「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第5部
緑綺星・砂闇譚 5
シュウの話、第181話。
ならず者国家とマネーロンダリング。
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5.
「八百長? ……なるほど、そーゆーコトか」
裏事情を聞かされた天狐は、パチンと指を鳴らした。
「つまりナームダール社主催のこのレースの結果で、こっそりギャンブルしてるんだな?」
「ギャンブル自体はこっそりじゃないですねー。ウラの方でもごく浅いトコ、まだオモテの光が差し込んでる程度のトコです」
そう言ってシュウは、スマホの画面を見せる。
「マルヴァシアーズって言うブックメーカーさん(賭けの場を設けることを主な事業とする営利組織)がナームダール社さんと共同で南海ツーリングカー選手権、通称SOTCのレース予想を募ってるんですが、このマルヴァシアーズさん、出資元をたどってくと白猫投信さんに行き着くんですよ」
と、しれっとシュウの横にいたエヴァが口を挟む。
「白猫投信? 名前からして、白猫党の関係組織なのか?」
「ですです。白猫党が外貨獲得とマネーロンダリング(不正行為によって得た金を、正当な方法で手に入れたように偽装・隠蔽すること)のために作った銀行で、オモテではFX(外為取引)中心の投資信託、ウラでは犯罪組織御用達の銀行として暗躍してたんですけど、オモテの取引は3月侵攻で悪評が広まって以降はストップしてます。アレ以来、世界中がクラムとの交換を停止しましたからね。
で、その余波がウラにも響いてるんですよ」
「白猫投信に預けた裏金を使えるカネに換えられなきゃ、ロンダリングできたとは言えねーだろ」
「今まさにその件で、ウラでは揉めに揉めてるみたいです。詳しく経緯をお話しするとですね、例えばナームダール社との裏取引では麻薬原料購入の代金としてクラム建ての白猫党債を渡してたんですが、713年から3月侵攻までの4年半、ずーっとクラムが高騰し続けてましたから、ソコまではウィンウィンの美味しい取引だったんですよ。白猫党側にとってはタダ同然で麻薬原料が手に入りましたし、ナームダール社側にとっては右肩上がりに価値が騰(あ)がってく債券を大量にもらえたワケですから。
ところが今やクラムは全世界で取引停止されて、事実上1エルの価値もありません。当然ナームダール社も、同じように債券を代金として受け取ってた他の組織も激おこです。『こんな紙切れじゃなくちゃんと使えるカネ寄越せー』って。でも白猫党の外貨準備高は世界中にバラ撒いてきた債券額面の半分もない、いや、5分の1あるかどうかも怪しいって話ですから、当然これらの要求に応じるのは不可能です。
ソコで白猫党が苦肉の策として提案したのが、マルヴァシアーズを通じてのギャンブルだったんです」
「つまりネット上で賭けを募り、世界中から外貨を集める。……だけならまだギリギリ健全なカネ稼ぎとも言えるが、白猫党が絡んでるとなれば話が怪しくなってくるな。賭けの結果を操作してるとすれば、集まった賭金を事実上ほぼ丸ごと懐に収めるコトも、ウラで示し合わせてカネを送るコトも自由自在ってワケだ。
だが実際のところ、たかが賭けだろ? 裏組織の連中が納得するほどの額が集まんのか?」
天狐の疑問に、一聖が答える。
「白猫党本部や直属の軍事基地とかならともかく、下部組織や孫請け、曾孫請けの末端組織ならセキュリティも比較的甘い。ってワケで既にハッキングしてマルヴァシアーズの財務状況を把握してるんだが、3月侵攻の失敗以降、大慌てでカネ集めに奔走してたらしい。その甲斐あって、718年末にはプール金は1千億エルを超えてたそうだ。
もちろん白猫投信の本懐である白猫党の予算獲得にはまだまだ届かないが、とりあえずウラの連中を当面は納得させられるだけの額は確保できてると考えていいだろう。あとは総決算となるSOTCで白猫党が指定した相手に賭けさせて賭金を支払えば、マネーロンダリング完了ってワケだ」
「でもこのスキームは、すべて『賭けが自分たちの意のままに操れるなら』って前提条件があってこそです。もし事前に示し合わせてた話と実際の結果が違うってなったら、めちゃめちゃ文句言われるでしょうね。最悪、完璧に信用を失ってウラとの取引も停止されるかもです」
「そりゃいい」
天狐はニヤッと笑い、まだシュウが掲げていたままのスマホを指差した。
「大一番のSOTC優勝予想がコケれば、その最悪も現実になるだろう。オモテでもウラでも資金調達に失敗すりゃ、白猫党は今度こそ進退を窮めるだろう、な」
「少なくともチマチマ犯罪摘発やるよりゃ100倍話が早い。ってワケでだ――コイツに参戦して、メチャクチャにしてやろーぜ」
