西加奈子さん 遺伝性乳がん+コロナ 「もう許して、私おごってた」
夢だった小説家になった。
32歳でマンションを買い、猫を拾い、夫と出会い、母になった。直木賞も受賞した。
40歳を過ぎて、カナダ・バンクーバーに親子3人で移住した。子どもは当時2歳。会社勤めの夫が休職できるタイミングだった。
作家の西加奈子さん(46)は期待に胸をふくらませていた。2019年のことだ。
海と山があり、バリアフリーにデザインされた街で子育てすると、「生活も考え方も、ファッションもシンプルになっていった」。
でも、英語が……。1年経っても上達しない。「めちゃくちゃ言語習得の音痴やった」
言葉がつたないので、スーパーでも役所でも、病院でも、家の水道が壊れても、人の助けなしでは生きていけなかった。
自分を鍛えたくて柔術を始めた。
いくら練習して筋トレしても、16歳の女子にこてんぱんにされた。
「みじめやなぁ」
天井を仰ぎ、足を引きずりながら帰り道、こんな想(おも)いが湧いた。もちろん、直木賞作家なんて武器にならない。
「凹(へこ)むんですよ。でもその後なんだか、みじめさにワクワクして笑えた」
これまで、一人でも生きていけると思っていた。
「私、おごってた」
2021年5月、ひざやふくらはぎに赤い斑点ができ、病院で診てもらった。ついでに気になっていた右胸のしこりについて相談し、検査をした。
日記をつづり始めた。書くことで、気持ちを外に出して、自らの状況や感情を確かめることができた。救いになった。
8月中旬、整体の施術中にがんセンターから電話がかかってきた。
英語で病名を告げられた。正確に何と言っているのかは分からない。
「がんですか?」
「がんはゴジラやコロナと同じ」
そう聞くと医師がこう言った…
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