「全部燃えてなくなった」でも消えない思い 輪島の球児、笑顔の夏に

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小崎瑶太
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 「最近、部活はどうなんや?」

 3月上旬、金沢城公園(金沢市)に近い石川県文教会館の会議室。担任教諭の奥野拓海さん(31)に正面から問われ、県立輪島高校野球部の秋田憲秀(かずほ)さん(3年)は言葉を絞り出した。

 あんまり練習に参加していないこと。授業も休みがちなこと……。

 今の自分を言葉にするうちに、思いとともに涙があふれた。

 「自分の中心は野球。でも、全部燃えてなくなってしまった」

 「輪島朝市」で知られる輪島市河井町に、秋田さんの自宅はあった。

 大みそかは中学時代の友だちを招いて夜更かしした。

 のんびりと過ごしていた元日の夕方、3階建ての自宅を激しい揺れが襲った。

 2階のリビングにいた秋田さんは、頭からこたつの中にもぐりこんだ。まもなく、スマホ大津波警報の発令を伝えた。

 母の美和さん(49)らは避難する前に3階から貴重品を持ち出そうとしたが、隣家が倒れてきて階段を上れずにいた。

 秋田さんは声を張り上げた。

 「おかん、すぐ逃げよう!」

 外に出ると、崩壊した家屋が近くの道をふさいでいる。車で逃げることは諦め、歩くしかなかった。

 途中で「乗れ!」と声をかけてくれた近所の人の車に乗り込み、高台へと逃れた。

 日が暮れる中、自宅のある市街地の空が赤く染まっていた。

 「ボーン」「パチーン」と何かがはぜるような大きな音が、あたりに響いた。

 カーナビのテレビは、輪島朝…

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この記事を書いた人
小崎瑶太
金沢総局|県警担当
専門・関心分野
災害、事件、表現の自由
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