「産業革命以来、最大の変革」 国内外で気候テックが注目される理由
今年の主役の一つは「気候テック」だった。
毎年3月に米テキサス州で開かれるテックイベント「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」。過去には、ツイッターや配車サービスのウーバー・テクノロジーズ、民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)などのスタートアップ(新興企業)が世界的な注目を浴びるきっかけとなった。
魚類にやさしい水力発電のタービン開発、溶かした塩を使った蓄熱・蓄電技術、醸造技術を使ったパーム油の代替品――。
20億ドル規模のベンチャーキャピタル(VC、投資会社)「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ(BEV)」のタラ・バンサル氏は、これらを手がけるスタートアップの幹部らと登壇。「意識の変化を感じる。5年前にはなかったことだ」と話した。
気候テックとは、温暖化問題の解決につながるテクノロジーのことだ。原因となる温室効果ガスの排出を減らす技術だけでなく、温暖化の影響への備え(適応策)を進めたり、気候変動への理解を深めたりする技術やサービスも含まれる。
米調査会社「Holon IQ」によると、気候テックへの投資は2022年に701億ドル(約9兆8千億円)となり、前年比で89%増えた。今年1月時点で、気候テックで評価額10億ドル以上の未上場企業「ユニコーン」とされるのは米国や中国を中心に世界で83社にのぼるという。
深刻化する気候変動に対し、各国は脱炭素化を加速させている。
エネルギー、産業、農業、モビリティー、自然保護など、すべての分野での大転換が求められることになり、これを実現するためには巨大な金と人が動く。国際エネルギー機関(IEA)の試算では、温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の目標達成に必要な費用は約8千兆円。気候テック企業は、これをビジネスチャンスとみる。
米国で気候変動対策を担当するジョン・ケリー大統領特使は「産業革命以来最大の変革となるだろう」と語る。
次の1千社のユニコーンは…
SXSWにも登壇した投資会社「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ」は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏らが設立した。ジェフ・ベゾス氏(アマゾン創業者)、孫正義氏(ソフトバンク)らも名を連ねる。20億ドル(約2800億円)の投資先は、新型の全固体電池や核融合炉、二酸化炭素貯蔵などの新技術を開発するスタートアップが中心だ。
世界では毎年計590億トンの温室効果ガスが排出されている。国際ルール「パリ協定」の下、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えるという目標達成には、2050年までに実質ゼロにする必要がある。
IEA(国際エネルギー機関)によると、既存の技術でも排出の半減はできるが、残り半分はまだ実証段階にある技術に頼る必要がある。「今後10年間に大きな技術革新の努力が必要」だとする。
「世界最大の投資会社」とされる米ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)は「次の1千社のユニコーン企業は、検索エンジンでもメディアでもなく、グリーンな水素や農業、製鉄、セメントを開発するビジネスだ」と述べる。
気候テックは、「ビッグ・テック」と呼ばれるIT大手などで大量解雇が相次いだことで、そこにいた人材をひきつけている。
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