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学校で学ぶ歴史が嫌いだった人へ。
2003/09/13 06:25
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アルテミス - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は学校の歴史が嫌いだった。
だが、今考えれば、年号を覚えさせられ暗記できたものの量で評価されるのが嫌いだったのだ。本書に出会う前の私は主にSFやファンタジーを読んでいたのだが、それらの中でも「舞台は架空だがストーリーは大河ドラマ的」なものを特に選んでいたのだから。
ともあれ「歴史は嫌い」と思い込んでいた私は当然歴史ものを読むことはほとんどなかった。したがって歴史の知識が増える筈がなく、あまたある日本の歴史物はたいてい読者の側にある程度の歴史の教養(常識)があることを前提にしているので、手に取る気にならないという悪循環に陥っていた。
だが、ある日。
本書の後に書かれた塩野氏の「レパントの海戦」が目にとまった。レパントの海戦の少し後の時代をを舞台にしたマンガを読んだ後だったのだ。三部作の三作目だったので、一作目から読んだ。面白かったが、この三冊の段階ではまだ「歴史」ではなく「物語」を愉しんでいた。ともあれ、同じ著者の別の作品を、と思って本書を手に取った。
私の読書傾向は、それ以来一変した。
本書に、「美術史以外ヴェネツィア史について書かれた書物が皆無に近い日本では、先例を参考にするということができないために、言葉の訳ひとつからして私がはじめなければならない」という記述がある。そのために塩野氏は大変に苦労されたのだろうと察するが、結果として本書は何の予備知識もなく読める歴史書となった。そのおかげで、私は本書を読み通すことができ、「自分が歴史を好きである」ことを「発見」できたのである。
著者が自らたびたび言明しているが、塩野氏が「作家であって歴史家ではない」のも幸いした。歴史家の書いた歴史書では論拠となる資料をそのつど挙げないわけにはいけない。いきおい「注」が膨大な量となる。なかには、本の厚さのかなりの部分が「注」に割かれてしまっているものもある。いちいち巻末を参照するのは手間である。しかし、引用されている資料のタイトルなどに混じって、知らない用語の解説などが載っている場合もあるのでその手間を省くことはできない。
そういう散文的な理由以上に、「文章が作家のものであって歴史家のものではない」ことが、本書の魅力をより高めている。これは塩野氏の文章が簡潔、平明であるという意味「も」もちろん含んでいるが、ここでの主眼はそういう意味ではない。歴史家が歴史書を書くときは、おそらく「扱っている史実あるいはそれについての論考に関心がある読者」を想定しているであろう。そういう読者は、内容がしっかりしていれば、文章力は文法的に誤りがない程度であれば文句は言わない。しかし作家は、そういう「はじめから興味を持って読み進めてくれる読者」だけを相手にして文章を書く贅沢は許されない。常に読者の興味を引き続ける文章力(努力と言い換えてもいい)が必要不可欠なのだ。
その点、塩野氏は間違いなく作家であった。
史実について述べるときは臨場感豊かに、ときには脱線して空想と遊ぶ。ヴェネツィアを危機が襲うたびに、読者ははらはらして手に汗を握ることになる。読み終わったときに、知的好奇心だけでなく純粋に娯楽としても「面白かった」と言わせうる歴史書など滅多にあるものではない。
本書の後、ヴェネツィアに関する本が多数出版された。それらを読んで後に本書を読み返すと、塩野氏の視点がいささかヴェネツィアに好意的に過ぎる部分があるとわかる。だが。
本書に出会うまで、私は長らく歴史を「暗記物」だと思っていた。
しかし、ヴェネツィア旅行が趣味になってしまい、イタリア語をかじるようになった今では、「歴史」と「物語」が、イタリア語では同じ「ストーリア」という単語であることを、私は知っている。
そして、塩野七生氏は「ストーリア」の書き手なのである。
かつての政治学徒にも興味は尽きない。
2005/05/18 10:05
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたつみの自游人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
6月末大学のクラスメートでアドリア海・エーゲ海のクルーズに行くことになった。そのクルーズの出港・帰港地が共にベネチアであり、クルーズ終了後更に2日間ベネチア観光の日程をとっていることから、思い立って昔読んだ塩野七生女史の「海の都の物語—ヴェネチア共和国の一千年」を読み直そうと考えた。
処が書棚にとっておいた筈のこの書籍が見当たらないのです。丸善に行ってみたところ、品切れで、途方に暮れたが、amazon.comと同じ方法で商売している@niftyの「お買い物」を呼び出し、ネットで注文したところ、4月27日の2100頃注文したものが、28日の午後には宅急便で配達されたのには驚いた。
