災害情報の伝達、防災無線が再評価 識者「地域に合わせて選択を」
童謡「夕焼け小焼け」が聞こえたら早く家に帰ろう――。屋外スピーカーから流れるメロディーは、放課後に夢中で遊ぶ子どもたちへ帰宅を促す合図でもあった。
地域によっては正午などの時報に使われ、生活の一部にもなっている屋外スピーカー。宮城県南三陸町では新世紀エヴァンゲリオンの主題歌「残酷な天使のテーゼ」が流され、千葉県館山市はX JAPANの「Forever Love」、東京都八王子市では松任谷由実さんの「守ってあげたい」が特定の時刻を告げている。
だが、本来の姿は地域住民の命を守る「防災行政無線」だ。メロディーや時報を流すのは「正しく作動しているか」を確認するためでもある。
地震に津波、台風や洪水など、日本列島は自然災害のリスクと無縁ではいられない。避難指示などの情報を速やかに地域住民へ伝えることは、自治体にとって重要な課題だ。
今年は能登半島で地震や豪雨が相次ぎ、自然災害とどう向き合うかを改めて考えさせられる年となった。メールやSNSといった時代にあわせた対応が増えるなか、屋外拡声子局(屋外スピーカー)や戸別受信機(防災ラジオ)など、昔ながらの「災害情報伝達システム」の有効性が再認識されている。
長崎県佐世保市。日本最大級のテーマパーク「ハウステンボス」が人気を博し、複雑に入り組んだリアス海岸と208の島々からなる「九十九島(くじゅうくしま)」も、自然を満喫できる観光スポットとして有名だ。
離島以外も平坦(へいたん)地に乏しく、いたるところに山岳丘陵が起伏しているのが特徴でもある。自然環境に恵まれた地形だからこそ、災害情報を行き届かせることの難しさもあった。
佐世保市防災危機管理局の担当者は「起伏が激しい土地柄で、防災行政無線の電波が通じにくい。災害情報を伝えることに苦慮してきました」と振り返る。
2010年からデジタル防災無線の整備を進めていると、課題も出てきた。「屋外スピーカーの音声が聞きにくいという声が多く寄せられました」。屋外スピーカーを増設すると「うるさいという声も増えました」。
こうした課題を解決するために選んだ方法は、防災ラジオを全世帯に無償貸与することだった。台風や大雨のときは屋内に退避し、窓を閉め切っている住民がほとんどだ。
「屋外スピーカーの音声は(暴風雨の音にかき消されて)ほぼ聞こえない。災害情報を確実に伝えるためには、屋内にいても聞こえる防災ラジオの導入も必要だと判断しました」
佐世保市は防災無線とは別に、防災ポータルサイトも立ち上げた。メールの配信に加え、LINEやX(旧ツイッター)といったSNSなども活用している。
既存のインフラだけに依存せず、コストのかかる防災無線にこだわるのはなぜか。2018年9月の北海道胆振(いぶり)東部地震で浮き彫りになった現象がきっかけとなった。
北海道で最大震度7を観測し、日本初のブラックアウト(全域停電)が道内で発生。約45時間に及んだ停電で通信や交通などが滞った。
「停電や携帯電話の停波などに対応するには、非常事態に強い防災無線が必要だと改めて認識させられました」
アナログ防災無線の更新も控え、佐世保市では新しい防災システムの導入を検討していた時期だった。従来型の防災無線に加え、携帯電話通信網やIP通信網など既存インフラを使った防災システムも含めて検討した結果、ポケベル波に着目した。
ポケットベルの個人向けサービスは2019年に終了したが、その電波は高出力で遠くまで行き渡り、家の中にも届きやすい。送信局や屋外スピーカーの設置数を減らすことができて、防災ラジオのアンテナ工事も必要ない。導入費も維持費も抑えられるという利点もあった。
大規模災害やブラックアウト…