^;))
シリンはすぐにステップロスしそうだなあ……(←だから何語)
シリンはすぐにステップロスしそうだなあ……(←だから何語)
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NoTitle
非常に動き、躍動性に富んだ部になりました。
機会があれば、ここにもイラストが欲しいところ。
アオリ、確認しました。
ご使用いただき、ありがとうございます。
これからも、頑張ってください。