「石丸旋風」の先に 政治を侵食していく「論破」のSNS文化
山腰修三のメディア私評
今回の東京都知事選に関する話題が尽きない。言うまでもなく、それは前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏の躍進による。選挙から1カ月が経過してなお、テレビや新聞、ネットで「石丸旋風」の評価をめぐり議論が続いている。
留意すべきは、そのイデオロギーや主張にはとくに新規性がないことだ。「改革」が政治におけるマジックワードになった1990年代以降、既成政党や「既得権益」との対立構図を示し、ビジネスの論理に基づいた「改革の政治」を喧伝(けんでん)する新自由主義的ポピュリズムの言説を民意は一貫して支持してきた。つまり、今回示された民意は小泉現象や維新の会の躍進といったこれまでの「改革の政治」の系譜に位置づけられるものである。この系譜においては、より新鮮でしがらみのない存在とみなされることが重要で、石丸氏はこうした条件を満たしていたため支持されたと考えられる。
この選挙結果が驚きをもって受けとめられた要因は、SNS上でこれまで蓄積されてきた手法の活用によって無党派層からの多数の支持の調達を実現できた点にある。よく知られるように、情報が過剰に溢(あふ)れかえるネット空間においては、人々の感情や関心を喚起して注目を集める文化が発達してきた。石丸陣営の炎上をいとわない発言や切り抜き動画の拡散などはいずれもこうしたアテンション・エコノミーの特性を踏まえた戦略だと言える。ユーチューブやX(旧ツイッター)などを通じた一連の選挙戦略は今後、政治の世界に広がっていくことが予想され、マーケティング的発想に基づくデータ分析と組み合わせながらさらに洗練化されていくであろう。
そこで、こうした状況が私た…