次に目指すは、二泊することになるシャンボチェの丘にあるシェルパリゾートだった。展望台にいた時にRajさんが、ほら、あそこがそうですよ、と教えてくれていた。目と鼻の先のようでいて、実のところ2時間はかかる道のりで、我々はそれ以上の時間を掛けてゆっくりと近づいた。
一度ナムチェの村はずれまで戻り、そこから時には石の階段、時には土埃の急斜面の坂を上るとシャンボチェの丘に続くのであった。丘からの景観を楽しもうと、早朝から目指したであろうトレッカー達の幾つもの集団と、すれ違った。
元気の良い時には「ナマステ!」、「ハロー!」、「ボンジュール!」、「こんにちは!」など声を掛け、色々な言語でちょっとした会話に花が咲く時もある。トレッキング中の楽しみの一つなのだが、さすがにどうかすると鈍痛が走る頭を抱え、「ナマステ」と小声で言うのがやっとだった。
と、そのうちの一人から「まあっ!こんなところで再会するとは!お元気でした?嬉しいっ!できたら、毎日どこかでお会いしたいわ。私に活力を与えてくれる存在なのよねえ。」と、けたたましく声を掛けられた。
パクディンのロッジで一緒だった、快活な女性だった。恐らくナムチェでもう一泊するのであろう。エベレストベースキャンプを目指すと言っていた。体調が順調らしいことは、その声からも伝わった。どうぞ楽しいトレッキングを!お互い頑張りましょうね。そして、また是非会いましょう!
ビスターレ、ビスターレ。誰かのペースに惑わされることなく、自分たちのペースで進むことの大切さと、それを可能とさせる条件を準備することの重要性を大いに学んだ。恐らくは、人生においても同じことがいえるのだろう。
一歩一歩しっかりと歩みを進め、時々深呼吸をして呼吸を整えながら進むAmmaこと母の歩みは、決して早くはなかった。それでも、時々自分で自分を鼓舞しながらも、上っていく母の姿は輝いていた。
丘の中腹で、丁度一休みするような広場があり、先に来ていた相棒は、クリスタルボールを演奏しながら待っていてくれた。隣ではナムチェから来たのであろうかと思しき地元のおばちゃんが、手作りアクセサリーを並べていた。またその隣には、大きな荷物を降ろして、一休みしているポーターのおじちゃん達数名がいた。
行商のおばちゃんは、相棒がクリスタルボールを演奏していると、もちっと大地に響き渡るように弾かんかい、と言って、ほれ、わしに貸してごらん、とクリスタルボールを受け取ったという。ところが、彼女がどう頑張ってみても、クリスタルボールはちっとも響いてくれなかったそうな。
恐らく地元のシンギングボールと同じだと思っていたのだろう。しかし、よく相棒が大切なクリスタルボールを貸してあげたな、と思わずにはいられなかった。そして、ちっとも音が鳴らなかった時、おばちゃんはどんな顔をしたのだろう、と想像すると、笑いが込み上げてきた。
おばちゃんが広げている布に飾られたアクセサリーを冷やかし程度に眺めていたが、好奇心たっぷりの相棒が手に取って、色々と質問を始めた。おい、おい、おい。手にしちゃ、買わんと悪いぞなもし。いや、思い出に買ってもいいかしらね。そう思い、豆のような石のような小粒の玉のブレスレットを手にしてみた。
母はマントラが刻まれている小さなペンダントヘッドを手にしていた。何で作ってあるのかしら。おばちゃんはそんなに英語ができなかった。Rajさんに応援を頼むと、全て水牛の角との返事だった。え?ペンダントヘッドはそうだとしても、この豆のような石のような小粒の玉も?
Rajさんは、ちょっと困ったような顔をして、「そう言うのだから、そうなのです。彼女に聞き返せませんよ。本気で怒鳴られちゃいますよ。」と囁いた。そうか、その通りだわ。彼女がそういうなら、これは水牛の角。そして、気に入ったら買えばいいし、気に入らなかったら買わなければいい。
結局、相棒がキーホルダーを二つ選び、Ammaはペンダント、私はブレスレットにした。手につけてみると、おばちゃんがさっと紐を口で切って長さを調節してくれた。お見事というのか、紐は切れやすいので取り扱いを注意せねばと思うべきなのか。
値段は、当初告げられていた一つ一つの値段を加算したものから少し割り引いて、4つで1100ルピーとのことだった。この時もRajさんは泣きそうな困った顔をしていた。その顔には、割り引いては貰えたので、これ以上の交渉はできない、と書いてあった。
大丈夫。このお値段でオッケーよ。財布を見てみると、大きなお札しかなく、100ルピー札はおろか、200ルピー札もなかった。2000ルピーでお釣りを貰うしかないか、と思っていたところ、Rajさんが「100ルピーは私が出します。私からのプレゼントです。」とさっと100ルピーを自分のお財布から取り出してくれた。
始終満面の笑みを浮かべていたおばちゃんと、Ammaと相棒とで記念写真を撮った。その場を後にする時、それまで黙っていたポーターのおじちゃん達が、おばちゃんに冷やかしの声を掛けていた。きっと、うまいこといったねぇ、とでも言っていたのだろう。
さあ、あとひと踏ん張り。水牛の角なのか、小粒の石なのか、はたまた何かの種なのか。おばちゃんが口でぴっと切って、私の腕のサイズに直してくれたブレスレットというよりもお数珠といった方がぴったりの粒の連なりが、しゃらしゃらと心地よい音を奏でていた。
お数珠を手に取ると、あの時の空の色、ひんやりとした空気の香り、おばちゃんの満面の笑み、Ammaの爽快なる笑顔、相棒の嬉々とした笑顔、そしてRajさんのちょと照れた笑顔が蘇る。時々くる頭の鈍痛までもが、愛おしく思い起こされる。
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