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     これは経験から言うんだが(笑)、どこかに少しでも「自分は頭がイイ」という思いがあると、経験論なんてバカらしくて読めない(笑)。
     なんとなれば、経験論とは本来的にバカらしいからである。しかし人間というものは、第一次近似でいうとバカだ。
     だから世界中、経験論はどこでも友達を見つけるだろう(あるいはいたるところで敵にぶつかるだろう)。

     鶴見俊輔が言っていたことだが、ジェイムズはどこかで(たぶん『心理学』で)、こんな話をしている(余計なことだが、ジェイムズのそれはいつも「たとえ話」ではなく、単に「実話」だ)。
     昔は歯を抜くための麻酔に、笑気ガスというおおらかな薬品を使っていた。
     そのガスを吸うと無性に楽しくなるのだが(在りし日のパーティドラッグである)、おまけに痛みという感覚が薄れてしまう。
     ある日、歯医者は自分でガスを吸って、いい気分になっていた。お手軽にトリップしてしまって、その最中に真理を発見し(つまりそういう気になった)、それをその辺りにあった紙切れに書き付けた。

     ヒッチコックは同様のシチュエーションの小話を、「夢の中で素晴らしいアイデアを思いついた脚本家」というタイトルでやっている。もちろんオチは目覚めて(正気にかえって)、すっかり忘れてしまっていたそのメモを見るときだ。

     歯医者はメモを発見した。それには真理が書いてあった。
    「オレはガスで酔っぱらってる」。




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