十数年前に読んだ記憶があるが、細部は殆ど忘れていて、今回のクルーズの航路がヴェネチアが地中海の女王として、活躍した通商ルートと重なり合う為、興味は尽きなかった。是非ご一読をお勧める。
歴史としても面白いし、1000年に亘って繁栄を続けた統治機構を作り上げたプロセスなど、政治機構論的にもかつての政治学徒としても勉強になった。「ヴェネチア共和国は資源に恵まれなかった国である。資源に恵まれた陸地型の国家ならば、非効率の統治が続いても、そ
れに耐えていかれる。古代ローマ帝国、ビザンチン帝国、トルコ帝国も、悪政が続いてもそれが帝国崩壊につながるには、長い長い歳月を要した。一方、資源に恵まれないヴェネチアのような国家には、失政は許されな
い。それはただちに、彼らの存亡につながってくるからである」との指摘は日本と中国との関係にもそのまま通用しそうな議論で、身に詰まされる思いを懐いた。
千年の繁栄を支えた国家の美徳
2008/06/30 20:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
多くの歴史的遺産と独特の景観で今も世界中の観光客を魅了してやまない水の都、ヴェネツィア。ローマ帝国末期、蛮族の侵入におびえる人々がキリスト教の司教に導かれて潟(ラグーナ)へと移り住んだことが、その起源であった。やがて彼らは、地中海を舞台にした中継貿易で発展をし、中世においては西ヨーロッパの経済的中心として栄えただけでなく、近世以降も繁栄を続け、1795年にナポレオンに征服されるまで、実に1千年以上ものあいだ存続したのである。
塩野七生の本作は、『ローマ人の物語』のときと同様、通俗的な歴史の蒙昧から私を解放してくれた。ヴェネツィア=守銭奴というネガティブなイメージが偏見にすぎず、その長い繁栄を生んだ要因は、彼らの悪徳ではなく、むしろ正義と公正の念、国家への忠誠や団結心といった美徳であるということを、本書は教えてくれた。以下、この国に繁栄という正当な報酬をもたらした諸要因を、具体的にあげてみたい。
第一に、彼らの政治体制があげられよう。権力の集中を極度に嫌い、常に共和政をとり続けたことが、国民のあいだの政治的・社会的平等を生んだ。その結果、この国の長い歴史を通じて内乱やクーデターはほぼ皆無であった。
ヴェネツィア市民の公正で勤勉な気質も、繁栄の大きな要因であった。同じイタリアの海洋都市ジェノヴァの商人は海賊行為などの不正も平気で行ったが、ヴェネツィアの商人は、正当な手段で堅実に商売を行い、国家もまた護送船団方式などによりこれを保護し続けた。
第三に、現実主義的な彼らは、中世ヨーロッパ社会で一般的であった宗教的不寛容や残虐性とは無縁であり、カトリック教会とも常に距離を保った。他のイタリア諸都市が、皇帝派と教皇派に分かれて政争を繰り返したのに対し、現世の利益を第一に考えるヴェネツィア人のこのような性格は、政治的安定にも大いに寄与した。
最後に、国家としての危機管理体制と、いつでも国家のために命を張るという国民一人ひとりの愛国心こそ、この国の存続を可能にした最大の要因であろう。市民の一人ひとりは、個々の利益を追求する商人ではあったが、いざ国家の困難や危機に際しては、市民全員が力を合わせてそれに対応し、幾度か経験した祖国存亡の危機もこのような団結により乗り越えたのだった。(残念なことに、18世紀以降はこのような気概が国全体から消え失せ、結果、ナポレオンの恫喝で戦わずして国を明け渡すこととなるのだが...)
これら数々の美徳と呼ぶべき特質により、ヴェネツィアは、国土も狭く物的資源に乏しいというハンディキャップを克服し、中世以降のヨーロッパにおいて稀有な経済的繁栄と政治的安定を享受したのである。
ヴェネツィアが歴史的にこうむった汚名の典型例は、第四次十字軍で彼らがとった行動であろう。世界史の教科書などでは、騎士たちの宗教的情熱を利用して自らの利益のために東ローマ帝国を攻撃し、これを一時的に滅ぼしたとしてその卑劣さが強調されがちである。しかし、この上巻において塩野は、現実主義者として首尾一貫した態度をとった彼らの行動原理を描くことでヴェネツィア悪人説を見事にくつがえし、その冤罪を晴らすことに成功している。
「ローマ人」シリーズで、歴史の盲点を突く塩野の手法には慣れっこになっていたはずの私だったが、今回もやられたと感じた。しかし本作品は、「ローマ人」よりもはるか以前に書かれた書物なのだった。
七生歴史観
2002/03/29 17:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶん - この投稿者のレビュー一覧を見る
現在はローマの歴史を描いている著者だが、その歴史観はこの著作から一貫している。著者は、国家の衰亡はその構成員の堕落によって引き起こされる、というありがちな歴史観に真っ向から反対し、国家の盛衰は構造・特質による、と説く。客観的な視点ではなく、主観的な構成員批判に傾きがちな国家盛衰論へ一石を投じる著作である。
塩野七生の傑作
2001/11/08 23:37
