「うまく行ってるロケットは変えるな」の金言 H3、開発の難しさは

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石倉徹也 鈴木智之
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 日本の新たな主力ロケット「H3」が、再挑戦となる打ち上げにまもなく挑む。約10年かけて開発してきた新型ロケット。ロケットは、どんな仕組みで飛び、なぜ開発に苦労するのだろうか。

 風船は、膨らませて手を離すと吹き込み口から空気が勢いよく噴き出し飛んでいく。

 ロケットが飛ぶ原理も同じで、ロケット内でつくった燃焼ガスを噴射し、その反動で上昇する。

「ゾウ30頭分」の燃料、5分で燃やす

 ガスを生み出す燃料は、H3の場合は液体水素を使う。ただ、これだけでは燃えない。宇宙には空気がないため、燃やすための酸化剤として液体酸素を大量に載せていく。

 ロケットで最も重くて大きな容積を占めるのが、これらの燃料。H3は1段目だけで液体の酸素と水素を200トン以上搭載。アフリカゾウ30頭以上の重さの燃料を約5分で燃やし、宇宙に到達する計算だ。

 推進の原理は、ジェット飛行機と同じだが、ジェット機は酸素を大気中から取り込んでいるので、宇宙を飛ぶことはできない。

 ロケットは、「液体燃料ロケット」と「固体燃料ロケット」に大別される。

 H3は、液体燃料ロケット。液体の燃料をパイプで送り込むため、水道の蛇口を開け閉めするように、エンジンを噴かしたり弱めたりする調整がしやすい。ロケットを軽量化できるメリットもあり、大型ロケットはすべてこのタイプだ。

 一方、燃料を混ぜて固めたものが固体燃料ロケット。花火のように一度点火すると燃え続けるため制御や大型化は難しいが、同じサイズの液体燃料ロケットよりも大きな力を生み出せる。

 打ち上げ直前まで燃料を注入する液体燃料と違い、あらかじめ燃料を詰めた状態で保管でき、取り扱いが便利。開発も比較的容易で信頼性は高い。

部品100万点 「複雑で巨大なシステム」

 近代ロケットの開発が始まって約1世紀がたつ。ロケット開発はなぜ難しいのか。

 ロケットは、燃料を送り込むパイプや弁、ポンプなどからなる複雑な機械だ。H2Aは、部品約100万点、関係企業約1千社と言われる。

 「ロケットは複雑で巨大なシステム。大量の部品や人を一つにまとめ上げる能力がカギになる」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の的川泰宣名誉教授(宇宙工学)はそう指摘する。

 初号機ゆえの難しさもある。

 的川さんはロケット初号機の開発に6回ほど関わった。「初号機は、うまくいっていた前のロケットから大きな設計変更がある。従来と違う組み合わせが生じ、チェックが漏れることもある。そこが初号機の危険性」と言う。

 的川さんは、「ロケットは、うまくいっているものは変えてはいけない」という米アポロ計画を主導したロケット科学者フォン・ブラウンの言葉をよく覚えている。

 「ロケット開発者は、この言葉を金言のごとく受け止めている。新たに変更する時は相当な覚悟をもち、入念にテストをする慎重さが必要なのは今も変わらない」

 技術を持つ人材も重要だとい…

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この記事を書いた人
石倉徹也
科学みらい部
専門・関心分野
数学、物理、宇宙・天文