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ならず者国家とマネーロンダリング。
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「八百長? ……なるほど、そーゆーコトか」
裏事情を聞かされた天狐は、パチンと指を鳴らした。
「つまりナームダール社主催のこのレースの結果で、こっそりギャンブルしてるんだな?」
「ギャンブル自体はこっそりじゃないですねー。ウラの方でもごく浅いトコ、まだオモテの光が差し込んでる程度のトコです」
そう言ってシュウは、スマホの画面を見せる。
「マルヴァシアーズって言うブックメーカーさん(賭けの場を設けることを主な事業とする営利組織)がナームダール社さんと共同で南海ツーリングカー選手権、通称SOTCのレース予想を募ってるんですが、このマルヴァシアーズさん、出資元をたどってくと白猫投信さんに行き着くんですよ」
と、しれっとシュウの横にいたエヴァが口を挟む。
「白猫投信? 名前からして、白猫党の関係組織なのか?」
「ですです。白猫党が外貨獲得とマネーロンダリング(不正行為によって得た金を、正当な方法で手に入れたように偽装・隠蔽すること)のために作った銀行で、オモテではFX(外為取引)中心の投資信託、ウラでは犯罪組織御用達の銀行として暗躍してたんですけど、オモテの取引は3月侵攻で悪評が広まって以降はストップしてます。アレ以来、世界中がクラムとの交換を停止しましたからね。
で、その余波がウラにも響いてるんですよ」
「白猫投信に預けた裏金を使えるカネに換えられなきゃ、ロンダリングできたとは言えねーだろ」
「今まさにその件で、ウラでは揉めに揉めてるみたいです。詳しく経緯をお話しするとですね、例えばナームダール社との裏取引では麻薬原料購入の代金としてクラム建ての白猫党債を渡してたんですが、713年から3月侵攻までの4年半、ずーっとクラムが高騰し続けてましたから、ソコまではウィンウィンの美味しい取引だったんですよ。白猫党側にとってはタダ同然で麻薬原料が手に入りましたし、ナームダール社側にとっては右肩上がりに価値が騰(あ)がってく債券を大量にもらえたワケですから。
ところが今やクラムは全世界で取引停止されて、事実上1エルの価値もありません。当然ナームダール社も、同じように債券を代金として受け取ってた他の組織も激おこです。『こんな紙切れじゃなくちゃんと使えるカネ寄越せー』って。でも白猫党の外貨準備高は世界中にバラ撒いてきた債券額面の半分もない、いや、5分の1あるかどうかも怪しいって話ですから、当然これらの要求に応じるのは不可能です。
ソコで白猫党が苦肉の策として提案したのが、マルヴァシアーズを通じてのギャンブルだったんです」
「つまりネット上で賭けを募り、世界中から外貨を集める。……だけならまだギリギリ健全なカネ稼ぎとも言えるが、白猫党が絡んでるとなれば話が怪しくなってくるな。賭けの結果を操作してるとすれば、集まった賭金を事実上ほぼ丸ごと懐に収めるコトも、ウラで示し合わせてカネを送るコトも自由自在ってワケだ。
だが実際のところ、たかが賭けだろ? 裏組織の連中が納得するほどの額が集まんのか?」
天狐の疑問に、一聖が答える。
「白猫党本部や直属の軍事基地とかならともかく、下部組織や孫請け、曾孫請けの末端組織ならセキュリティも比較的甘い。ってワケで既にハッキングしてマルヴァシアーズの財務状況を把握してるんだが、3月侵攻の失敗以降、大慌てでカネ集めに奔走してたらしい。その甲斐あって、718年末にはプール金は1千億エルを超えてたそうだ。
もちろん白猫投信の本懐である白猫党の予算獲得にはまだまだ届かないが、とりあえずウラの連中を当面は納得させられるだけの額は確保できてると考えていいだろう。あとは総決算となるSOTCで白猫党が指定した相手に賭けさせて賭金を支払えば、マネーロンダリング完了ってワケだ」
「でもこのスキームは、すべて『賭けが自分たちの意のままに操れるなら』って前提条件があってこそです。もし事前に示し合わせてた話と実際の結果が違うってなったら、めちゃめちゃ文句言われるでしょうね。最悪、完璧に信用を失ってウラとの取引も停止されるかもです」
「そりゃいい」
天狐はニヤッと笑い、まだシュウが掲げていたままのスマホを指差した。
「大一番のSOTC優勝予想がコケれば、その最悪も現実になるだろう。オモテでもウラでも資金調達に失敗すりゃ、白猫党は今度こそ進退を窮めるだろう、な」
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