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は彼女の事実上のデビュー作であり、彼女の著作の中での最高傑作であろう。ヴェネチアという中世に絶頂期を迎えた商業都市国家の運命と、今日の日本の運命が重ね合わさるような感覚にとらわれる。それにしてもあのヴェネチアの石の都を支えているのが、ヘドロに大量に打ち込まれた松の杭だったとは知らなかった。歴史叙述もさることながら、ヴェネチアの都市建設の知恵についての解説が興味をそそられる。読んで損はありません。
久しぶりに読んでみようか
2019/08/06 16:27
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
わが家にはなつかしのハードカバーがあります。娘や夫に勧めてみたら、結構真剣に読んでくれました。やっぱり名著の吸引力は違います。
第4次十字軍を礼賛する人
2024/09/15 15:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヴェネツィアを贔屓の引き倒しでもしたいのか?第4次十字軍を礼賛している。「破壊や残虐行為は、第一次十字軍のイェルサレム征服や、第三次十字軍のリチャード獅子心王の行為を見ても、どうやらこれは、当時では通常の行為と判断するしかないようである」そうだ。皇帝との関係が悪化していたからこそヴェネツィアは傀儡皇帝を立てようとしたのだが、その際にハンガリー国王の所領だったザーラを征服している。「第一次十字軍のイェルサレム征服」で十字軍はイスラーム教徒やユダヤ教徒のみならず非カルケドン派や正教徒の大量虐殺をしたが本文で読み取れるようにザーラはカトリックの信者の都市だ。まともな経済感覚や官僚機構がないので徴税には「キリスト殺し」のユダヤ教徒を使わざるを得ない王侯貴族や騎士達がスポンサーたるヴェネツィアの言うままにカトリックの都市を征服しては本末転倒だ。「貴重な人類の遺産で大英博物館を満たそうと、聖マルコ寺院をはじめとするヴェネツィアを飾ろうと、私はそこに、なんの差を感じない」そうだが正教徒の心に反カトリック感情を植え付けてイスラーム教徒の君主の被保護者としてジズヤを納めれば信仰を容認されるので「教皇の三重冠を見るよりスルタンのターバンを見る方がマシ」となったではないのか?結局は第4次十字軍なるものはヴェネツィアが自分達の商売の拠点作りの為の侵略戦争「と判断するしかないようである」。
ヴェネツィアの傀儡国家のラテン帝国の皇帝戴冠式で「総主教」とあるがカトリックなので「総大司教」。どうやら塩野七生は宗教観で気がついていないらしいが?聖ソフィア大聖堂は正教会の総主教区の所在地で、コンスタンティノポリスにカトリックの総大司教が成立した事自体が、この本の趣旨と矛盾するのではないのか?
確かにこの本自体は面白いにしても本来は必要なはずの東ローマ帝国なりオスマン朝なりの情報が語学力の関係で?英語なりイタリア語なりの翻訳頼りになるのか見えづらい。井上浩一の「生き残った帝国ビザンティン」でパレオロゴス朝を書こうとするとイタリア語やトルコ語(オスマン語?)などの語学力が必要だとあったが、そんなところだろうか?塩野七生は自己が書こうとする対象を身贔屓し過ぎる傾向があるようだが、それが露骨になったのは、この本あたりから?
コンスタンティノポリスがニカイア帝国側に奪取された時の記述に「パレオロゴス帝」とあるが一個所だけ「ミカエル・パレオロゴス」とあるように「パレオロゴス」は家名であり、本来ならミカエル8世と書くべきだ。パレオロゴス朝は1453年のコンスタンティノポリス陥落まで続くが代々の東ローマ皇帝を「パレオロゴス帝」とは書かないだろう。それにミカエル8世がコンスタンティノポリスを傀儡国家から奪取したのではなく部下の将軍が行動に移している。
「火薬は、ビザンチン帝国が、有名なギリシャ火焔薬として使っていたが」とあるが火薬とギリシャの火は別物。ギリシャの火が登場する東ローマ帝国がウマイヤ朝によってコンスタンティノポリスが包囲された時点で火薬などまだ存在していない。それに火薬に押されたのか?ギリシャの火の製法は忘れられてしまったので再現出来ないそうだ。
商業国家の盛衰記
2023/03/24 16:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヴェネツィア共和国がナポレオンによって廃されるまで一千年ほど生き残れたのは、商業を国是とした商業国家だったからではないだろうか?教会がカトリックと正教会に分かれて、東ローマ帝国の影響圏から離れていたが、周囲には強大な王権を持った君主がいなかったからだろうか。カトリックの信仰を前面に出して正教会圏やイスラーム圏相手に仕事をする事など出来るわけがない。
しかし本としては面白くても、著書の悪い癖である書いている対象に対する身贔屓が鼻についてしまうのは、第4次十字軍のような当時ですら評判が悪かった無道な侵略戦争を「正当化」しているからだ。第4次十字軍を「肯定的」に書いていながら天下国家を論じるのは止めてほしいものだ。