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古事記・日本書紀のなかの史実Ⅱ (21) 天孫降臨⑩ 古事記・日本書紀成立の経緯から見た天孫降臨神話

天孫降臨神話には、古事記、日本書紀本文の他、日本書紀に一書という形で異伝が残されていることは、すでにお話しました。この理由について、それぞれがお互いに補完し合いながら全体を構成している、という説があることも、お話しました。

ここで、なぜそのような複雑でわかりにくい構成としたのか、という疑問が生じます。 とくに日本書紀本文は、ヤマト王権の公式は見解であるはずですから、なにもそのようなややこしいことをしなくとも、日本書紀本文にすべて包含して記載すればいいだけのことです。

この問題は、古事記・日本書紀成立の経緯から考えたほうがすっきりと解釈できると思います。
古事記・日本書紀成立の経緯については、シリーズ第六巻『古事記・日本書紀のなかの史実① 天地開闢からアマテラス誕生まで』でお話しましたが、ここで今一度おさらいしましょう。

ーーー
古事記・日本書紀は、「帝紀」「旧辞」はじめ、多くの資料(典拠資料)をもとに書かれています。その典拠資料も、もともとは何らかの史実があり、それが多くの人に伝えられていくうちに、次第に変化していったことでしょう。日本書紀には、「一書にいわく」という注記がたびたび出てきて、同じ話についても多くの異伝が合わせて記載されていることが、これを示しています。

つまり古事記・日本書紀と史実は、次の図のような関係になるのではないかと、考えられます。



古事記・日本書紀成立経緯

1.まず、史実Aがあったとします。

2.これを現場にいた人が、何らかの記録に残したとします。直接見た人ですから、その内容はほぼ史実に同じでしょう。これを伝承Aaとします。

3.この伝承Aaが人々に広まりますが、尾ひれ背びれがつき、さらに伝える人により変化していったでしょう。これらを伝承Aa-1,Aa-2,Aa-3・・とします。

4.「帝紀」「旧辞」は、このうち伝承Aa-1,Aa-2をもとに作られたとします。そうなると古事記には、伝承Aa-1,Aa-2が伝わり編纂されたことになります。一方、伝承Aa-3は伝わらなかったことになります。

5、日本書紀は、古事記に伝わった伝承Aa-2のほかに、古事記に伝わらなかった伝承Aa-3も伝わったでしょう。また帝紀・旧辞、すでに編纂されていた古事記のほか、外国史書も参照して編纂されました。一方、古事記に伝わった伝承Aa-1は、伝わったにしても「帝紀」「旧辞」を介してなので、薄まったと推測されます。

以上のように考えると、古事記・日本書紀の記載に大きな違いがある理由が説明できます。典拠となる伝承に違いがあるうえに、日本書紀の場合は、さらに外国史書も参考にしているわけで、違っていて当然です。大人数で数百年にわたる伝言ゲームをやっているようなものですね。

ーーー

では、これを天孫降臨神話で考えてみましょう。
司令神がタカムスビのみである日本書紀一書(第四・第六)は、伝承Aa-3に当てはまります。
司令神アマテラス加わる、あるいはアマテラスのみになる日本書紀一書(第一・第二)は、ここでの伝承Aa-2に当てはまります。

日本書紀本文は、司令神がタカムスビである一書(第四・第六)を採用したので、司令神がタカムスビとなった、となります。
古事記は伝承Aa-2を参考にしているので、日本一書(第一・第二)と近い内容になってます。すなわち司令神がアマテラス・タカムスビになっていますね。

このようにシンプルに考えたほうが、すっきりと理解できるのではないでしょうか。

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青松光晴

Author:青松光晴
古代史研究家。理工系出身のビジネスマンとして一般企業に勤務する傍ら、古代史に関する情報を多方面から収集、独自の科学的アプローチにて、古代史の謎を解明中。特技は中国拳法。その他、現在はまっている趣味は、ハーブを栽培して料理をつくることです。

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