「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・九悩録 4
晴奈の話、第324話。
成り行きリーダー。
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4.
黒白戦争の直後から499年の今年までに、世界全体で大火の暗殺が試みられた回数は、中央政府軍が把握しているものだけでも50回以上に上る。
理由は様々――名のある奸雄を倒して名声や栄光を得ようとする者、1兆もあると言われる莫大な財産を狙う者、秘術や神器を得ようとする者。
そして――。
「彼奴がこの白亜城に出入りする限り、官憲は、貴族たちは、そして我が軍は堕落し、思考停止を続け、今の腐敗はさらに根深くなるばかりだ!
今こそ、あの『黒い悪魔』を排除すべし!」
「排除!」「排除!」「排除!」
この作戦を企画した少佐の扇動に、兵士たちが沸き立つ。その様子を一歩離れて見ていたドミニクは、他の兵士たちのように声を上げることなく、黙々と考えていた。
(こんな集まりなど、麻薬と変わらん。あの悪魔に対する恐怖心を、無理矢理にごまかしているだけだ。
まずするべきは、検討と思索だ。悪魔を倒すのだぞ? 自分たちの正当性だの意義だのを叫ぶ前に、考えねばならぬことはいくらでもあるはずだ。だのに隊長をはじめ、誰も彼も一切、触れようとしない。
まさか、何も考えていないのか……?)
ドミニクの予想通り、少佐はここで会議を切り上げようとした。
「では各自、英気をよく養っておくように! 詳細は追って報せる! それでは、解散!」
「待ってください、少佐殿」
あまりに考え無しの振る舞いを見せる少佐に呆れ、ドミニクは手を挙げた。
「何だ、ドミニク大尉」
「作戦の概要は? さわりだけでも説明をいただけた方が、我々の意気・意欲も盛り上がると思うのですが」
「何を言う? 悪魔を倒す、それだけでも意欲が沸くと……」「それだけではありません。この作戦に失敗すれば、我々全員の命が危ないのです。生きるか、死ぬかのどちらかしかない。
あの悪魔は己に刃を向けた者を赦すような、温厚な性情はまったく持ち合わせていないと聞いています。負ければ確実に殺されます。逃げようとしても無駄でしょう」
ドミニクの主張に、浮かれていた兵士たちは一転、不安げな表情を浮かべ始めた。
「……そう、だよな」「悪魔だもんな」
兵士たちは少佐に顔を向け、じっと見つめる。ドミニクもキッとにらみつけつつ、淡々とした口調を作って尋ねた。
「まさか、何も考えずに立ち向かうおつもりですか? 我々の命を無謀な作戦に、無闇に放り込んで、それで安易に勝てるとお思いではありますまい?」
「い、いやっ! 勝てるはずだ! 我々は正義のために立ち上がるのだ! 神が我々を助けぬはずが無い!」
まだ愚かしいことを唱えようとする少佐に怒りを覚え、ドミニクは怒鳴りつけた。
「何を馬鹿な! 今まで正義の名の下に負け、死んだ者はいくらでもいる! 正義や祈りは力ではない!
神頼みで戦争に勝てると言うのならば何故、黒白戦争は天帝家の、すなわち天帝教の勝利で終わらなかったのだ!? 今までにカツミを狙った者が皆、一瞬たりとも神に祈らなかったと思うのか!?」
「う、う……」
ドミニクは怒りに任せ、少佐を突き飛ばした。
「ぎゃっ!? な、何をする貴様っ!?」
「お前では話にならん! お前の無謀な指揮では、例え10万の兵を以って戦ったとしても、カツミを討てるわけが無い!」
場の雰囲気は完全に、ドミニクに呑まれていた。先程まで少佐に目を向けていた兵士たちは、今はドミニクに対し、熱い視線を送っている。
「大尉、貴様……」
まだ少佐が何か言おうとしたが、今度は兵士たちがそれを黙らせた。
「うるさい!」「ひぎゃ」
兵士たちに殴り飛ばされ、少佐は気絶した。どうやら頭でっかちの技術将校だったらしく、簡単に白目をむいてしまった。
「大尉! 我々は皆、あなたに全権を任せます!」
「……そうか」
ドミニクは一瞬、逡巡した。元々この作戦には乗り気ではなかったし、何より自分の厄、「9」が付く時期である。
(できるならこんな愚行は、やめさせたいのだが)
しかし上官を殴り倒し、兵士たちからは今、絶対の信頼を寄せられている。
ここで断れば上官は黙っていないだろうし、ここまで自分を信頼してくれた兵士たちを、ひどく落胆させてしまうことになる。
(仕方なし、……か)
ドミニクは深くうなずき、重々しく口を開いた。
「ああ、やろう」
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黒白戦争の直後から499年の今年までに、世界全体で大火の暗殺が試みられた回数は、中央政府軍が把握しているものだけでも50回以上に上る。
理由は様々――名のある奸雄を倒して名声や栄光を得ようとする者、1兆もあると言われる莫大な財産を狙う者、秘術や神器を得ようとする者。
そして――。
「彼奴がこの白亜城に出入りする限り、官憲は、貴族たちは、そして我が軍は堕落し、思考停止を続け、今の腐敗はさらに根深くなるばかりだ!
