情報空間に拡大する戦場 「リスク社会」からみるウクライナ侵攻とは

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神里達博の「月刊安心新聞+」

 今週、ウクライナ危機は新たな局面に入った。

 昨年からウクライナ国境近くに軍を配備して緊張を高めていたロシアは、ウクライナ東部の親ロシア派地域の独立を承認、平和維持を名目に、本格的な軍事行動を開始した。

 国際秩序を無視するロシアの行動に対して、「西側」諸国は次々と制裁の発動を表明しつつある。

 今月は、全く専門外のテーマになるが、本コラムでも時折触れてきた「リスク社会」という捉え方を参照しつつ、この状況を考えてみたい。

 まず、近年の戦争は、どのような性格を持っているのだろうか。その一つに、「境界の不明瞭化」があると私は感じている。

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かみさと・たつひろ

1967年生まれ。千葉大学大学院教授。本社客員論説委員。専門は科学史、科学技術社会論。著書に「リスクの正体」など。

起点と終点 あいまいになる「輪郭」

 たとえば、いつ戦争が始まったのかがはっきりしないことが増えている。ウクライナ危機も、すでに8年前に始まっていたとも言えるし、今週開始したとも言える。また始まりが分からないということは、終わりも明確にならない可能性がある。

 加えて、空間的に、どこからどこまでが戦場なのかが見えにくくなっている。たとえば、24日現在のウクライナは、全土に戒厳令が出され、その意味では本格的な戦争状態が始まったともいえる。だが少なくとも首都キエフは、リアルタイムの映像から判断する限り、まだ危機的状況には見えない。

 しかし逆に、そのような情報が遠隔地から随時もたらされるがゆえに、むしろ私たちは事態を見誤るかもしれない。膨大な電子的情報も、あくまで現実の一部を切り取ったものに過ぎないからである。

 その結果、戦争の「輪郭」が曖昧(あいまい)になっていくのだ。

 だからこそ「イメージのコン…

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