(社説)ふるさと納税 抜本的是正が急務だ

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 ふるさと納税の利用額が年1兆円を超えた。税収を流出させ、高所得者ほど恩恵が大きい「官製通販」がもたらすゆがみも広がるばかりだ。政府は仲介サイトのポイント付与を禁止する方針だが、弥縫(びほう)策にすぎない。抜本的な是正が急務だ。

 この制度は、個人が自治体を選んで寄付すると、住民税などの減税により実質2千円の負担で特産品などをもらえる仕組みだ。菅義偉前首相が総務相時代に主導し、08年に始まった。

 23年度の寄付総額は約1・1兆円に達した。自治体の返礼品競争や仲介サイトの宣伝で認知度が高まり、4年前の2・3倍に伸びている。

 最大の弊害は、膨大な税収が失われることだ。寄付額の約3割が返礼品調達に回り、事務経費や仲介業者の手数料なども含め半分が消える。寄付先は人気の特産品を持つ自治体に集中し、利用者が多い大都市は多額の税収を失う。国が穴埋めする部分もあるが、結局は国民負担だ。

 利用できる枠は高所得者ほど大きく、節税の手段になっている。所得再分配を弱め、社会の公正を損なう。「お得な商品カタログ」のような仲介サイトを見れば、形は寄付でも、見返り目当ての人が多いのは明らかだろう。

 総じて「ふるさとへの貢献を促す」という大義名分からかけ離れ、政策として無駄や欠陥があまりに多い。

 最近は、仲介サイトが利用者を囲い込もうと、「ポイント還元」の競争を繰り広げている。返礼品の額は寄付の3割までとする規制があるが、ポイントが「隠れ返礼品」のようになっている。ルールの穴をふさぐのは当然だ。

 ポイント禁止には、仲介サイトを運営する楽天が反発している。民間企業が創意工夫するのは自由だが、巨額の公金を扱う仕組みである以上、政策目的が優先されるべきだ。大手企業には相応の社会的責任もある。「お得さ」を強調して「集客」を競う手法が、寄付の本旨に沿ったものと言えるだろうか。

 ポイント禁止はゆがみを正す一歩ではあるが、これだけでは不十分だ。最近は大都市圏の自治体も寄付集めに力を入れ、新たな競争が広がりつつある。規制の「抜け穴」を探す動きも続くだろう。

 松本剛明総務相は「返礼品目当てではなく、寄付の使い道や目的に着目して行われることが制度の意義」と述べた。ならば実現を図るのが自身の責任だ。返礼品の廃止や利用枠の大幅縮小など、制度を根本から見直し、不毛な競争を終わらせる必要がある。

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