今こそ、あの『黒い悪魔』を排除すべし!」
「排除!」「排除!」「排除!」
この作戦を企画した少佐の扇動に、兵士たちが沸き立つ。その様子を一歩離れて見ていたドミニクは、他の兵士たちのように声を上げることなく、黙々と考えていた。
(こんな集まりなど、麻薬と変わらん。あの悪魔に対する恐怖心を、無理矢理にごまかしているだけだ。
まずするべきは、検討と思索だ。悪魔を倒すのだぞ? 自分たちの正当性だの意義だのを叫ぶ前に、考えねばならぬことはいくらでもあるはずだ。だのに隊長をはじめ、誰も彼も一切、触れようとしない。
まさか、何も考えていないのか……?)
ドミニクの予想通り、少佐はここで会議を切り上げようとした。
「では各自、英気をよく養っておくように! 詳細は追って報せる! それでは、解散!」
「待ってください、少佐殿」
あまりに考え無しの振る舞いを見せる少佐に呆れ、ドミニクは手を挙げた。
「何だ、ドミニク大尉」
「作戦の概要は? さわりだけでも説明をいただけた方が、我々の意気・意欲も盛り上がると思うのですが」
「何を言う? 悪魔を倒す、それだけでも意欲が沸くと……」「それだけではありません。この作戦に失敗すれば、我々全員の命が危ないのです。生きるか、死ぬかのどちらかしかない。
あの悪魔は己に刃を向けた者を赦すような、温厚な性情はまったく持ち合わせていないと聞いています。負ければ確実に殺されます。逃げようとしても無駄でしょう」
ドミニクの主張に、浮かれていた兵士たちは一転、不安げな表情を浮かべ始めた。
「……そう、だよな」「悪魔だもんな」
兵士たちは少佐に顔を向け、じっと見つめる。ドミニクもキッとにらみつけつつ、淡々とした口調を作って尋ねた。
「まさか、何も考えずに立ち向かうおつもりですか? 我々の命を無謀な作戦に、無闇に放り込んで、それで安易に勝てるとお思いではありますまい?」
「い、いやっ! 勝てるはずだ! 我々は正義のために立ち上がるのだ! 神が我々を助けぬはずが無い!」
まだ愚かしいことを唱えようとする少佐に怒りを覚え、ドミニクは怒鳴りつけた。
「何を馬鹿な! 今まで正義の名の下に負け、死んだ者はいくらでもいる! 正義や祈りは力ではない!
神頼みで戦争に勝てると言うのならば何故、黒白戦争は天帝家の、すなわち天帝教の勝利で終わらなかったのだ!? 今までにカツミを狙った者が皆、一瞬たりとも神に祈らなかったと思うのか!?」
「う、う……」
ドミニクは怒りに任せ、少佐を突き飛ばした。
「ぎゃっ!? な、何をする貴様っ!?」
「お前では話にならん! お前の無謀な指揮では、例え10万の兵を以って戦ったとしても、カツミを討てるわけが無い!」
場の雰囲気は完全に、ドミニクに呑まれていた。先程まで少佐に目を向けていた兵士たちは、今はドミニクに対し、熱い視線を送っている。
「大尉、貴様……」
まだ少佐が何か言おうとしたが、今度は兵士たちがそれを黙らせた。
「うるさい!」「ひぎゃ」
兵士たちに殴り飛ばされ、少佐は気絶した。どうやら頭でっかちの技術将校だったらしく、簡単に白目をむいてしまった。
「大尉! 我々は皆、あなたに全権を任せます!」
「……そうか」
ドミニクは一瞬、逡巡した。元々この作戦には乗り気ではなかったし、何より自分の厄、「9」が付く時期である。
(できるならこんな愚行は、やめさせたいのだが)
しかし上官を殴り倒し、兵士たちからは今、絶対の信頼を寄せられている。
ここで断れば上官は黙っていないだろうし、ここまで自分を信頼してくれた兵士たちを、ひどく落胆させてしまうことになる。
(仕方なし、……か)
ドミニクは深くうなずき、重々しく口を開いた。
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総もくじ 双月千年世界 3;白猫夢
総もくじ 双月千年世界 2;火紅狐
総もくじ 双月千年世界 1;蒼天剣
総もくじ 双月千年世界 短編・掌編・設定など
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もくじ 他サイトさんとの交流
もくじ 短編・掌編
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もくじ クルマのドット絵
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もくじ 今日の旅岡さん
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立場はありますよね。
恩もあります。
信頼もあります。
それを壊さずに生きていきたい。
そう思うと従うままは楽で良い。
そう思うか、思わないか、ドミニクさんの葛藤は良く分かります。
恩もあります。
信頼もあります。
それを壊さずに生きていきたい。
そう思うと従うままは楽で良い。
そう思うか、思わないか、ドミニクさんの葛藤は良く分かります。
- #725 LandM
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- 2012.03/28 19:59
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ドミニクは本気でやめたかったと思います、この作戦。
相手の絶対的な強さに比べて、こちらは考えの浅い雑兵揃い。
負け戦になるのは間違いないですから。
ただ、(将校はともかくとして)兵士たちの気概、熱意に触れて、
このまま反故にするには、あまりにも忍びなかったんでしょう。
「間違っていても、やるしかない」
ドミニクの葛藤は、この一言に尽きますね。