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    メトロクレス(キニク派、犬のディオゲネスの孫弟子にあたる)

     メトロクレスは、ヒッパルキア*1の兄。彼は以前はペリパトス派のテオプラストス*2の弟子であったが、あるとき、弁論の稽古をしている最中に、どうしたわけか、おならを出してしまった。
     そのために、彼はすっかり気落ちしてしまって、家に閉じこもり、食を絶って死ぬつもりでいた。
     そこで、このことを聞き知ったクラテス*3は、身内の者から頼まれたので、彼のところへやってきて、わざとハウチワ豆を食べた後で、まず、こんなふうに言って、言葉で持っても、彼が何ひとつへまなことをしたわけではないことを彼に説いて聞かせたのであった。
     つまり、(腸内にたまった)プネウマ*4だって、もし自然に従って体外に解き放たれるのでなかったら、異常な事態になっただろうから、と説明したのである。
     そして最後には、クラテスは自分でもおならを出して、実際にも彼と似た行為をすることで慰めながら、元気づけてやったのである。
     そこでその時以後、彼はクラテスの弟子となり、哲学に十分習達した人となったのである。

    (「ギリシャ哲学者列伝」より引用)


    これではしょうがないので、注をふくらませてみる。

    *1 ヒッパルキア
     あるときクラテスの話ぶりにも(乞食同然の)くらしぶりにもすっかりほれこんでしまい、他おおぜいの求婚者たち(の財産にも、家柄にも、見栄えにも)には目もくれず、クラテスと結婚させてもらえないなら自殺すると両親を脅した。
     両親は、彼女を説得できるのはクラテス本人をおいて他にないと、娘をあきらめさせてくれ、と頼んだ。
     クラテスはできるかぎりのことをはやってみたが、とうとうヒッパルキアを説得することができなかったので、立ち上がって彼女の目の前で衣服を脱ぎ捨て、「これがあなたの花婿です。そして彼の財産はこれだけです。さあ、これもよく見て、心に決めなさい。そしてまた私と同じ仕事(こじき哲学者)にならないかぎり、私の配偶者にはなれないでしょう」。
     彼女はまよわずクラテスを選び、哲学者になった。兄とはたいした違いであるような気もするし、そうでもないようにも思う。

    *2 テオプラストス
     アリストテレスの一番弟子。アリストテレスの引退後、彼の学園を引き継いだ。

    *3 クラテス
     犬のディオゲネスの弟子。一説には孫弟子。やせ我慢が好きで(それが彼らの哲学でもあった)、夏は毛皮のオーバーを着て、冬はぼろぼろの服を着た。
     それから日記をつけていた。こんなのである。

     “料理人には10ムナ、医者には1ドラクマ、
     おべっか使いには5タラントン、助言者には煙、
     娼婦には1タラントン、哲学者には3オボロス。”
    (貨幣に単位:1オロボス=6ドラクマ=600ムナ=36000タラントン)

    彼には「扉をあける人」という(かっこいい)あだながあったが、それは彼がどの家にでもすぐ上がりこんだからである。

    *4 プネウマ
    (せっかく辞書を買ったので引いてみたいのである。ギリシャ文字がうまく打てないので、例文ははしょる)
     πνευμα
      1 wind,air
      2 1.breath
        2.spirit,inspiration
      3 a Spirit,spiritual Being

    ここでは「ガス(おなら)」のこと。




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