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映画はさびしんぼう
2009/09/04 08:14
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画批評の世界で、淀川長治さんの果たした役割は大きい。
どんな映画でもいいところがあるはずだと、淀川さんが三十年以上解説を続けた、テレビの映画番組では批判がましいことは言わなかったといいます。たぶんそれだけ長く放映してきたのですから、きっとつまらない作品だってあったはずですが、それでも言わない。しかも、誰にもわかりやすい言葉で話しつづけた。よく淀川さんの話芸とかいわれますが、淀川さんの場合、純粋な映画ファンの気持ちが終生失われることがなかったのだと思います。
見終わったあと、誰かに話したくなるのは、映画ならではの興味ある現象です。本の場合も少なからずないわけではありませんが、映画ほどではありません。あるいは、一人で観るよりは、映画館の暗闇のなかで誰かと観る方がうんと楽しいのも、映画の特徴ではないでしょうか。
そういう映画の性格と淀川さんの批評の仕方がうまく合っていたのでしょう。
映画とは、さびしんぼうなのかもしれません。
本書は、美術エッセイ『怖い絵』シリーズで人気を博した中野京子さんの映画エッセイです。肩のこらない文章ということでいえば、淀川長治さん同様で、中野さんも映画が大好きなのでしょう。
「電話」とか「家」とか九つのテーマで102本の映画が紹介されていますが、読者が好きな映画から読みはじめてもいいですし、興味のあるテーマから読むのも自由です。
でも、できれば、「はじめに」は開演ベルを聞くつもりで、最初に読むといいでしょう。
そのなかで、中野さんは「小さな箇所から、あるいは少し変わった視点を当てることで、これまでとは違う作品の魅力を発見してもらえれば」と書いていますが、これは「歴史的または文化史的観点から見直せば、もっと(美術が)楽しくなるはず」という、『怖い絵』シリーズの執筆動機とほぼ同じです。
たとえば、本書で紹介されている『サウンド・オブ・ミュージック』(「いとしのミュージカル」というテーマがあるにもかかわらず、この作品は「戦争の真実」というテーマのなかに括られています)ですが、あのトラップ一家がスイスに亡命したあとの、映画が終わってからの現実のエピソードが書かれていて、それでもっとあの作品が楽しめるだろうなと感じます。
そういうさりげないことが、映画鑑賞をもっと楽しませてくれるのだと思います。
さあ、そろそろ開演です。
本書を読み終わったあと、あなたは誰とどんな話をするでしょうか。
映画の本も、案外さびしんぼうなのかもしれません。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でご覧いただけます。
その映画の見どころを的確に押さえたエッセイ文が好ましい
2009/07/11 16:45
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『怖い絵』シリーズ(朝日出版社)でブレイクした著者の手になる映画エッセイ集。本屋でぱらぱらと拾い読みしているうちに、見たい映画がたちまち10本以上、頭の片隅にリストアップされました。
その映画のツボを巧みに押さえ、どの辺にどんな面白味があったのかをささっとスケッチした文章が実に気持ち良く、「おっ! これは面白そうだなあ。いっちょ、見てみっか」と、そそられた映画があちこちにありましたね。「これは家に帰って、隅から隅までちゃんと読まねば」となりまして、その時はもう矢も盾もたまらず、レジに直行していた次第。
1本の映画につき3頁のショート・エッセイが、全部で102本、収められています。その中から、本文の一部を引用させていただきます。
<原作が面白い場合、期待しすぎてかえって映画化作品にがっかりすることが多いものだが、これは小説(貴志祐介作)に負けない迫力。病んだ現代社会を抉(えぐ)り出し、心底ぞっとさせられる。(中略)家の中からは猛烈な悪臭が漂ってきて、誰もが息をとめて駆け去るほど。こんな臭気の中でよくも暮らせるものだ。平気なのだろうか? そう、平気なのだ。異臭は住人の心の闇からも発せられている。これはそういう相手と対峙(たいじ)させられた、ひとりの平凡なサラリーマンの受難の物語である。> p.305~306
とここまでで、(中略)含めて、紹介文全体のざっと三分の一くらい。この箇所を読んで、なぜなんだろう? いたく興味を惹かれた私。早速、隣のレンタルビデオ店に足を運びまして、その映画のDVDを借りてきてしまいました。
本書の初出は、月刊誌『母の友』(福音館)で連載中のエッセイ「ははとも倶楽部VIDEO」のうち、2000年4月号から2009年3月号までの102本分。
文庫・表紙カバーの絵は、ドイツの画家フランツ・フォン・シュトゥックの『スフィンクスの口づけ』(1895年)。
