熊本市中心部に、高さ制限超すビル次々 熊本地震を機に防災を優先

伊藤隆太郎
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 建築物の高さ制限がある熊本市の中心部で、制限を超すビル建設が相次いでいる。古い物件の建て替えをうながす市の「まちなか再生プロジェクト」に基づく特例承認のためだ。プロジェクトを利用する初のマンション建設も承認の見通しになった。

 市中心部の熊本城周辺は、海抜55メートルの高さ制限がある。50メートルある城の石垣を基準に、その上の樹木を超えないように設定され、天守からの眺望や周辺の景観を守ってきた。

 しかし2016年の熊本地震で状況が変わった。市は一帯の耐震性や防火性の向上と、避難や救助のための空間確保をねらい、19年に再生プロジェクトを開始。建て替えが進むように、条件がそろえば市景観審議会の審査を経て制限緩和される制度にかじを切った。

 55メートルの制限ができたのは1991年。ただしその後も再開発事業などで制限緩和はあった。しかしその数はほぼ「2年に1棟」のペース。ところが再生プロジェクト後はこれまで4件が承認され、うち3件がプロジェクト利用。現在もさらに1件が承認の見通しで、ほぼ「1年に1棟」へと倍増している。

 これまでの再生プロジェクトによる特例承認は、新市街アーケード沿いの複合ビル「テラス87」、辛島町の「日本生命熊本ビル」、桜町の「NTT西日本桜町ビル」。さらに11月、「南坪井町マンション」が市景観審議会で委員の理解を得た。

 南坪井町マンション計画は18階建て、高さ58・77メートル(海抜73・6メートル)。住居46戸と店舗2軒が入る。建設予定地には創業400年を超すとされる和菓子店「老舗園田屋」があり、マンション業者は「老朽化した園田屋を建て替えて、地域経済の活性化やにぎわいに貢献する」と意義を訴える。

 景観審議会では委員から「高さ基準がありながら、なぜ特例承認という制度があるのか」と疑問も出た。また今後の景観形成の方針を問う声もあった。

 これに対して市は、まちなか再生プロジェクト制定の経緯を説明し、①敷地の最低面積②敷地内の空地率③前面道路の道幅といった条件が適合していることを示した。また熊本城からの眺望などを「可能な限り保全する」と理解を求め、委員も認めた。審議会ではほかにも、マンションの外観デザインに細かな注文が付き、業者側は修正案を示している。

 市は「10年で100件の建て替え」を再生プロジェクトの目標に掲げる。全部が特例承認を求めるわけではないが、大型ビルは今後も早いペースで増えそうだ。

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