人間くさい史料紹介 庶民の暮らし伝える特別展 京都市歴史資料館
「商売でもめごとが起きた」「家を建てる際の手続きは」といった相談から、「変死体が出た!」といった事件まで――。江戸時代、困りごとが起きた時に京の人々が頼ったお役人さんの人名録など、ユニークな史料の数々を紹介する特別展が、京都市歴史資料館(上京区)で開催中だ。
昔も今も変わらぬ「人間くささ」を感じ取れる展示品が勢ぞろいした。その目玉は「京都武鑑」だ。幕府役人のトップにあたる京都所司代をはじめ、行政・司法を担当した東町・西町奉行所の「与力(よりき)」や「同心」ら下級役人の人名録だ。
人事異動があるたび毎年のように新しい版が発行されたといい、特別展では1768(明和5)年~1867(慶応3)年の18点を展示する。
面白いのは、武鑑には役人の自宅の場所がわかる住宅地図がセットになっていることだ。正式には「京都袖中(しゅうちゅう)武鑑」または「袖中京都武鑑」と呼ばれ、小さく折り畳んで袖の中に収納して持ち歩いたらしい。
役人の家を訪ねる際にはあぶり餅のような手土産を持って行ったり、問題が無事解決した暁には心付けを届けたり……。展示を担当した調査員の吉住恭子さんは「名簿を袖中に収めて、袖の下を渡す。京の庶民が日常生活をどう円滑に進めたかがうかがえる、とても人間くさい史料です」と話す。
「事件事故」にまつわる史料もある。
「清水の舞台から飛び降りる」。決死の覚悟で何かを実行する際に用いられる表現だが、江戸時代には願掛けの一環として、清水の舞台からの「飛び落ち」が大流行した。けがで済んだ場合が大半だったが、不幸にも亡くなった場合は役人を呼んで遺体を調べてもらう「検使(けんし)」が必要だった。
特別展では、1844(天保15)年に「貫道」という名の19歳が飛び落ちて亡くなった際の記録「差上申一札(さしあげもうすいっさつ)」のほか、自殺・他殺の見極め方などを記した史料「検使心得見様記(みようき)」も展示されている。
幕末以降の京の様子も知ることができる。皇女和宮が降嫁した際の行列の様子を記録した「万歳 皇代能豊兆(みよのにぎわい)」(1861年刊)や、1895(明治28)年の第1回時代祭の行列の様子を伝える史料も紹介。「風船屋」や「しゃぼん玉売」などを描いた画集「京の街頭風俗」(大正~昭和前期)のほか、1935(昭和10)年の京都大水害の際、大量の流木に見舞われた四条大橋の状況など京都市旧蔵の写真も展示されている。
珍しいのは、今回の展示品はすべて撮影OKであること。古文書ファンは史料を撮影して自宅で「解読」を試みるといった楽しみ方もできそうだ。
特別展「人びとは、京をどう生きたか?―館蔵品をひもとけば―」は12月24日まで。月曜・祝日休館。午前9時~午後5時。無料。調査員が展示品を解説するギャラリートークは10月18日、11月15日、12月17日の午後2時から40分程度。申し込み不要。問い合わせは同館(075・241・4312)へ。