テーマで斬るセンスある映画ガイド
2011/05/30 00:03
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「怖い絵」のシリーズが話題になった中野京子さん。本来ドイツ文学が専門で、美術を始め西洋文化にも詳しい、という人らしいが、それが映画の本も書いているというので読んでみた。
「愛と恐怖」という順番ではないところにセンスを感じる。もっとも著者ではなく編集者のアイデアかもしれない。元々雑誌の連載だったらしい。テーマで括ってあるのが特徴。
内容は思ったより軽いし、一つ一つのコメントは短くて、それほどインパクトがあるわけではない。が、しっかりした鑑賞眼と映画に対する愛情が感じられて、気楽に楽しめる。一定のテーマで切って行くところで引き締まる感じがする。それとこの人は面白さを感じさせるのがうまい。ついつい見てみたくなる。既に見た映画で必ずしもいいと思わなかった映画でもそんな調子だから、好みは違う部分もあるのだろうが、とりあえず見てみようという気になる。
ありがちなガイドブックの範囲を超えるようなものではないと思うが、手元に置いておきたい一冊だろう。
とびきりの予告編集
2014/08/27 00:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栞理 - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画の予告編は、総じて面白い。たとえ映画そのものはつまらなくても、予告編は面白かったりする。そう思いませんか?
中野京子さんのお名前は、書店で『怖い絵』を立ち読みしていて(ゴメンナサイ!)記憶にありました。『怖い絵』シリーズの印象と、『恐怖と愛の映画102』というタイトルから、映画に関するウンチク本かと思って手にしたのですが、さにあらず。
本書の「はじめに」によれば、この本は月刊誌「母の友」に連載中の映画エッセイ、9年分をまとめたもの。「十分な紙数を使わないで中途半端な批評をするのは、制作者に対し失礼」であるとの中野さんのお考えから、いわゆる映画批評は一切無し。基本的に紹介している映画は肯定的に書かれているので、ページをめくりながら、なんとなく淀川さんの名解説を思い出してしまいました。
雑誌に連載の記事という生い立ちゆえに、どの映画に関するエッセイも文庫本にして3ページ以内、これが初めから終わりまで一定のペースで続きますが、飽きることなく一気に読破してしまいました。
映画によっては、ラストのオチまではっきり書いてしまっているものもあり、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。しかし、中野さんの文章を読んでいくと、どの映画も魅力的に感じられ、「ああ、この映画観たい!」と感じてしまう。これはもちろん、エッセイストとしての中野さんの腕も優れているのでしょうし、ご専門の文学・文化・芸術に関する知識がバックボーンにあればこその、感想の奥深さゆえの共感なのだと思います。
今、改めて本書の目次でカウントしてみると、紹介されている102本のうち、私が現時点で観た記憶があるのが12本。映画通を自認していたつもりだったのに、ちょっと勉強が足りないかな?
そして、まだ観ていない90本は、そのまま私の「次に観たい映画リスト」に加わってしまいました。もしDVDで買い揃えるとしたら...文庫本1冊が原因で、えらい出費ですね、困ったものです(笑)。
短い文章の中にぎゅっと凝縮された、映画のエッセンス。それはまさに映画の予告編のような、珠玉のエッセイが102編。まずは102本の中から自分のお気に入りの1本を見つけて、パラパラと立ち読みすることをお勧めします。
蛇足ですが、この文庫本の表紙の絵、猥雑には感じませんが、なかなかに官能的です。もし皆さんが電車での通勤通学の時間にこの本を読まれるのであれば...やはり書店でブックカバーは掛けてもらった方が良いように思います...
興味が湧く。
2020/06/24 16:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「恐怖と愛」とあるが、ホラーやラブストーリーに限られていない。様々なジャンルの映画の紹介になっている。これが案外楽しい。観てみようかなと思った。
中野さん 映画を語る
2017/08/07 21:21
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
中野さんの硬質で美しいイメージを喚起させる文章で語られる映画のガイドブックとでも言うべき一冊。自分がイマイチだと思った映画 中野さんも微妙だと思ったようなのが なんか嬉しかった。
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