「ふつうのパパより早く死ぬ」最後の薬に賭けた父、生きるための選択
編集委員・辻外記子
100万人に1人の珍しい病気「腹膜偽粘液腫」の手術を受けた溝口慎也さん(51)は2017年末、抗がん剤を使い始めることになった。
完治を目指すためではなく、おなかに散らばったがんが大きくなるのを抑える「延命」のためだった。
家族で過ごしてきた日常の延長線上で、未来を描けなくなった。いつまで生きられるのか。常に死を意識する日々が始まった。
「パパは、これからずっと抗がん剤を受ける、病気の人になった。ふつうのパパよりも早く死んでしまうと思う」
当時10歳だった長男と7歳だった長女に、ありのまま伝えた。
2人は黙って聞いていた。
長女はその後、それまでのように「外で遊ぼう」と溝口さんに言わなくなった。自分を抱きかかえたり、走ったりできなくなった父の体を心配してのようだった。
地元の九州大学病院で、抗がん剤治療が始まった。
「サバイバー」じゃない いら立つ日々
まずは、のみ薬と点滴を組み…